柴咲コウが芸能事務所社長の井岡咲、川口春奈が週刊誌の記者・平田奏に扮し、激しく火花を散らす本作。スキャンダルが世に出た際に芸能事務所が被る損害や週刊誌記者の生態など、当事者や関係者への徹底した取材を基に作り上げたというストーリーは実にリアルだ。映画.comでは初共演となる柴咲コウと川口春奈に撮影の舞台裏から時代性を反映したテーマへの想いを聞いた。(取材・文/SYO、編集/大塚史貴、写真/間庭裕基)
――柴咲さんは企画・プロデュースを務められた
藤野良太さんと前々から「面白いものを作りたい」と語り合っていたそうですね。本企画の内容に関しては驚きなどあったのでしょうか。
柴咲:ちょこちょこと「こういうことを描きたい」という話は聞いていたため、意外だとは思いませんでした。もちろん題材に対して「切り込んでいるな、攻めているな」とは感じましたが、私自身が様々な役をやらせていただくなかで、いつか芸能プロダクションでマネジメントに携わる人たちがどのように立ち回っているのかといった“裏側”は描いてほしいなと思っていたので良かったなという想いの方が強くあります。
スタイリスト/柴田 圭、ヘアメイク/川添カユミ――おっしゃる通り、これまでになかなかない視点の作品ですよね。
柴咲:なんならスピンオフでマネージャー物語をやってほしいくらいです(笑)。今回の撮影に際して、役作りの参考になるようなマネージャー業のいろはを記したガイドブックを作ってくれたのですが、様々なマネージャーさんに配りたいくらいの完成度でした。
スタイリスト/百々千晴、ヘアメイク/笹本恭平川口:私は、その記者版をいただきました。週刊誌の記者さんがよくしている服装ですとか、収入が大体これぐらいで1つスクープをものにできたらプラスでいくら、といったような生々しい部分まで細かく書かれていて、新鮮でした。そういった踏み込んだところまでなかなか知ることはできませんから、
金井紘監督や皆さんが相当取材されたのだと思います。私の周囲に週刊誌記者の方はいませんし、仕事の詳細な内容や普段どんなリズムで働いているかなど、勉強になることばかりでした。
――川口さんは本作の内容に関してはどう感じられましたか? かなりセンセーショナルなものかと思いますが。
川口:そうですね。シンプルに見たことがない物語でありつつ、自分が今いる業界の話でもあり、題材こそ攻めていますが「自分も視聴者として気になる」と素直に面白さを感じました。

――川口さんは柴咲さんが出演された「オレンジデイズ」(04)の影響で手話教室に通われたそうですね。初共演はいかがでしたか?
川口:「オレンジデイズ」に限らず、柴咲さんの出演作を見て育ってきたので感慨深いです。奏と咲は、最初はバチバチに対峙しているのが後半に向けて変わっていく関係性でもあり、撮影も基本的に柴咲さんとご一緒する時間が多くて、本当に嬉しかったです。
柴咲:奏は咲に対してはいつも舐めているような斜に構えた表情や態度をとる役柄ですから、まさか春奈ちゃんにそう思ってもらえているとは1ミリも思いませんでした(笑)。こちらとしては所属俳優を守りたいし、なんであんな記事を載せるんですかという思いがあるなか、春奈ちゃんのお芝居に触発されて苛立ちや焦りが自然に出てきました。バチバチにやりあいながら「信頼できる俳優さんだな」と感じていました。

――週刊文潮のサロンでやり合うシーンなど、相手にかぶせる感じも絶妙でした。
川口:最初の方はとにかく煽って煽って追い詰めるようにしようと思っていました。奏からしたら、自分の仕事を全うしている意識なんですよね。個人的には、攻撃する感じが新鮮でめちゃくちゃ楽しかったです(笑)。
柴咲:そうだったんだ(笑)。誰がどういう表情や声色でお芝居するかでこちらのリアクションは変わるものですから、前もって決めこむことはなく身を任せていました。春奈ちゃんが煽ってくれたおかげで、ナチュラルに攻防ができた気がしています。
――奏は咲の行く先々に現れますよね。
川口:なかなかにしつこかったですよね。特に前半はまたお前か!みたいに登場します(笑)。奏が嫌な奴に見えれば見えるほど、2人の対立構造がくっきりするとは意識していました。

