グラン・トリノ 特集: 過去に出てきたウォルト・コワルスキーと夢に出てくるウォルト・コワルスキー

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グラン・トリノ

劇場公開日 2009年4月25日
2009年5月1日更新

「続・夕陽のガンマン」のブロンディ、「ダーティハリー」シリーズのハリー・キャラハン、「許されざる者」のビル・マニー、そして「ミリオンダラー・ベイビー」のフランキー・ダン。これまで幾多の名キャラクターを作り上げてきた俳優クリント・イーストウッドの集大成と評される「グラン・トリノ」のウォルト・コワルスキーには、当然のことながら、これまでイーストウッドが演じてきたさまざまなキャラクターが反映されている。そんな過去と現在におけるイーストウッド映画のキャラクターの類似性や特徴について、1959年放映開始の出世作「ローハイド」から約50年間、俳優イーストウッドを見続けてきた評論家・翻訳家の芝山幹郎氏に特別エッセイを寄稿してもらった。(文:芝山幹郎

【特別寄稿】
過去に出てきたウォルト・コワルスキーと夢に出てくるウォルト・コワルスキー

愛車グラン・トリノを眺めながら、パブスト・ブルーリボンを飲むウォルター・コワルスキー。イーストウッドは実生活でもビールが大好物とのこと 愛車グラン・トリノを眺めながら、パブスト・ブルーリボンを飲むウォルター・コワルスキー。
イーストウッドは実生活でもビールが大好物とのこと

グラン・トリノ」の主人公はウォルト・コワルスキーという。ウォルトは朝鮮戦争に従軍し、その後フォードで組立工として働きつづけたポーランド系アメリカ人だ。いまの彼は、老妻を失って独り暮らしをしている。

「ハートブレイク・リッジ」の鬼軍曹ハイウェイ 「ハートブレイク・リッジ」の鬼軍曹ハイウェイ [拡大画像]

こう書けば、ウォルトの輪郭は鮮明に立ち上がってくる。ある種のパターンといえばそれまでだが、イーストウッド映画の愛好者なら、彼の姿に見覚えがあるのではないか。

イーストウッドは、朝鮮戦争の退役軍人を演じることが多い。「サンダーボルト」(74)の銀行強盗ジョン・ドハティ、「ハートブレイク・リッジ/勝利の戦場」(86)のトム・ハイウェイ軍曹、「目撃」(97)の怪盗ルーサー・ホイットニー、そして今度のウォルト・コワルスキー。まさか同一人物が変身しつづけているわけではないだろうが、彼らはほぼ10年間隔でスクリーンに登場してくる。

一方、イーストウッドがポーランド系の主人公を演じるのは、私の知るかぎり2度目のことだ。前回は「ルーキー」(90)のニック・プロフスキー刑事。映画の出来は特筆すべきものではなかったが、椅子に縛りつけられたまま悪玉の情婦(ソニア・ブラガ)に犯される場面には、イーストウッドの性的嗜好が脂汗のように滲み出ていた記憶がある。

「ルーキー」のプロフスキー刑事 「ルーキー」のプロフスキー刑事 [拡大画像]

それだけではない。「グラン・トリノ」には、イーストウッドゆかりの小道具がずいぶん登場する。まず、題名にされたグラン・トリノは、「ダーティハリー3」(76)でハリー・キャラハンが相棒の女警官を連れて乗りまわしていた車だ。彼が構えるM1ライフルは朝鮮戦争から持ち帰ったもののようだし、日がな一日飲んでいる缶ビールは、「ブルーベルベット」(86)で変質者デニス・ホッパーが愛飲していたパブスト・ブルーリボンだ。

が、実をいうと、「グラン・トリノ」の放つ匂いはいま挙げた映画のどれとも似ていない。気配でいうなら、イーストウッドの出演作で最も近いのは「センチメンタル・アドベンチャー」(82)だろう。病身の主人公が若者を鍛え育てる、という設定の類似もさることながら、ふたりの主人公に備わった気骨やユーモアの質に共通点が少なくないからだ。ふたりは骨っぽくて冗談好きのリアリストだ。群れることや他人に干渉されることを好まず、口は悪いが率直で、よく見ると、寛容でお人好しのところもあるブルーカラー。

「センチメンタル・アドベンチャー」のレッド。同作と「グラン・トリノ」のみ、イーストウッドはエンドロールで歌声を披露する 「センチメンタル・アドベンチャー」のレッド。
同作と「グラン・トリノ」のみ、イーストウッドは
エンドロールで歌声を披露する
[拡大画像]

イーストウッドは、「グラン・トリノ」の基調にこのブルーカラー魂を据える。といっても、労働者階級とか貧乏人とかいった観念を連想する必要はない。ウォルトが大切にするガッツと笑いを、イーストウッドは観客に向けて惜しみなくふるまう。するとわれわれ観客は、ウォルトの肖像の向こう側に潜む「古きよきアメリカ」を発見するのだ。

実をいうと、このあと「グラン・トリノ」は急カーブを切って一気に情感を深める。が、イーストウッドは情念の泥沼に足を取られたりしない。自身の演じてきた男の残像をいくつも重ねつつ、娯楽映画の水で長く身を磨きつづけてきたイーストウッドは、なにがあろうと、軽やかな足取りや平然とした表情を失わないのだ。だからこそ、「グラン・トリノ」はディープな映画になった。ウォルト・コワルスキーは、夢に出てくる人物さながら、われわれの記憶に残りつづける。

ダーティハリー3
DVD 1500円(税込)
《4/22より期間限定》
ワーナー・ホーム・ビデオ
センチメンタル・アドベンチャー
DVD 1500円(税込)
《4/22より期間限定》
ワーナー・ホーム・ビデオ
ハートブレイク・リッジ/勝利の戦場

DVD 2625円(税込)
ワーナー・ホーム・ビデオ
     
ルーキー
DVD 1500円(税込)
《4/22より期間限定》
ワーナー・ホーム・ビデオ
目撃

DVD 2100円(税込)
ワーナー・ホーム・ビデオ
サンダーボルト
DVD 3990円(税込)
20世紀フォックス 
ホームエンターテイメント ジャパン

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