劇場公開日 2017年10月7日

  • 予告編を見る

ナラタージュ : インタビュー

2017年10月5日更新
画像2

松本潤“曖昧な芝居”模索のなかで到達した「目の輝き40%」

恋は理屈じゃ計れない。「嵐」松本潤が、島本理生氏の恋愛小説を実写化した「ナラタージュ」(10月7日公開)で、約4年ぶりに映画主演を果たした。演じるは、元教え子と許されざる恋に落ちる高校教師・葉山貴司役。答えのない、曖昧模糊とした薄いベールに包まれた役どころには、松本自身にも葛藤があった。(取材・文/編集部)

画像3

2006年版「この恋愛小説がすごい!」第1位に輝いた同名原作を、「世界の中心で、愛をさけぶ」などの行定勲監督が映画化。大学2年生の工藤泉(有村架純)のもとに、高校時代の演劇部顧問・葉山(松本)から電話がかかってくる。葉山は高校生活になじめずにいた泉を手助けした恩師であり、恋心を寄せていた相手でもあった。時を経て再会し、かつての感情を抑えきれず互いを求め合う葉山と泉。しかし葉山の口から、離婚の成立していない妻の存在が告げられる……。

“ナラタージュ”とは、人物の回想によって過去を描写する映画表現を指す。物語は、社会人になった泉が葉山と過ごした日々を回想する形で進んでいく。松本は「僕というよりも、架純ちゃんの映画」と感じ、自身が“主演”とクレジットされることに、少なからず戸惑いがあったと告白する。

それでも、自分が葉山という男をどこまで表現しきれるか、その1点に吸い込まれるような興味を抱いた。「もちろん泉の物語であると今でも思いますが、葉山の“セリフに表れていないところ”をどこまで演じるかが、行定監督たちと話しているうちに『面白そうだ』と感じたんです。いくつか、台本を読み合わせながら『こういう風に思います』などと話したうえで、現場に入らせていただきました」。

傷だらけの泉に寄り添ったかと思えば、スッと、突き放す。それは自己愛ゆえか、はたまた他者愛ゆえか、葉山の行動は嵐にのたうつ凧のように揺れ続ける。泉も「先生のことがわからない」と吐露するほど、その心情は推し量れないのだ。松本にとっても、これまでのきらびやかな作品とは異なる表現が求められた。そこで提示したのは「伝えすぎない」ことだったという。

画像4

「伝えすぎず、伝わらなさすぎず。観客が『こうなのでは?』と想像するためのアクションはしますが、こちらが『こうだ』と断定することはあまりしなかったです。それは泉にも、観客にも、そういう伝わり方が良いと考えたからです。芝居でも、普通だと丁寧に相手とキャッチボールすることが基本だと思いますが、なるべくそれをしなかった。受け取らず、たまにこちらから投げる、というアプローチは、僕にとって新鮮でした」

その新鮮味はやりがいに繋がったかと問うと、「楽しさはありましたが、やりがいは、実は意外と無かった」と笑う。「葉山は淡々としているし、何を考えているかわからないから(劇中で)よく怒られているんですよね。全然しゃべらないのに、『ごめん』というセリフはものすごくあって、『何回言うんだ』と思っていました(笑)」。

さらに行定監督らとの話し合いを経て、ビジュアル面とセリフ回しにも工夫を施していった。もっさりとした前髪、アースカラーの服装、抑揚をそぎ落とした発声など、全体的に“地味”をチョイスしている。「髪の毛に関しては、当時、僕は短かったんです。しかしモサッとした髪にしたいと要望もあり、なるべく伸ばしていました」と振り返る。

とはいえ、葉山は単なる地味な教師ではない。教え子が身を焦がすような恋心を抱くに十分な理由がなければ、観客は「なぜこんな男を好きになる?」という疑問に立ち止まってしまう。模索を経て、松本たちは「眼の輝き」という答えに到達する。松本の“眼力”をあえてトーンダウンすることで、“慎ましさ”と“にじみ出る色気”を同居させることができた。

「そもそも、葉山はセリフがほとんどないんです。反応速度が遅いような、ゆったりとした話し方だし、そのうえ口数が少ない。どう表現するかを模索するなかで、監督が『目の開け方が、普段を100%とすると、40%にしたい』と仰ったんです。それが役を作るうえで、大きな采配だったと思います。しかし、単純に目の開け方をどうこうする、というわけではありません。全体の人物像を作っていくことで、結果的に目の輝きが40%になるように、ということです。撮影中は『今はどういう感情で、どう思っているか』などを考えながら、丁寧に心情を表現させていただきました」

画像5

また、有村とは濃厚なラブシーンにも挑んでいる。葉山と泉は、ある種“共依存”ともいえる関係性だが、松本は「葉山にとって、泉はまぶしくもあったでしょう。その光に吸い寄せられ、気がつくと意識を持っていかれる。そして抗い、抗えば抗うほど強く引き寄せられる。お互いに、そういう関係性だったと思います」と正当性を見出す。撮影中は「有村さんと『こう演じよう』と話はしなかったです。彼女が演じる泉にとって、葉山という人間が手に取るようにわかる必要はなかったからです」と思いを馳せ、「わかりづらい葉山に対し、彼女がどう反応するか。有村さんが、台本に書かれている心情に自然に到達できるように演じよう、と思っていました」と詳述した。

俳優たちの息づかい、視線、表情。そして淡く儚げなルック、徹底されたローポジション、ローアングルのカメラワーク、郷愁を誘うレトロなモチーフ、成瀬巳喜男監督作「浮雲」にオマージュを捧げた物語……。行定監督の美意識が創出した何もかもが、観客の心の奥底に眠る“理屈を超えた感情”を揺さぶり続ける。

画像6

松本「雨が降っているシーンは、どれも印象的です。撮影していた風景もすごく覚えています。ほかの作品もそうですが、雨の場面は撮影が大変で、時間がかかります。だからこそ、行定組がグッとまとまる空気があったんです。重要なシーンも多いです。雨の中、車で葉山と泉がしゃべっているシーンは、『重たい雰囲気がこの映画らしい』と改めて感じました。そのことが気持ちよく、妙に納得したのを覚えています」

関連DVD・ブルーレイ情報をもっと見る
「ナラタージュ」の作品トップへ