――煽り芝居も含めて、本作の川口さんを新鮮に感じる視聴者も多いのではないかと思います。
川口:金井監督には「とにかく今までにないような新しい
川口春奈を見せたい」と言われていました。笑うシーンも1回あるかないかでしたし、自分なりの正義を持って淡々と挑発してほしいという演出も初めてでした。今までにないようなキャラクターを任せていただけて、これまでとはまた違った表情やお芝居をできる環境が嬉しかったです。
――咲の「動揺はしているけど部下やタレントの前では見せないようにする」姿がリアルでしたが、柴咲さんは演じる上でどのようにバランスを取られていたのでしょう。
柴咲:私としては咲が人前で演じているとは考えていませんでした。元々が凛としたものを持っていて、自分の弱い部分を隠そうとするタイプではないかと。会社や人物など、守りたいものの前では強くなれてしまう人だと捉えていました。

――生来備わっている気質といいますか。
柴咲:今回は劇中で、咲がどういう生活をしているかなどプライベートの部分は描かれませんよね。同僚と飲んでいる姿は出てきますが、あれも仕事ベースですし。金井監督とも「完全なオフは描く必要がないよね」とお話しして削ぎ落しています。冒頭にお話ししたマネージャー完全マニュアルを作れるぐらいですから、やろうと思えばリアルな生活サイクルだって描けるし、きっと面白くできるはず。マネージャーになってみたいなと憧れてもらえるような作品も作れたかと思いますが、今回はスキャンダル部分にフォーカスしています。
――まさに選択と集中ですね。咲のプライベートはあえて見せないという。
柴咲:とはいえ、一人でいる時の表情や、過去を回想している際の姿から孤独感は漂ってくるはずとも思っていました。どうしようもない事実と向き合わなければならない立場でもありますから。

――金井監督はおふたりとも現場でのオン/オフが巧みだったと伺っています。お芝居のアプローチも近しいのでしょうか。
川口:咲さんという役と柴咲さんご本人が乖離していないといいますか、オンとオフの境目が私には見えませんでした。本番が始まるちょっと前から本番にかけてもニュートラルで、ずっとナチュラルなままで驚かされました。
柴咲:私は勝手に同じタイプかと思っていました。必要以上に作り込むことなく、その場で起こる相手とのセッションで湧き上がってくるもの――瞬発力を大切にしたい俳優かと。また、春奈ちゃんは監督に「こういう風に」と言われたことに対して臨機応変に対応していて、身軽だなと感じました。
――クライマックスにかけてはお2人それぞれに長ゼリフが用意されていますね。
柴咲:蓉子役の
鈴木保奈美さんからの流れもありますし、スタッフ・キャスト一丸となって「頑張ろう!」と団結したシーンでした。ドラマの構造上、いいことを言って締めなければいけませんが、正義感が前に出すぎてしまうとうっとうしく感じられてしまうと思い、どれだけ自然に言えるかは腐心したところです。緊張感はあれど、咲自身が経験してきたことの集約としていかにニュートラルな状態で言葉を吐けるかがポイントだと感じていました。
川口:シーンの頭からお尻まで通して撮影しますと言われたときに、内心「ヤバい」とドキドキしましたが、隣をみたら柴咲さんがさらりと「わかりました」と答えていて、その冷静さに落ち着かせていただきました。どしんと構えていてくれる人がいるのといないのとでは全く違うので、ありがたかったです。素人っぽいのですが――私はカメラが近づいてくると緊張してしまい、絶対噛んじゃうんです。しかも今回の場合、ボルテージが上がった状態のお芝居でしたし、エキストラさんがたくさんいる環境下でしたから不安だらけでしたが、柴咲さんのおかげで乗り切れました。良いシーンになったのではないかと思います。

