コラム:若林ゆり 舞台.com - 第125回
2024年7月3日更新
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第125回:バレエが好きでたまらない! 夢を叶える3代目「ビリー・エリオット」たちの奮闘に心震える!
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撮影:若林ゆり
ミュージカル史に燦然と輝くミュージカル「ビリー・エリオット~リトル・ダンサー~」が、この夏から秋まで5カ月にわたり、日本で3度目の上演を果たす。1980年代、イングランド北部の炭鉱町を舞台に、バレエという夢に出合ったひとりの少年の成長と、その周辺の人々を描くこの作品。2000年に公開されたスティーブン・ダルドリー監督の映画「リトル・ダンサー」も素晴らしい出来だが、これをダルドリーの演出、エルトン・ジョンの音楽でミュージカル化した本作「ビリー・エリオット~リトル・ダンサー~」は、ミュージカルとしても人間愛のドラマとしても、これ以上望めないほどの感動を与えてくれる大傑作なのだ。
この作品の魅力は、何と言ってもビリー・エリオット役で夢を叶える少年たちによるところが大きい。大規模な育成型オーディション(今回は応募総数1375人!)を経て選び抜かれた4人の少年たちが、長い稽古期間に努力と切磋琢磨を重ね、著しく成長。その成果が夢へと突き進むビリーのドラマと重なり、観客の胸を熱くする。
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(C)ホリプロ
今回、クワトロ・キャストとしてビリーを演じるのは、浅田良舞(あさだ・りょうま)、石黒瑛土(いしぐろ・えいと)、井上宇一郎(いのうえ・ういちろう)、春山嘉夢一(はるやま・かむい)の4人。いずれも幼い頃からバレエを習っている精鋭ぞろいだ。その4人に、作品に懸ける思いを語ってもらった。
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撮影:若林ゆり
まず、4人のバレエ歴、この作品に出合ったきっかけ、ビリーになりたいと思った理由を聞いてみよう。
浅田良舞 僕は両親がバレエダンサーなので、2歳の頃から踊り始めました。そして、通っているバレエスタジオの先輩ふたり(加藤航世くんと利田太一くん)が、ビリーを演じていたのを見て、「次は僕がやりたい」と憧れました。僕と同じ年代の男の子が、僕の大好きなバレエと向き合っている物語で、「自分ならできる」と思ったからです。
石黒瑛土 母がバレエダンサーで講師をしていて、兄と姉も習っていたので、僕も3歳からバレエを習い始めました。きっかけは良舞くんと同じで、先輩の舞台を見て。僕もダンスが大好きという気持ちは誰にも負けないし、自分がやりたいことに全力を尽くし、前向きにがんばっているビリーに共感したからです。
井上宇一郎 僕も両親がバレエダンサーだから自然にやりたくなって、2歳からバレエを始めました。母に勧められてミュージカル版「ビリー・エリオット ミュージカルライブ リトル・ダンサー」と映画「リトル・ダンサー」のDVDを見て感動して。「僕もやってみたいな」と強く思いました。
春山嘉夢一 僕はみんなより少し遅れて、5歳からバレエを習い始めました。「バレエを踊ってみたい」と急に思いついて。ビリーを目指したのは、バレエを始めた頃に「ビリー・エリオット」を見て、ものすごく共感したし感動して「絶対ビリーになりたい!」と思ったからです。
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撮影:若林ゆり
それぞれの出合いはミュージカル版だったが、全員、映画「リトル・ダンサー」のDVDも見たそう。その感想は?
浅田 映画も、バレエダンサーを目指す少年たちの夢を後押ししてくれる作品だと思いました。
井上 ビリーがお父さんに隠れてバレエをやっていたのにバレて、お父さんの前で踊るシーンはミュージカルの「Dream Ballet」と同じ部分なんですけど、全然違っていて。映画のビリーは、「自分はバレエをやりたいんだ」っていう気持ちをすごく感じました。ミュージカルでは、「Electricity」の場面で、ビリーの「バレエをやりたい」という気持ちが伝わってきて感動しました。
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撮影:若林ゆり
石黒 お父さんに内緒にしてまでバレエに通い続けたということは、「本当にバレエが好きな少年なんだなあ」と思いました。厳しいお父さんの心を動かして、周りのみんなの心も動かして、「不可能」を「可能」に変えたビリー。僕の心も動かしてくれた映画です。
春山 ミュージカルじゃないから、映画では歌わないんですよね。最初は「バレエは女の子 がやるものだ」と思っていたけど、バレエをやっていくうちにだんだんと興味が湧き、いつしかのめり込んで、ビリーにとっても唯一の楽しみとなっていったところがとてもよくわかって、共感できました。舞台でもそれを表現できたら、と思います。
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撮影:若林ゆり
2023年春のオーディション選出から始まった厳しい稽古も、いよいよ佳境。稽古を重ねていくうちに、よりビリーの気持ちが実感できた、もっとよくわかるようになったと思うところは?
