“あの事件”で撮影中止の「青の帰り道」 監督&プロデューサーが語る、完成までの道のり
2018年5月15日 06:00
[映画.com ニュース] 真野恵里菜が主演した青春映画「青の帰り道」が、紆余曲折を経て完成した。2016年8月、世間の話題をさらうこととなった高畑裕太の引き起こした“事件”により、撮影中止を余儀なくされた作品だ。あれから約2年。スタッフ・キャストが交わした「絶対に撮り直す」という約束が結実し、17年夏の再撮影を無事に終え、ついに今冬に公開を迎える。メガホンをとった藤井道人監督と、同監督を大学時代から知る伊藤主税プロデューサーが映画.comの取材に応じ、悲願成就に至る道のりを語った。
物語は群馬・前橋と東京を舞台にした、7人の若者たちの青春群像劇。地元に残った者、夢を追って上京した者、過去の思いを胸に抱きながら新しい未来へ進み、それぞれの人生が交錯する夏を描いた。山田孝之プロデュースの映画「デイアンドナイト」の公開を控える新鋭・藤井監督が手がけ、キャストには真野のほか清水くるみ、横浜流星、森永悠希、秋月三佳、冨田佳輔ら、瑞々しい魅力を放つ若手注目株が共演していた。
16年8月に前橋を中心にロケが行われていたが、同23日に事件は起きた。出演者の高畑がホテルの女性従業員に性的暴行を加えたとして、強姦致傷容疑で逮捕。後に示談が成立し不起訴処分となったものの、事件発生後1週間以内に撮影中止が決まった。その時点で、すでに全体の7割ほどを撮り終えたタイミングだった。
藤井監督は「報道があったときから、家から出られなくなったんです。8月23日から9月1日まで、一歩も外に出なかった。テレビを見ることも嫌でした」と沈痛な面持ちで振り返る。当時を思い返すたび、やはり胸が痛んだ。「その時期、アホくさい話ですが、(その時点では)絶対に公開できないとわかっている映像の編集を仕上げたんです。みんなに『良いものが撮れていたんだよ』と見せたくて」。
伊藤氏は「事件が起こり中止が決まったその日に、藤井監督と2人で話しました。『この映画は、夏じゃないと撮れない。来年、絶対に撮り直そう』。そう約束しました」と明かす。とはいえ、代役を含むキャスト・スタッフの再手配や予算、各所への信用の問題など、直面した壁は途方もなく高かった。
先行きの見えない暗澹たる状況下で、「絶対に撮り切る」という強い思いが2人を支えた。撮影はストップしたが、再始動に向けキャスト陣の大きな協力もあった。藤井監督は「キャスト・マネージャーさん一同、『その年の夏は絶対にスケジュールを空けますから』と言ってくれたんです」と感謝をにじませる。再撮影への決起集会が実施された際には、真野らキャスト陣は涙に暮れた。
数多くの作品で抜群の存在感を見せる若手人気俳優・戸塚純貴を代役に起用し、17年8月4日、前橋で撮影再開。現場が週刊誌の標的となることもあったが、全員で乗り切り同13日に悲願のオールアップを迎えた。「再撮影ができた一番の要因は、監督を中心としたキャスト・スタッフの『撮り切る』という気持ち。製作委員会の方々も『なんとか、撮ってくれ!』と言ってくださっていて。本当に純粋な気持ちが原動力でした。そして監督やメインキャスト7人が、友情で支え合ってきたんです。だからこそ完成したと思っています」(伊藤氏)。
2人の口からは、ここまでたどり着いたことへの喜びが、とめどもなくあふれ出る。藤井監督は「この2年、異常に長かった。嬉しい気持ちが一番ですが、正直、みんなで頑張ったものを見てもらいたい半分、高揚感としての緊張もすごくあります。ただ、僕が10回見て、10回『良い映画だ』と思った。僕が好きな映画になったことを、誇りに思います」と率直に明かし、伊藤氏も「監督やスタッフ、キャスト、製作委員会、前橋の方々の思い……。素直にホッとしています。公開まで日にちはありますが、少しだけ、肩の荷がおりました」と表情をほころばせる。
