コラム:若林ゆり 舞台.com - 第27回
2015年6月4日更新
第27回:異才イケテツが挑むウエスタン・アクションコメディに漲る西部劇魂!
イケテツが挑む演劇的“進化”は、アクションやミュージカル・シーンの多様さからも見て取れる。とくにガン・アクションは、かなりこだわっている部分だ。
「先日、堤幸彦さんが演出した『真田十勇士』の舞台を拝見したら、フライングと殺陣がすごくて人がバッタバッタ死んでいくんですけど、女性のお客さんたちがちゃんと『キャー』って喜んでいたんですね。劇団新感線だけじゃなくて、殺陣ってこんなふうに受け入れられているんだ、ならガン・アクションもイケるなって思ったんです。『テニミュ』(『ミュージカル テニスの王子様』)の面白さって、飛んでいる球が実際に見えることだったりするじゃないですか。ガン・アクションでも何かそういう新しい発見があれば、お客さんが喜んでくれるはずだなと思って。でも、本当に銃をあまり撃っちゃうとビクッとしちゃうだろうし、いま考えているのは『顔で撃たれてもらう』ってこと(笑)。よくダンスでも『顔で踊る』ってあるじゃないですか。それみたいに、顔のリアクションで死ねればいい(笑)。活劇として壮大に、いかに面白く死ぬか。技術に頼らず、役者力に頼ろうと思っています」
個性たっぷりのキャラクターを演じるのは、バラエティに富んだ魅力的な俳優陣だ(イケテツ自身は娼婦役!)。あて書きはせず、“意外性”重視のキャスティングをしたというイケテツは、揃った面子に満足げ。
「僕自身が役者でやらせてもらうときに『じゃ、いつもの感じの池田さんで』って言われるとあんまりテンションが上がらないんですよ。でも『これくらいのことやってもらっても大丈夫ですよね?』って言われると『頑張ろう!』って気になるので、今回も実はみなさんに『こんなことしてもらっちゃっていいのか!?』ってことを課しています。田口さんは超悪役なんですけど、田口さんって僕のなかではものすごく熱い人で。あの熱さがたまにコワく見えるのでコワい役も似合うはずだって思ったら、やっぱりハマっていらっしゃる。佐藤真弓さんはおじさんですし(笑)、栗原類くんに至っては馬ですよ(笑)。すごくやりたがってくださって。若手のみなさんも、普通ならあり得ないような設定やセリフで驚かせますからね。とにかく“面白がり力”をもった人たちが集まってくれたので、本当によかったなと思っているんです」
池田鉄洋は3年前、20年間所属していた劇団「猫のホテル」を退団。在団中から立ち上げていたコントユニット「表現・さわやか」での活動を続ける一方で、外部から依頼された企画公演での作・演出・出演はこれが3本目となる。映画では『行け! 男子高校演劇部』の脚本を手がけているが、映画監督はまだやらない?
「まだ正直、コワいですね。昔、TVの監督やったんですけど、風当たりがキビシくて(笑)。でも日本の映画界にはコメディの土壌がないから、どこかでやってみたいとは思っているんです。実はこの作品も、日本映画になりうるなと思っていて。ウエスタンショーの一座が回顧録みたいに話しているうちに、過去の世界に入っていって……というふうに書き直して、どこかに出したい」
ぜひぜひ映画としても世に出してほしいが、その前にまずはこの舞台版。ゆるくもヘタレな笑いの中に脈打つ、堂々たる西部劇魂を楽しんでほしい。
「西部劇って、どれでも疾走感のあるシーンが非常に利いていると思うんですよね。『3時10分、決断のとき』は悲壮感たっぷりのドラマの中でもチェイスがあるし、『ローン・レンジャー』も最後、2つの列車が大掛かりなチェイスをするし、馬のチェイスもあって。『バック・トゥ・ザ・フューチャーPART3』もそうでしたね。だからこの作品も最後はシンプルに、ドドドドドッて疾走して終われればいいなと思っています。これは書いていくうちにどんどんスピードがついていって、楽しいまま書き終われた。その楽しさはそのままお客様にも伝わるんじゃないかなと思っています」
「GO WEST」は2015 年6 月4 日(木)〜6 月14 日(日)、天王洲 銀河劇場で上演。
詳しい情報は劇場の公式HPへ。http://www.gingeki.jp/performance/index.php?date=201506
筆者紹介
若林ゆり(わかばやし・ゆり)。映画ジャーナリスト。タランティーノとはマブダチ。「ブラピ」の通称を発明した張本人でもある。「BRUTUS」「GINZA」「ぴあ」等で執筆中。
Twitter:@qtyuriwaka