中国の地方都市で生きる同性愛者たちのロマンティックコメディ「ベ・ラ・ミ 気になるあなた」ゲン・ジュン監督インタビュー
2025年11月14日 20:00

第61回金馬賞4冠に輝いた「ベ・ラ・ミ 気になるあなた」が11月15日公開を迎える。黒竜江省を中心に活躍するゲン・ジュン監督の日本初公開作品。同性愛や体外受精、偽装結婚などを社会的テーマを盛り込み、中年男性たちのほろ苦くも温かい人間模様をオフビートなユーモアを交えたラブストーリーに昇華させたゲン・ジュン監督のインタビューを映画.comが入手した。

パンデミックの初期、物理的な距離を保つことがルールになりました。人々は様々な場面で1メートル以上離れなければならず、互いの顔が見えないマスクを着用しなければなりませんでした。その結果、私たちは心の中に壁を築き、距離を置くことに慣れていきました。息苦しい環境の中、私は過去を懐かしみ、この困難が早く過ぎ去ってほしいと願っていました。今回は、私にとってこれまで挑戦したことのないジャンルである、ロマンティック・コメディを作りたいと思いました。愛は、私たちをより近づけ、思いやり、抱きしめ、親密にさせてくれるからです。
キャストは私の常連の俳優陣です。過去10年間、私の映画に彼らが出演していますが、彼らが生み出すものに感銘を受け続けています。彼らは普段はごく普通の人々ですが、スクリーン上では主役となり、映画の中で素晴らしい存在感を放ってくれます。私は撮影現場では監督で、普段は彼らの友人です。よく冗談めかして「なんて美しいんだ!」と褒めています。時が経つにつれ、彼らもその褒め言葉を受け入れるようになりました。「BEL AMI(美しき友)」は、モーパッサンの世界的に有名な古典作品のタイトルでもあり、中国語のタイトルは「漂亮朋友」です。そういう意味で、このタイトルは映画から文学へのオマージュなのです。

物語の舞台は2013年初頭。スマートフォンがまだ普及しておらず、人々が一日中画面を見つめるのではなく、直接顔を合わせて会っていた時代です。当初私は、私より10歳ほど年上の、ある年配の男性について書きました。彼の恋愛は複雑で、ほとんど悲劇と言ってもいいほどでした。若い頃の結婚に失敗した彼は、中年期に自分が同性愛者であることを自覚し、真実の愛を探し始めました。1990年代半ば、私たちが住む鶴崗(ヘガン)という小さな町で、彼は偏見の目で見られていました。
ある時、彼は飲み会で酔った勢いで男性に言い寄り、その男性から暴行を受け、片目を失明しました。1年後、彼は南部へ旅立ち、知り合い全員と縁を切りました。これが最初の草稿の全容で、執筆に1年かかりました。その後、物語を改めて読み返し、視点が変わったので書き直すことにしました。こんなに悲しい時期ですから、コメディを書きたいと思ったのです。2010年、HIV陽性者に関するドキュメンタリーの撮影に協力し、多くのゲイの男性と出会いました。彼らの感動的なラブ・ストーリーは、今でも私の心に残っています。第二稿でその思い出が蘇り、最終的に今の物語へと繋がりました。

前作“Manchurian Tiger”の撮影は2019年、つまり5年前でした。今では中年ですが、彼らは高い感受性と情熱を保ち続けています。これは俳優にとって非常に重要な資質です。本作は新たな挑戦であり、私も同様に不安を抱えていました。彼らは演技だけでなく、制作にも携わり、現場と本業を両立させていました。この忙しくも充実した日々が、不安を吹き飛ばしてくれたのです。
彼らは素晴らしい俳優です。カメラとの距離を縮める演技を巧みにこなし、自然で深みのある演技を見せてくれます。シュー・ガンのキャラクターは、オープンで純粋。まるで子どものような雰囲気で、大胆な行動の中にもどこか無邪気さがあります。ジャン・ジーヨン演じるキャラクターは、もっと慎重で思慮深い。情熱的でありながらも抑制された彼は、やがて愛に突き動かされて一歩を踏み出し、勇気を奮い立たせる瞬間を待ち続けます。愛の魔法は日常のルールを破ることにあり、深い繋がりへの切なる思いから、人々を非凡な行動へと駆り立てます。彼らは繊細な関係を見事に演じ、それぞれが主人公として期待に応える演技を見せてくれました。