5月29日~6月3日(現地時間)にドイツ・フランクフルトで開催される日本映画専門の映画祭「ニッポン・コネクション」への出品も決まった。同じく出品された、第41回日本アカデミー賞で6冠を達成した是枝裕和監督作「三度目の殺人」や、東京五輪開会式・閉会式の演出を担う山崎貴監督による「DESTINY 鎌倉ものがたり」など、錚々たる作品と肩を並べる。鬱屈した悲しみを抱え、胸を引き裂かれながら映像を編集していた2年前の“あの日”には、およそ考えもつかない劇的なシナリオだ。
藤井監督「感謝しかないんです。昔は、なんでもいいから結果や、映画の仕事がほしかった。でもこの映画から、1本のために人が集まるという大切さや奇跡を学びました。あれから、何もかも無駄にしなくなりました。点の意味や、ここに光をなぜ当てるかなど、どれだけ尊いことをやっていたかを、改めて実感できたんです。今後の監督人生が、このキャスト・スタッフと一緒に変わっていければ。完成した初号を見て、そう思いました」
関連ニュース
映画.com注目特集をチェック
コンコルディア Concordia
【衝撃のAIサスペンス】優秀な若者が殺された…そこは“20年間、犯罪が起きていない町”だった。
提供:hulu
映画料金が500円になる“裏ワザ”
【知らないと損】「2000円は高い」という、あなただけに教えます…期間限定の最強キャンペーン中!
提供:KDDI
グラディエーターII 英雄を呼ぶ声
【最速レビュー】絶対に配信開始を待ってはならない映画。間違っても倍速で観てはいけない。
提供:東和ピクチャーズ
クリスマス中止のお知らせ
【「ホーム・アローン」級クリスマス映画の“新傑作”】おもしろ要素全部のせ、まさかの涙も…
提供:ワーナー・ブラザース映画
関連コンテンツをチェック
シネマ映画.comで今すぐ見る
ギリシャ・クレタ島のリゾート地を舞台に、10代の少女たちの友情や恋愛やセックスが絡み合う夏休みをいきいきと描いた青春ドラマ。 タラ、スカイ、エムの親友3人組は卒業旅行の締めくくりとして、パーティが盛んなクレタ島のリゾート地マリアへやって来る。3人の中で自分だけがバージンのタラはこの地で初体験を果たすべく焦りを募らせるが、スカイとエムはお節介な混乱を招いてばかり。バーやナイトクラブが立ち並ぶ雑踏を、酒に酔ってひとりさまようタラ。やがて彼女はホテルの隣室の青年たちと出会い、思い出に残る夏の日々への期待を抱くが……。 主人公タラ役に、ドラマ「ヴァンパイア・アカデミー」のミア・マッケンナ=ブルース。「SCRAPPER スクラッパー」などの作品で撮影監督として活躍してきたモリー・マニング・ウォーカーが長編初監督・脚本を手がけ、2023年・第76回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門グランプリをはじめ世界各地の映画祭で高く評価された。
「苦役列車」「まなみ100%」の脚本や「れいこいるか」などの監督作で知られるいまおかしんじ監督が、突然体が入れ替わってしまった男女を主人公に、セックスもジェンダーも超えた恋の形をユーモラスにつづった奇想天外なラブストーリー。 39歳の小説家・辺見たかしと24歳の美容師・横澤サトミは、街で衝突して一緒に階段から転げ落ちたことをきっかけに、体が入れ替わってしまう。お互いになりきってそれぞれの生活を送り始める2人だったが、たかしの妻・由莉奈には別の男の影があり、レズビアンのサトミは同棲中の真紀から男の恋人ができたことを理由に別れを告げられる。たかしとサトミはお互いの人生を好転させるため、周囲の人々を巻き込みながら奮闘を続けるが……。 小説家たかしを小出恵介、たかしと体が入れ替わってしまう美容師サトミをグラビアアイドルの風吹ケイ、たかしの妻・由莉奈を新藤まなみ、たかしとサトミを見守るゲイのバー店主を田中幸太朗が演じた。