浅田 お父さんに大好きなバレエを禁止されて、その思いを踊りにぶつける「Angry Dance」です。僕もビリーも、気持ちを発散できるのは踊りだから。踊っていて感情が高まってきて、感情のまま踊れるというか。ビリーが怒っていることをもっともっと出せるように踊りたいです。自分が嫌だったことを思い出したり、不満で怒っていることを出したりして踊っています。
石黒 僕も「Angry Dance」と、フライングをする「Dream Dance」です。フライングは見ていたときに感動したシーンだったから楽しみにしていたんですけど、やってみたら初めて「空を飛んでいるような気持ちってこれなんだ」と思い、ビリーが踊っているときに感じる気持ちがわかりました。最初は体幹でバランスを取るのに苦労したんですけど、乗り越えたら楽しく感じられるようになってきて。「Angry Dance」は、自分の持っている「迫力」という長所をいちばん出せるシーンだと思っています。表現力とか、エネルギーを思う存分出せるから。演技は、ビリーの気持ちや意図をより正確に伝えれば伝えるほど完成していくので、「もっと完成させたいな」と思うし、完成に近づいていくのが楽しいです。
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撮影:若林ゆり
井上 ビリーがだんだんバレエに引き込まれ、バレエを大好きになる気持ち、ビリーの踊っているときの気持ちに共感しています。ロンドン版のDVD「ビリー・エリオット ミュージカルライブ〜リトル・ダンサー〜」でエリオット・ハンナくんが踊っている「Angry Dance」を見たとき、集中力がすごいなと思いました。集中力とか気迫がすごく伝わってきて、「ゾーンに入っているな」と感じたんです。僕もそう感じてもらえるようにがんばりたいなと思って、そこを意識しています。
春山 僕は「ビリー・エリオット」を初めて見た4年前から好きなシーンがあって。ひとつはお母さんの手紙を読むシーン。すごく感動したので。それと、「Dream Ballet」がすごく「好きだな、好きだな」と思っていました。手紙のシーンは稽古をしていくうちに、一層ビリーの気持ちがわかるようになってきたし、もっともっとわかりたいです。「Dream Ballet」は練習していて苦手なところもあったんですけど、だんだんと空を泳いでいるイルカみたいな気分になってきて(笑)。風を感じたり、風になったような気分で、ものすごく楽しいです。
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撮影:若林ゆり
製作発表で初めて舞台の上で、オーディエンスを前にパフォーマンスを披露した時は「どんな気持ち」を感じたのだろう?
浅田 最初は緊張したんですけど、踊り始めたらもう楽しくて。あっという間に終わってしまいました。
石黒 自分の踊りをお客様に見てもらうことができて、大きな拍手をもらえて「最高!!」でした!
井上 最初の歌のところでは緊張したんですけど、ダンスのシーンになってから緊張がなくなって、いつも以上に楽しかったです。
春山 最初は緊張したけど、踊り始めたらスポットライトが当たって、天国に行ったような気分でした(笑)。
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撮影:若林ゆり
この役はバレエのみならず、歌や演技に加えてタップダンスや器械体操など、やりこなさなければならない課題が山積み。それぞれが稽古を深めていくなかで、苦労をしているところ、自分が課題を乗り越えたな、成長したなと思うところは?
浅田 僕は歌。最初はうまく歌えなくて苦手だったんですけど、練習していくうちに、いまは少し音程を取れるようになってきて。ちょっと、得意になったかなと。苦手だった歌が、だんだん気持ちよく歌えるようになってきました。もっとがんばりたいです。
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撮影:若林ゆり
石黒 僕はふたつあります。ひとつはタップで、ずっと「みんなより遅れをとっているな」と考えていたせいで集中力も減ってしまって。でも人と比べないで自分のことに集中して取り組んでいたら、いまは「追いつけたかな、みんなと同じところに行けたかな」と思っています。あとは、歌。お兄ちゃんとゲームのことなんかでケンカして大声で泣いたりしていたから、もう声がカラカラで(笑)。声がどんどん低くなって、高い声なんか出せなかった。でもハスキーだった声がだんだんと高い声も出せるようになってきました。まだまだなんですけど、最近は高い声もどんどん出せている気がします。
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撮影:若林ゆり
井上 僕は、まず演技です。相手に思っていることを伝え、意図をしっかり出すというのが、最近、どんどんできるようになってきた気がします。それから、僕は振りとかがまだ完全じゃなくてみんなに追いついていないと感じていたときに、スタジオを借りて、ひとりで練習をしていました。それで、練習したことができるようになった、ということに自分で成長を感じました。
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撮影:若林ゆり
春山 僕は器械体操。稽古場の床が斜めになっていて、最初は感覚がつかめなくて「やりづらいな」って感じでした。でもだんだん慣れてきて、最後の「Electricity」のロンダートバク転を床でできるようになったんです。まだ本格的な稽古はこれからだけど、できたときはすごくうれしくて、成長したかなと思いました。まだまだなんですけど。
筆者紹介
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若林ゆり(わかばやし・ゆり)。映画ジャーナリスト。タランティーノとはマブダチ。「ブラピ」の通称を発明した張本人でもある。「BRUTUS」「GINZA」「ぴあ」等で執筆中。
Twitter:@qtyuriwaka