ポール・トーマス・アンダーソン : ウィキペディア(Wikipedia)
ポール・トーマス・アンダーソン(Paul Thomas Anderson, 1970年6月26日 - )は、アメリカ合衆国の映画監督、脚本家、映画プロデューサーである。世界三大映画祭すべてで監督賞を受賞している。
プロフィール
来歴
カリフォルニア州ロサンゼルス出身。父親は俳優・司会者のアーネスト・アンダーソン。9人兄弟の3番目で父と特に仲が良く、12歳でビデオカメラを買ってもらい、映画監督になる夢を支援されていた。ティーンエイジャーの頃から脚本を書き始め、ニューヨーク大学に入るがすぐに中退。テレビ番組のプロダクション・アシスタントなどを経て短編映画を製作するようになる。
1992年に撮った短編『シガレッツ&コーヒー』がサンダンス映画祭で注目されるとハリウッドから声が掛かり、本作をベースにした長編映画『ハードエイト』で長編映画監督デビューを果たした。また、本作には、後に数多くの作品で共に仕事をすることになるジョン・C・ライリーやフィリップ・シーモア・ホフマン、フィリップ・ベイカー・ホールらが出演している。
その翌年には監督2作目として、10代の頃に書いた短編『The Dirk Diggler Story』を長編に作り直し、ポルノ業界で生きる人々の光と影を描いた『ブギーナイツ』を発表。本作で当時ハリウッドでは過去の人となっていたバート・レイノルズや、逆にハリウッドで注目され始めていたジュリアン・ムーア、マーク・ウォールバーグら若手、他にも前作の出演者らを起用し、演技、脚本、演出、音楽で高い評価を獲得。この作品のスマッシュヒットで一躍名を知られる存在となり、アカデミー脚本賞にもノミネートされる。
3作目の『マグノリア』では、トム・クルーズらスターを起用し、一風変わった10人の主人公の24時間を、エイミー・マンの曲にのせて描く群像劇を演出。興行的にはやや振るわなかったものの批評家には高い評価を受け、第50回ベルリン国際映画祭で金熊賞を受賞し、トム・クルーズにはゴールデングローブ賞 助演男優賞をもたらした。
4作目の『パンチドランク・ラブ』では、アダム・サンドラーを主演に迎え、悲壮感を抱えた男をシリアスに演じさせて新たな一面を引き出させた上に、その強烈で一風変わった世界観も好評を博し、カンヌ国際映画祭 監督賞を受賞した。
5作目の『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』では、ベルリン国際映画祭監督賞を始めとする多数の映画賞における監督賞を受賞。非道な石油王を演じたダニエル・デイ=ルイスは米国の主要映画賞を総なめにし、第80回アカデミー賞で2度目となるアカデミー主演男優賞を受賞した。他にも最多8部門でノミネートされていたものの、受賞は主演男優賞と撮影賞の2部門のみに留まり、作品賞や監督賞は、同じく最多8部門でノミネートされていたコーエン兄弟の『ノーカントリー』に奪われた。しかし、英国のトータル・フィルム誌など「00年代最高の映画」と推す批評家も多く、英BBCが選んだ「21世紀 最高の映画100本」では第3位に選ばれている。- Culture - The 21st Centurys 100 greatest films
6作目の『ザ・マスター』では、新興宗教の教祖とそのカリスマ性に引き寄せられていく男を描いて第69回ヴェネツィア国際映画祭で監督賞を受賞し、ホアキン・フェニックスとフィリップ・シーモア・ホフマンが同男優賞を獲得し、アカデミー賞では上記2人とエイミー・アダムスに演技部門でのノミネートをもたらした。それと同時に、本作により僅か6本のフィルモグラフィで世界三大映画祭すべてで監督賞に輝いた稀有な映画監督となる。
7作目に、アメリカ最高の文学者のひとりとして知られるトマス・ピンチョンの小説『LAヴァイス』の映画製作に取り掛かり、2014年に『インヒアレント・ヴァイス』という題名で全米公開。主演は前作に続きホアキン・フェニックスが努めた。ピンチョンが自作の映画化を許可したのはこれが初めてである。本作ではアカデミー脚色賞にノミネートされた。
8作目では、『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』でタッグを組んだダニエル・デイ=ルイスと2度目のタッグを組み、1950年代のファッション業界を描いた『ファントム・スレッド』を監督した。ダニエル・デイ=ルイスの俳優引退作ともなる本作は、第90回アカデミー賞において作品賞や監督賞を含む6部門にノミネートされ、衣装デザイン賞を受賞した。。
私生活
歌手のフィオナ・アップルと交際し、彼女のPVを何本か手がけたが、現在は女優のマーヤ・ルドルフ(歌手ミニー・リパートンの娘)と事実婚関係にあり、ふたりの間には4子がある。
特徴
家族の機能不全、社会からの疎外や孤独、擬似的な父子関係といったテーマを扱うことが多い。手持ちカメラによる常に移動しながらの撮影など大胆な視覚効果が特徴。
