コラム:若林ゆり 舞台.com - 第117回
2023年8月16日更新
第117回:ミュージカル版「スクールオブロック」の西川貴教が、人と人とが心でつながる尊さを熱くシャウト!
「スクール・オブ・ロック」(2003)は、とにかく熱い映画だ。ジャック・ブラック扮する主人公のデューイは、全身に漲るロック愛しか取り柄がないのに、ロックミュージシャンとして成功する夢を叶えられず、親友の家に居候するダメ男。そんなデューイがニセ教師として潜入した学校で、生徒たちと無理やりロックバンドを結成する。バンドバトルに向けてひとつになっていくデューイと生徒たちの姿に、心を熱くせずにはいられない!
映画公開から12年を経てブロードウェイで開幕したこのミュージカル版、なんと作曲は「オペラ座の怪人」などを手がけたアンドリュー・ロイド=ウェバー。これが楽しくないワケがない! 待望の日本版公演は2020年に上演されるはずだったが、コロナ禍により中止となってしまった。そして映画から20年目の今年、ついに日本版が開幕する。ここではデューイ役を演じる西川貴教(柿澤勇人とダブルキャスト)に、作品への思いを熱く語ってもらおう。
「映画版は公開当時に見まして、すごく好きでした。ジャック・ブラックのキャラクターが非常に印象深いのはもちろんですけれど、時代背景に僕自身のローティーンの頃が色濃く映し出されていて。出てくるアーティスト出てくるアーティスト、本当に僕にとっての音楽的な原体験に直結する人たちばかりなんです」
この作品が描き出すロック愛やバンドといったモチーフに共鳴するのと同時に、西川のなかには別の感慨も湧きあがっていた。
「20年前、一緒にしのぎを削っていたバンドやアーティストの仲間たちが、いまではどんどん少なくなってきている。そのなかにはやはり、デューイと同じように夢半ばで叶わなかった人たちもいて。僕は、努力を重ねながらも去らざるを得なくなったみんなの思いも『背負っていかなきゃいけない』と思いながら、ここまでやってきたところがあるんです。だから、デューイだけではなくネッド(音楽を諦めたデューイの親友)の気持ちもすごく胸に刺さりました。一歩間違えば、自分もそうだったかもしれないから。それに、2020年に選ばれながら舞台に立てなかった24人の子どもたちの思いも、今回は背負っていくわけですからね」
映画版のデューイは、親友ネッド役を演じ、ブラックとは実生活でも親友だったマイク・ホワイトが、ブラックのために当て書きした役。それだけに、映画はデューイがひたすら濃く、際立つ作品だった。しかし舞台版では、生徒たちそれぞれの心にももっとスポットライトが当たるというところも、大きなポイントだ。
「迷ったり、一歩を踏み出せなかったりする人にはすごく響く作品になっていると思います。それぞれの目線で見ていろいろなことを感じて、そして持って帰ったものをまた種として育てられるような作品になるんじゃないかな。それでもね、舞台版でもやっぱりデューイは大変です! この作品におけるデューイの仕事量たるや。僕はブロードウェイで偶然この作品を見ていたのですが、そのときから『デューイが本当に大変そうだな、日本でやるなら誰になるのかな?』と思っていました。まさか自分がやるとは(笑)。僕もこれまでいろいろな作品をやらせていただきましたが、これほどのテンションと場の支配感は、いまだかつて経験したことがない。僕だけつねに7割、8割のエンジンがかかった状態で、同じテンションをずーっと維持していなければいけないんですよ! 現実がわからなくなります(笑)」
デューイは無責任でだらしなく、かなり利己的なロックおたく。そんな姿に「しょうがないな」と呆れながらも、その一途な思いと愛嬌で「憎めないなぁ」と思わせる男だ。「憎めないロック野郎」はともかくとして、「だらしない」とか「怠惰」という要素は、西川のイメージからは、かなりかけ離れているように思うのだが。
「いや、僕だってだらしないですよ。見せないようにしているだけで、似たようなところはたくさんあります。だって本音を言えば、あんな風にだらだらしたいです。夏中ハワイから帰って来たくない(笑)。でも僕はしっかり計画を練って、周りとの整合性を取ってから物事を進めるタイプなので、ある意味では真逆。デューイはもうロック愛しかなくて、周りのことは『なんとかなるだろ』と思っていますよね。でも昔、バンドマンだった頃の僕って、もしかしたらこういう感じだったのかもしれない。いまでこそ皆さんと協力しながらやっていますけど、あの頃周りにいた当時のバンドのメンバーは、僕のことをデューイみたいに見ていたのかもしれないな、と思うんです」
筆者紹介
若林ゆり(わかばやし・ゆり)。映画ジャーナリスト。タランティーノとはマブダチ。「ブラピ」の通称を発明した張本人でもある。「BRUTUS」「GINZA」「ぴあ」等で執筆中。
Twitter:@qtyuriwaka