コラム:若林ゆり 舞台.com - 第108回

2022年8月9日更新

若林ゆり 舞台.com

第108回:「ラ・ラ・ランド」を愛するすべての人に、作曲家のハーウィッツが贈る夢のようなステージが来日!

「ラ・ラ・ランド」撮影の裏話や楽曲秘話を、作曲家ジャスティン・ハーウィッツが語る
「ラ・ラ・ランド」撮影の裏話や楽曲秘話を、作曲家ジャスティン・ハーウィッツが語る

どこか懐かしいのに、ものすごく現代的。ファンタジックなおとぎ話のようでありながら、非常にリアル。デイミアン・チャゼル監督渾身のミュージカル「ラ・ラ・ランド」(2016)は、現代の観客に訴える新しいミュージカルとして映画ファンの心を鷲づかみにした。そのマジカルな魅力を支える大きな力となったのが、ジャズを中心としたスタイリッシュな音楽だ。

この映画を愛する人なら、絶対に見過ごすことのできないステージが、この夏、日本にやってくる。映画の音楽を手がけた監督の盟友、ジャスティン・ハーウィッツによる指揮の下、映画を見ながらフル・オーケストラの演奏と60人の大合唱団を生で楽しめてしまう! そこにダンサーのパフォーマンスや花火などの特殊効果が加わり、しかもピアノ&キーボード演奏は、映画で名演を披露したジャズ・プレイヤーのランディ・カーバー! そんな贅沢なステージがPARCO Presents「LA LA LAND Live in Concert : A Celebration of Hollywood ハリウッド版 ラ・ラ・ランド ザ・ステージ」だ。

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来日を前に、ハーウィッツに話を聞いた。このステージの始まりは、映画が公開されてまもなくハリウッド・ボウルで開催されたフィルムコンサートだった。

「僕はこのショーのために、音楽の再構成をしたんだ。映画の場合は別々に撮った音楽をつなぎ合わせるという作業だったけど、コンサートでは通しでライブ演奏をするわけだから、そのための音楽として書き直す必要があってね。僕は観客が映画館で感じたのと同じようにロマンティックな雰囲気を味わってほしいと思ったし、それ以上の興奮を感じてほしかった。観客の琴線に触れ、思わず拍手喝采をしたくなるような音楽をつくりたいと思って、できる限りの努力をしたつもりだよ。そして新しく書いた音楽を2曲、お届けする。映画では使わなかった曲をアレンジしたものだ。まずは序曲。最初は映画のためにこの序曲を書いたんだけど、映画には必要ないって決断が後でなされたから、結局はお蔵入りしてしまったんだ。それにちょっと手を加えて、コンサートにふさわしい序曲として演奏する。そして休憩から2幕目へと入るときにも、新しい音楽を聞けるよ。この2曲はコンサートに来て、客席に座った人しか聞けないお楽しみだ」

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生の演奏から繰り出されるのは、まさに一期一会の音色。

「映画のライブ・コンサートとして『ラ・ラ・ランド』が楽しいのは、ジャズの曲がたくさんあることだと思う。ジャズは即興性の高い音楽だから、2度と同じ音にはならないんだ。しかも今回は、ランディが即興で、スコアには書かれていない音をたくさん披露してくれるだろうから、素晴らしいピアノパートを聞くことができるよ。たぶん半分くらいは新しいアレンジになるんじゃないかな。それはランディのパートに限ったことじゃない。トランペットもドラムもベースも、(音楽を)自分のものにして楽しみながら演奏してくれるだろうね。そういうジャズの神髄を楽しめるのが、このショーの醍醐味。ライブで聞くとよりエキサイティングで新鮮な音楽を楽しむことができるんだ」

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小さいころからクラシックの勉強をしてきたハーウィッツだが、ハーバード大学へ進学すると、人生を変える出来事を経験する。それが、チャゼル監督との出会いだった。チャゼルとバンドを組み、映画づくりをともにするようになったハーウィッツは、ジャズへとのめり込んでいく。

「デイミアンと一緒に初めてつくった映画『Guy and Madeline on a Park Bench』はジャズを取り入れたミュージカルで、『ラ・ラ・ランド』の前身のようなもの。まだ荒削りだったけど、僕らの映画づくりの原点だね。映画づくりを機に僕はジャズをうんと聞くようになって、ジャズがどんな構成になっているのか分析したりした。そのうちにジャズを表現するのが楽しくなってきてね。学校で学んだバッハのハーモニーだって、ジャズとそんなにかけ離れているわけじゃない。じゃあそういったクラシックの要素を取り入れてみても面白いんじゃないか。そんな風に、僕は映画音楽としてジャズの作曲をするようになったんだ」

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チャゼル監督とのコラボレーションではいつもそうだが、「ラ・ラ・ランド」でも、チャゼルが脚本を書くのと同時に音楽をつくりだしていったそう。

「彼にはまだ書き始める前から試行錯誤の途中にも、いろんなアイディアを聞いたよ。どんなキャラクターをつくるべきか、どんなシーンをつくるべきか、このシーンで表現する心情にふさわしいのはどんな音楽なのか。僕らは話し合いながら進めていった。だから僕はデイミアンのつくり出す物語や人物にインスパイアされながら、本当の意味でのコラボレーションを行っていたんだ。成功のためには野心と献身が必要だった。映画をつくり始めたとき、デイミアンと僕は20代半ば。『セッション』より前のことだから、僕らはまだ何もつくっていなかったし、お金もなくて誰にも知られていなくて、成功には遠かった。武器は献身しかなかったんだ。だから昼も夜もなく働いて働いて、必死で創作をし続けた。僕はその頃の一生懸命な気持ちを絶対に忘れず、持ち続けていたいと思ってる」(次ページに続く)

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筆者紹介

若林ゆりのコラム

若林ゆり(わかばやし・ゆり)。映画ジャーナリスト。タランティーノとはマブダチ。「ブラピ」の通称を発明した張本人でもある。「BRUTUS」「GINZA」「ぴあ」等で執筆中。

Twitter:@qtyuriwaka

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