――川口さんほどのキャリアをお持ちでも、カメラが近づいてくるとそうなるのですね!
川口:未だに慣れませんね。「やばい、こっちに来てる!」って(笑)。カメラとの間にある程度の距離があればないものとしてお芝居できますが、目の前に来ると流石に狂っちゃって。
柴咲:ちょうどそのときに、コンタクトレンズを外したんだよね。
川口:そうなんです。柴咲さんが裸眼でお芝居をされていると聞いて、「ピントが合わなければ目の前にカメラがあっても関係ない」って(笑)。それが気持ちよくて、それ以降のお仕事でも時と場合によっては裸眼でお芝居するようになりました。
――ちなみに柴咲さんは、カメラを意識して硬くなってしまうことはありますか?
柴咲:昔からなかったように思います。撮影監督やカメラマンさんによっては、逆に「見て!」という気持ちがちらつく特もあるくらい。「柴咲、いい芝居してる」って思われたくて(笑)。
――オフィシャルのインタビュー時に、柴咲さんは第1話でヒールで全力疾走するシーンが大変だったと仰っていましたね。
柴咲:そうですね。足の指に全部テーピングをして乗り切りました。他人事ながら「大変そうだな」と思ったのは、未礼役の
前田敦子さんが怒り狂うシーンです。ずっと叫びっぱなしですから。

――夫の藤原(
浅香航大)におしゃぶりを投げるシーンですね。
柴咲:監督もSだなと思ったのですが、「おしゃぶりを避けたら奥さんは余計にイラついちゃうから避けちゃダメ」って(笑)。結果的に顔にクリーンヒットしていました。
川口:私はあのシーンで改めて「芸能人って大変そうだな」と思いました(笑)。
柴咲:本当だよね。家の前にあんなにたくさんのメディアに張り込まれてね。
川口:地獄ですよね。咲さんは毎日ご飯を持っていってあげたり、本当に優しいなって。もし自分があんなふうになったら、マネージャーさんは毎日様子を見に来てくれるかな……といったような観点で見ちゃいました。
――本作のキャッチコピーは「真実は秒で変わる。」です。芸能スキャンダルをフックに情報の取り扱いの難しさを描いたドラマですが、テーマに対する想いを教えて下さい。
柴咲:SDGsでも「つくる責任、つかう責任」という言葉がありますが、情報にも言えることだと思います。執筆する側や載せる側と受け取る側の意識が必ずしも一致するわけではありませんよね。てにをはや抜き出し方の違いで受け取り方も変わりますし、何だったら閲覧数を伸ばすための“釣り”を狙った見出しや書き方もありますよね。出す側はそれらのテクニックを当たり前のように使っていますが、受け取る側のリテラシーはあまり変わっていないように個人的には感じています。誰も教えてくれないから、野放しのまま「大人だから受け取り方はご自由にどうぞ」なのは、本当にそれでいいんだっけと改めて考えさせられました。
昨今だと生成AIを悪用したフェイク動画なども増えてきていますし、それを鵜呑みにしている人も見かけます。一部の切り取りを100%真実だと思い込んで同調するような風潮は恐ろしいですよね。キャッチする側にも「私は傍観者」というような冷静さを持つことが求められているようには感じます。
川口:SNSは便利な一方で、だからこそ「どうなんだろう」と思うことも増えました。全然そんなつもりじゃなかったのに、ニュアンスの受け取り方の違いで伝わり方が変わってしまう。特に私たちは準公人ですから、そういった部分に生きづらさを感じもします。でも結局、情報が錯乱している時代に何を信じるかはその人次第なんですよね。「
スキャンダルイブ」を通して、あまり周囲に惑わされずに自分がこうと信じたものをピックアップしていきたいと改めて感じました。