全作品で自ら脚本も手がけ、多くの作品で製作にも名を連ねている。
マーティン・スコセッシ、ロバート・アルトマン、ジョナサン・デミ、スタンリー・キューブリック、オーソン・ウェルズといった映画監督からの影響を挙げている。特に『マグノリア』の群像劇演出はロバート・アルトマンの影響を受けており、ジョナサン・デミの『メルビンとハワード』は『ハードエイト』のインスパイア元となり、『ザ・マスター』ではバイクで疾走するシーンがオマージュされている。
特定の俳優を複数回にわたって起用することが多い。5作に出演しているフィリップ・シーモア・ホフマンを始め、メローラ・ウォルターズ、ジョン・C・ライリー、フィリップ・ベイカー・ホール、ルイス・ガスマンらが3作以上で、ジュリアン・ムーア、ウィリアム・H・メイシー、ホアキン・フェニックス、ダニエル・デイ・ルイスらが2作以上で、仕事を共にしている常連俳優である。
フィルモグラフィー
- The Dirk Diggler Story (1988年) 監督・脚本・撮影
- Cigarettes & Coffee (1993年) 監督・脚本
- ハードエイト Hard Eight (1996年) 監督・脚本
- ブギーナイツ Boogie Nights (1997年) 監督・脚本・製作
- マグノリア Magnolia (1999年) 監督・脚本・製作
- パンチドランク・ラブ Punch-Drunk Love (2002年) 監督・脚本・製作
- ゼア・ウィル・ビー・ブラッド There Will Be Blood (2007年) 監督・脚本・製作
- ザ・マスター The Master (2012年) 監督・脚本・製作
- インヒアレント・ヴァイス Inherent Vice (2014年) 監督・脚本・製作
- JUNUN (2015年) 監督・撮影
- ファントム・スレッド Phantom Thread (2017年) 監督・脚本・製作・撮影
- Soggy Bottom (2021年) 監督・脚本・製作
受賞歴
賞 | 年 | 部門 | 作品 | 結果 |
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アカデミー賞 | 1997年 | 脚本賞 | 『ブギーナイツ』 | |
1999年 | 脚本賞 | 『マグノリア』 | ||
2007年 | 作品賞 | 『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』 | ||
監督賞 | ||||
脚色賞 | ||||
2014年 | 脚色賞 | 『インヒアレント・ヴァイス』 | ||
2017年 | 作品賞 | 『ファントム・スレッド』 | ||
監督賞 | ||||
英国アカデミー賞 | 1997年 | オリジナル脚本賞 | 『ブギーナイツ』 | |
2007年 | 作品賞 | 『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』 | ||
監督賞 | ||||
脚色賞 | ||||
2012年 | オリジナル脚本賞 | 『ザ・マスター』 | ||
全米映画批評家協会賞 | 1997年 | 作品賞 | 『ブギーナイツ』 | |
監督賞 | ||||
2007年 | 作品賞 | 『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』 | ||
監督賞 | ||||
脚本賞 | ||||
2012年 | 作品賞 | 『ザ・マスター』 | ||
監督賞 | ||||
脚本賞 | ||||
2014年 | 脚本賞 | 『インヒアレント・ヴァイス』 | ||
2017年 | 作品賞 | 『ファントム・スレッド』 | ||
監督賞 | ||||
脚本賞 | ||||
ロサンゼルス映画批評家協会賞 | 1997年 | ニュー・ジェネレーション賞 | 『ブギーナイツ』『ハードエイト』 | |
2007年 | 作品賞 | 『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』 | ||
監督賞 | ||||
脚本賞 | ||||
2012年 | 作品賞 | 『ザ・マスター』 | ||
監督賞 | ||||
ボストン映画批評家協会賞 | 1997年 | 新人映画人賞 | 『ブギーナイツ』 | |
2012年 | 監督賞 | 『ザ・マスター』 | ||
2017年 | 作品賞 | 『ファントム・スレッド』 | ||
監督賞 | ||||
英国インディペンデント映画賞 | 1998年 | 外国映画賞 | 『ブギーナイツ』 | |
トロント映画批評家協会賞 | 1999年 | 作品賞 | 『マグノリア』 | |
監督賞 | ||||
脚本賞 | ||||
2002年 | 監督賞 | 『パンチドランク・ラブ』 | ||
2012年 | 作品賞 | 『ザ・マスター』 | ||
監督賞 | ||||
脚本賞 | ||||
