「Ryuichi Sakamoto: Diaries」あらすじ・概要・評論まとめ ~命と音に向き合う“人間・坂本龍一”を通じ、最期の日々を想う映像体験~【おすすめの注目映画】
2025年11月27日 06:00

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本記事では、「Ryuichi Sakamoto: Diaries」(2025年11月28日公開)の概要とあらすじ、評論をお届けします。
(C)“Ryuichi Sakamoto: Diaries” Film Partners2023年3月に他界した世界的音楽家・坂本龍一の最後の3年半の軌跡をたどったドキュメンタリー。2024年にNHKで放送され大きな反響を呼んだドキュメンタリー番組「Last Days 坂本龍一 最期の日々」をベースに、未完成の音楽や映像など新たな要素を加えて映画として公開。
音楽のみならずアート・映像・文学など多様なメディアを横断し、多彩な表現活動を続けてきた坂本龍一。目にしたものや耳にした音をさまざまな形式で記録し続けた本人の日記を軸に、遺族の全面協力により提供された貴重なプライベート映像やポートレートも盛り込みながら、ガンに罹患して亡くなるまでの闘病生活と、その中で行われた創作活動を振り返る。
日記につづられた日々の何気ないつぶやきから、自身の死に対する苦悩や葛藤、音楽を深く思考する言葉の数々を通し、希代の音楽家・坂本が命の終わりとどのように向き合い、何を残そうとしたのかに迫る。人生をかけて追い求めてきた理想の音を生み出すべく情熱を貫いた坂本の最後の日々を、晩年の彼が魅せられた美しい自然の音や風景と共にスクリーンに映し出す。
生前の坂本と親交のあったダンサー・俳優の田中泯が日記の朗読を担当。
(C)“Ryuichi Sakamoto: Diaries” Film Partners音楽好きや映画好きを自認する日本の成人で、故・坂本龍一の名を知らない人はまずいない。世界中のオーディエンスに対象を広げても、幅広い世代にその音楽が親しまれた日本人アーティストとして唯一無二の存在だろう。特に映画音楽の分野では、巨匠らの傑作とともに広く認知されるテーマ曲を創造した作曲家として、故人ならレナード・バーンスタインやヘンリー・マンシーニ、存命中ではジョン・ウィリアムズやハンス・ジマーらの才人たちに並び立つと称しても過言ではない。
だがドキュメンタリー「Ryuichi Sakamoto: Diaries」は、そんな誰もが知る偉大な音楽アーティストの足跡や功績を紹介することを主眼にしていない。むしろその逆で、がんが再発して闘病する日々の中、自らの生と死に向き合い、不安や葛藤を日記に吐露するひとりの人間の実像に迫ろうとする。2023年3月に坂本が他界し、その翌年にNHKで放送されたドキュメンタリー番組をベースに、新たな映像を加えるなどして映画向けに再編集したのが本作だ。死去する半年前の2022年9月にNHKのスタジオで演奏した20曲を収めたコンサート映画「Ryuichi Sakamoto | Opus」とは、互いに補完しあう内容とも言える。

タイトルが端的に示すように、坂本が最後の3年半に書きとめた日記の言葉やごく短い文が、この本編96分の映像を主導する。そこにあるのは、作曲と編曲に長い時間をかけて完成させた音楽でも、推敲を重ねた論考やエッセイでもなく、生身の感覚や感情、刹那に沸き上がった思いだ。そんな日記のフレーズを、田中泯が過剰な情感を加えることなく淡々と、それでいて実に味わい深く読み上げている。
映像作品にふさわしく、取材班が記録した映像素材はもちろん、坂本自身が日々残した映像と画像、また家族が撮影した自然体の坂本の姿も適宜配置される。雨、雲、月といった自然と宇宙の事象に心を寄せる様子も興味深い。2021年2月、入院中の坂本は小さな音が出るものを常に傍らに置いていた。YouTubeで雨の音を探し、何時間も再生して聴いたという。「音楽は熱量が高いものなので、自分に体力がないときは受け止められない。(それに対し)雨の音は素晴らしい」と語る肉声も収められている。病で衰弱した身で、シンプルな音に癒しを求める――そんな内面を知るとき観客の多くは、孤高の存在のように思えた芸術家もまた、病身で死を意識しつつ心の平安を保とうとする、私たちと何ら変わらない人間なのだと悟る。
(C)“Ryuichi Sakamoto: Diaries” Film Partnersそうした気づきはまた、おのずと観客自身の最期の迎え方、人生の終い方を想像するよう促す。闘病生活を送る坂本の姿に、避けがたく訪れる死に向き合う未来の自分を重ねる。
自身が立ち上げ監督を務めた東北ユースオーケストラの公演を病床から画面越しに見守る坂本が、吉永小百合による詩の朗読を聴いていた次の瞬間、感極まって泣き顔になる。ドキュメンタリーのカメラがとらえた“劇的”な瞬間であり、そこで去来する感情に観客が思いを馳せ心を共鳴させることが豊かな映像体験になるのだろう。
執筆者紹介
高森郁哉 (たかもり・いくや)
フリーランスのライター、英日翻訳者。主にウェブ媒体で映画評やコラムの寄稿、ニュース記事の翻訳を行う。訳書に『「スター・ウォーズ」を科学する―徹底検証! フォースの正体から銀河間旅行まで』(マーク・ブレイク&ジョン・チェイス著、化学同人刊)ほか。
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