コラム:若林ゆり 舞台.com - 第26回
2015年4月6日更新
第26回:熱血サッカー少年だった柿澤勇人がミュージカル版「デスノート」でゴールを目指す!
日本が世界に誇るコンテンツと言えば、マンガとアニメ。そしていま、日本の演劇界ではマンガ・アニメをミュージカル化して世界へ発信しようというムーブメントが起きている。なかでも豪華なキャスト・スタッフを起用し、本格的な仕上がりを見せそうな作品が「デスノート The Musical」だ。
原作は世界中で大ヒットを記録し、アニメ化、実写映画化も大成功した超有名コミック。これをミュージカルで表現するため音楽を一任したのが、ブロードウェイで「ジキル&ハイド」などを手がけたヒットメーカー、フランク・ワイルドホーン。プロジェクトの本気度がわかるというものでしょう。そして本作で、名前を書いた人間を死に至らしめる“デスノート”を手にした天才少年、夜神月(やがみライト)役を、浦井健治とのWキャストで演じるのが、柿澤勇人だ。劇団四季が上演したブロードウェイ・ミュージカル「春のめざめ」で頭角を現し、四季を退団後も映画・TVを含めて多彩な経験を積んで、頼もしい若手実力派に育った柿澤。彼にとって、複雑な月(ライト)は大きなチャレンジだという。
「月の難しさは、誰よりもピュアで純粋だった人間が、どんどん変わっていくということころなんです。これだって信じていたものがだんだんねじれてきて、違う方向にどんどん進んでいってしまう。本当に複雑ですよね」
共感と不快感をどちらも呼び起こす月だが、個人的に共感できるところは?
「若い10代のときって根拠のない自信がありがちというか、『絶対こうなんだ、自分が思っていることは絶対正しい』っていうふうに思う傾向がある気がしていて。そこは共感できるんです。実際に自分がデスノートを持ったとしたら、あそこまで行くのかはまだわからないですけど(笑)。正義を振りかざしてみんな自分を正当化して生きているけど、ちっとも世界はよくなっていないじゃないか、何なんだよっていう気持ちには共感します」
原作は、映画化のタイミングで読み、奥の深いドラマに圧倒されたという。「すごいな」と感嘆した映画版で月を演じた藤原竜也は、「カイジ2」などで共演経験もある、所属事務所のよき先輩。
「僕が月役に決まったとき、報告したらすごくよろこんでくれて。冗談で『なんでオレにオファーが来ないんだ』って言ってましたけど(笑)。竜也さんのイメージは強いと思いますしプレッシャーですけど、映画版とミュージカル版とは別物なので。結末も、映画ともマンガとも違う描かれ方をしているんです。それでも、映画のファンにもマンガのファンにも『お、ここでその名ゼリフ来たかっ!』とか『この名シーン来たな』というところが随所にあると思いますので、楽しんでもらえると思います。アッと驚かせる自信もすごくありますね」
今回のポイントは、なんといっても月やLが“歌う”ということだろう。これが心配な人もいると思うが、稽古場をちょっと見ただけで「へえー」と思わされた。違和感がなく、この原作の世界観や心理劇を表現するのにミュージカルは意外なほど適していると実感させられたからだ(吉田鋼太郎が演じる死神、リュークの自由さにも惚れ惚れ&爆笑!)。
「いわゆるミュージカルって、歌を綺麗な声で朗々と歌って、ってイメージを持っている方も多いと思うんですけど、栗山(民也)さんの演出が目指しているのはむしろ真逆。客席の方々が『何だよ、いきなり歌いやがって』って引いちゃうことがないようにしたい」
しかし、ワイルドホーンの楽曲はロックなテイストもあって、非常にドラマティック。気持ちよく歌い上げたくはならない?
「いや! 役者が気持ちよく歌ったらミュージカルは終わりだ、って僕は思っていて。ミュージカルで歌って気持ちいいと思ったことは1回もないんですよ。苦しい曲を歌うときは本当に苦しいですし、今回も月としてハッピーなことはほぼないですね。たとえば月がデスノートを手にして、人を殺してしまったというときに歌う曲があるんですけど、それを朗々と歌ったり、力強く歌うことは簡単なんです。でもそうじゃなくて心の葛藤や揺れを乗せて歌ったとき、ワイルドホーンさんのカッコいい曲とうまくマッチすれば絶対、お客さんに思いを届けることができると思うんです」
筆者紹介
若林ゆり(わかばやし・ゆり)。映画ジャーナリスト。タランティーノとはマブダチ。「ブラピ」の通称を発明した張本人でもある。「BRUTUS」「GINZA」「ぴあ」等で執筆中。
Twitter:@qtyuriwaka