第二稿で、リウ・イン(劉英)とアブ(阿武)というふたりのレズビアンキャラクターを登場させました。リウ・インは理髪師でゲイのリー・シャンチュエン(李尚泉)と偽装結婚をし、子どもを授かり、家族をつくる夢を叶えたいと考えています。アブは男性を信用せず、パートナーのリウ・インを守り、愛の名の下に支配権を主張するという、あまり見られない性別間の力関係を描きました。このようなジェンダー関係を絶妙に流動的に表現しました。
レストランでのふたりのシーンは、戦闘のような緊張感を持ちつつ、ふたりの関係の危うさや優しさを表現しています。このシーンによって、一方が支配的で他方が受動的であるという関係をまず築きます。シュエ・バオホー(薛宝和)が円盤の衝突により倒れるシーンには、リウ・インとアブは登場しませんが、レストランでの戦闘シーンを彷彿とさせます。シュー・ガン、ジャン・ジーヨン、シュエ・バオホーの3人が交差するシーンは、映画的で、現実の世界にも起こりうるような意外性もあります。このシーンの繊細さが気に入っています。
リウ・インとアブの高架上のシーンは、ふたりの間の暗黙の駆け引きであり、互いへの愛情を表現する方法でもあります。そしてふたりの最後のシーンは、とても美しく心を動かすものだと思います。

現代、私たちは常に信頼に関する不安や危機に直面しています。アイデンティティ・ポリティクスの文脈ではこのような感情はさらに強まります。このシーンでは、危機的状況において、最終的に信頼が勝る瞬間を描き、同時に人間関係における理想的で希望あるビジョンを象徴しています。しかし、キャラクターたちにとって、この信頼は目的あってこそのものです。特にシャンチュエンに至っては無力感が混じっています。彼の葛藤は、私たち自身の困難な状況を映し出しています。
私は、決まりきった枠を外して音楽を使うのが好きです。音楽と映像の同期やわずかなズレによって興味深い効果が生まれ、音楽がまるで目に見えないキャラクターのように働くこともあります。音楽は美学を高め、感情を深め、温かさ、遊び心、ユーモア、重み、運命感といった層を加えます。音楽によって描かれる世界はより鮮やかで愛着の湧くものになります。作曲家の陳筱舒(チェン・シアオシュー)と私は、従来の手法からの解放を目指しました。彼女は学術的な背景を持ちながらも、監督主導の表現に鋭い洞察を持ち込みます。“Manchurian Tiger”での初めての共同作業は高いクオリティを築いてくれましたが、彼女は本作でも第2の傑作を生み出したと思います。

人、もの、環境など、物語における“思いもよらぬ繋がり”を大切にしています。映画は文字と映像、音によって独自の世界を築きます。鶴岡(ヘガン)は私の創造の源であり、過去と現在を象徴する場所であり、「もしも」を想像するためのキャンバスでもあります。しつこく喋る男を黙らせる方法はいくらでもありますが、私はシュエ・バオホーを倒すことにしました。誰も気づいてはいないようですが、その後、円盤は故郷鶴岡(ヘガン)の空を舞い、私の過去作品のシーンを横切ります。よく見ると、円盤には独特の模様があります。握手しているのです。
モノクロ撮影は新しい試みでした。そもそもこれは撮影監督の王維華(ワン・ウェイホワ)の提案で、中年俳優たちをクラシックなモノクロのスタイルで描きたいというものでした。モノクロにより俳優たちの顔には気品や高貴さ、孤独感が生まれました。テスト撮影でもモノクロの効果は説得力があり、映画にシンプルな美学を添えることができました。結婚写真のカラー映像は、当初から考えていました。これは、「このようなシーンは祝祭的で鮮やかであるべきだ」という現実的な期待を反映しています。ラストでの突然のリアリズムはドラマチックな緊張感を生み、これまで見てきたものすべてを再考させる効果を持っています。

現実の世界の面白さを捉えることに喜びを感じます。不条理だと言う人もいるかもしれませんが、不条理こそ現実ではないでしょうか? 不条理さや面白さなどのバランスを取ることは難しく、どの作品もその均衡を見つけるプロセスです。哲学者のように考えながらアプローチするわけではありません。哲学的思考は大いに尊敬していますが、私はむしろ映像と音響の言語を使って、具体的な対象や人物を描きます。とにかく、これからも挑戦し続けます。
11月15日より渋谷・ユーロスペースほか全国順次公開。
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