コラム:若林ゆり 舞台.com - 第12回

2014年8月6日更新

若林ゆり 舞台.com

第12回:巨大な馬のパペットが息づき、想像力に訴える! 名舞台「ウォー・ホース ~戦火の馬~」で文楽に学び、パペットに魂を吹き込む俳優たちを直撃。

イギリスの農家に育った少年アルバートと、賢く美しい愛馬ジョーイとの間に生まれた絆。イギリスの児童文学作家、マイケル・モーパーゴの名作を舞台化した「ウォー・ホース ~戦火の馬~」は、07年にロンドンのナショナル・シアターで初めて上演されるや大評判に。ウエストエンドからニューヨーク、さらに世界ツアーへと広がり、各地で「奇跡の舞台」と絶賛される感動作だ。そう、あのスティーブン・スピルバーグ監督をたちまち魅了し、「映画化しなければ!」と決心させたのが(その結果が2011年の「戦火の馬」)、この舞台なのである。

その「ウォー・ホース」がついに、日本へ上陸。世界を魅了した“本物”を、渋谷で見ることができるとは! 何がすごいって、馬である。まるで巨大なハリボテ馬のように見える実物大(より少し大きい)のパペットは、文楽に多大な影響を受けたという南アフリカのパペット製作会社が手がけたもの。俳優が3人がかりで操るその馬が、実際に生き、うれしがったり泣いたりしているようにしか見えない! シンプルでアートフルなセットと照明のなかで、第1次世界大戦に翻弄される馬ジョーイと、その目に映る戦争や馬、人間たち。そしてアルバートとジョーイの愛が、確かに見えるのだ。そこで、ジョーイを操演している3人の俳優に話を聞いた。

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3人のジョーイ俳優は、それぞれまったく違ったバックボーンをもっていた。もともとロンドンのパペット劇団に所属しており、ウエストエンド公演から出演しているカート・ジェームス、ニューヨークで文楽を扱う劇団にいて、ブロードウェイでオーディションに合格したジョン・ホッシュ、そしてカナダを拠点にミュージカル女優として活躍、トロント公演から参加したというデイナ・ティーゼン。

「僕たちは3つのパートに別れてジョーイを演じているんだ」と、カートが説明してくれる。「まず、僕は頭部の担当で見る、考える役割。パペットの外側にいて、顔や耳を操作して感情表現をする。2人はパペットの中に入っていて、ジョンはハート(真ん中)の担当。向きを決めるのと息づかいを演じているんだ。デイナがやっている後方(お尻)の担当は前2人の動きについていくだけではなく、尻尾を操ったり、リアクションをとることも大事なんだよ」

この3人のチームワークと演技が、ジョーイに魂を吹き込んでいる。3人はまさに一心同体だ。

「たとえば僕はハートの役割として、息づかいだったらゆっくりか、静かにしているのか激しくなのか、前後にいる2人の動きを感じとって演じていく。馬はだいたい息を吸った後に動くから、そのきっかけ作りにもなっているんだ。ちょっと怯えているときには息を止めたりとかね。お互いがパペットを通して感じ合っていくわけさ」(ジョン)

「この仕事の最も興味深く、重要なところは信頼こそがいちばん重要だということね。人間の役の人より長く、2カ月くらいはリハーサルを重ねたわ。最初のうちは押し合ったり引き合ったりして、たいへん(笑)。みんな個人個人で俳優として活動していたから、自分のやりたいようにやることに慣れているでしょう。でも、この仕事では自分の選択ではなく、みんなの選択に従って演じることになる。やっていくうちに、だんだんとそれを考えず、心で感じながらできるようになるの。最終的にはどの人がどのパートかなんて意識しなくてよくなったわ」(デイナ)

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そこまで息が合うようになるには、“飲みニケ―ション”もした?

「毎日ね!(笑)。僕らは働いている間中、ずーっと肉体的にもくっつけられて、ほかの俳優たちにはない関係性が生まれてくる。それがいいことでもあり悪いところでもあるんだけど、3人で結婚しているみたいなもんさ(笑)。しかもツアー・カンパニーだからいろいろな場所を回るよね。だから家族のように支え合っていかなきゃならないんだ」(カート)

筆者紹介

若林ゆりのコラム

若林ゆり(わかばやし・ゆり)。映画ジャーナリスト。タランティーノとはマブダチ。「ブラピ」の通称を発明した張本人でもある。「BRUTUS」「GINZA」「ぴあ」等で執筆中。

Twitter:@qtyuriwaka

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