文豪・谷崎潤一郎が同性愛や不倫に溺れる男女の破滅的な情愛を赤裸々につづった長編小説「卍」を、現代に舞台を置き換えて登場人物の性別を逆にするなど大胆なアレンジを加えて映画化。 画家になる夢を諦めきれず、サラリーマンを辞めて美術学校に通う園田。家庭では弁護士の妻・弥生が生計を支えていた。そんな中、園田は学校で見かけた美しい青年・光を目で追うようになり、デッサンのモデルとして自宅に招く。園田と光は自然に体を重ね、その後も逢瀬を繰り返していく。弥生からの誘いを断って光との情事に溺れる園田だったが、光には香織という婚約者がいることが発覚し……。 「クロガラス0」の中﨑絵梨奈が弥生役を体当たりで演じ、「ヘタな二人の恋の話」の鈴木志遠、「モダンかアナーキー」の門間航が共演。監督・脚本は「家政夫のミタゾノ」「孤独のグルメ」などテレビドラマの演出を中心に手がけてきた宝来忠昭。
奔放な美少女に翻弄される男の姿をつづった谷崎潤一郎の長編小説「痴人の愛」を、現代に舞台を置き換えて主人公ふたりの性別を逆転させるなど大胆なアレンジを加えて映画化。 教師のなおみは、捨て猫のように道端に座り込んでいた青年ゆずるを放っておくことができず、広い家に引っ越して一緒に暮らし始める。ゆずるとの間に体の関係はなく、なおみは彼の成長を見守るだけのはずだった。しかし、ゆずるの自由奔放な行動に振り回されるうちに、その蠱惑的な魅力の虜になっていき……。 2022年の映画「鍵」でも谷崎作品のヒロインを務めた桝田幸希が主人公なおみ、「ロストサマー」「ブルーイマジン」の林裕太がゆずるを演じ、「青春ジャック 止められるか、俺たちを2」の碧木愛莉、「きのう生まれたわけじゃない」の守屋文雄が共演。「家政夫のミタゾノ」などテレビドラマの演出を中心に手がけてきた宝来忠昭が監督・脚本を担当。
死刑囚の告発をもとに、雑誌ジャーナリストが未解決の殺人事件を暴いていく過程をつづったベストセラーノンフィクション「凶悪 ある死刑囚の告発」(新潮45編集部編)を映画化。取材のため東京拘置所でヤクザの死刑囚・須藤と面会した雑誌ジャーナリストの藤井は、須藤が死刑判決を受けた事件のほかに、3つの殺人に関与しており、そのすべてに「先生」と呼ばれる首謀者がいるという告白を受ける。須藤は「先生」がのうのうと生きていることが許せず、藤井に「先生」の存在を記事にして世に暴くよう依頼。藤井が調査を進めると、やがて恐るべき凶悪事件の真相が明らかになっていく。ジャーナリストとしての使命感と狂気の間で揺れ動く藤井役を山田孝之、死刑囚・須藤をピエール瀧が演じ、「先生」役でリリー・フランキーが初の悪役に挑む。故・若松孝二監督に師事した白石和彌がメガホンをとった。
内容のあまりの過激さに世界各国で上映の際に多くのシーンがカット、ないしは上映そのものが禁止されるなど物議をかもしたセルビア製ゴアスリラー。元ポルノ男優のミロシュは、怪しげな大作ポルノ映画への出演を依頼され、高額なギャラにひかれて話を引き受ける。ある豪邸につれていかれ、そこに現れたビクミルと名乗る謎の男から「大金持ちのクライアントの嗜好を満たす芸術的なポルノ映画が撮りたい」と諭されたミロシュは、具体的な内容の説明も聞かぬうちに契約書にサインしてしまうが……。日本では2012年にノーカット版で劇場公開。2022年には4Kデジタルリマスター化&無修正の「4Kリマスター完全版」で公開。※本作品はHD画質での配信となります。予め、ご了承くださいませ。