フロリダ映画批評家協会賞 | 1999年 | 作品賞 | 『マグノリア』 | |
ベルリン国際映画祭 | 2000年 | 金熊賞 | 『マグノリア』 | |
2008年 | 監督賞 | 『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』 | ||
国際映画批評家連盟賞 | 2000年 | グランプリ | 『マグノリア』 | |
2008年 | グランプリ | 『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』 | ||
2018年 | グランプリ | 『ファントム・スレッド』 | ||
ゴールデン・ビートル賞 | 2000年 | 外国映画賞 | 『マグノリア』 | |
カンヌ国際映画祭 | 2002年 | 監督賞 | 『パンチドランク・ラブ』 | |
ゴールデングローブ賞 | 2007年 | 作品賞 (ドラマ部門) | 『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』 | |
全米監督協会賞 | 2007年 | 長編映画監督賞 | 『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』 | |
ニューヨーク映画批評家協会賞 | 2007年 | 作品賞 | 『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』 | |
監督賞 | ||||
2012年 | 作品賞 | 『ザ・マスター』 | ||
監督賞 | ||||
2017年 | 脚本賞 | 『ファントム・スレッド』 | ||
ニューヨーク映画批評家オンライン賞 | 2007年 | 作品賞 | 『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』 | |
監督賞 | ||||
サンディエゴ映画批評家協会賞 | 2007年 | 監督賞 | 『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』 | |
脚色賞 | ||||
2012年 | 脚本賞 | 『ザ・マスター』 | ||
カンザスシティ映画批評家協会賞 | 2007年 | 作品賞 | 『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』 | |
監督賞 | ||||
2012年 | 作品賞 | 『ザ・マスター』 | ||
オリジナル脚本賞 | ||||
オースティン映画批評家協会賞 | 2007年 | 作品賞 | 『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』 | |
監督賞 | ||||
2012年 | 監督賞 | 『ザ・マスター』 | ||
ロンドン映画批評家協会賞 | 2007年 | 監督賞 | 『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』 | |
ダブリン映画批評家協会賞 | 2007年 | 作品賞 | 『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』 | |
監督賞 | ||||
フランス映画批評家協会賞 | 2008年 | 外国語映画賞 | 『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』 | |
ボディル賞 | 2009年 | アメリカ映画賞 | 『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』 | |
セザール賞 | 2009年 | 外国映画賞 | 『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』 | |
ヴェネツィア国際映画祭 | 2012年 | 銀獅子賞 | 『ザ・マスター』 | |
国際映画批評家連盟賞 | ||||
オンライン映画批評家協会賞 | 2012年 | 監督賞 | 『ザ・マスター』 | |
サンフランシスコ映画批評家協会賞 | 2012年 | 作品賞 | 『ザ・マスター』 | |
2014年 | 脚色賞 | 『インヒアレント・ヴァイス』 | ||
ナショナル・ボード・オブ・レビュー賞 | 2014年 | 脚色賞 | 『インヒアレント・ヴァイス』 | |
2017年 | オリジナル脚本賞 | 『ファントム・スレッド』 | ||
インディペンデント・スピリット賞 | 2014年 | ロバート・アルトマン賞 | 『インヒアレント・ヴァイス』 | |
ユタ映画批評家協会賞 | 2014年 | 脚色賞 | 『インヒアレント・ヴァイス』 |
外部リンク
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