池田エライザが語る「映画の力」、そして「本当の豊かさ」について【第38回東京国際映画祭】
2025年11月10日 15:00

俳優としてだけではなく、監督としても映画の可能性を追求している池田エライザ。第38回東京国際映画祭では、映画を通して環境、貧困、差別といった社会課題への意識や多様性への理解を広げることを目的とする「エシカル・フィルム賞」の審査委員長を務め上げた。学生たちと議論を深めながら審査に挑んだ池田が、その期間を通して考えた「本当の豊かさ」。そして、実感した「映画の力」について語った。
2023年に新設された「エシカル・フィルム賞」は、東京国際映画祭にエントリーされた新作の中から、「人や社会・環境を思いやる考え方・行動」という「エシカル」の理念に照らした作品がノミネートされ、審査会を経て1作品を選出するもの。今年ノミネートされたのは、西アフリカの国々の内戦と少年兵の実態を描いたアニメーション映画「アラーの神にもいわれはない」、経済的に追い詰められたシングルマザーが性風俗へと足を踏み入れていく姿を映す「キカ」、余命わずかな祖母の看病を通じて深い友情で結ばれていく3人のティーンエイジャーを綴る「ガザ・ブランカ」の3作品。審査員は、学生応援団の魚住宗一郎さん(慶応義塾大学2年)、須藤璃美さん(獨協大学3年)、津村ゆかさん(東洋大学4年)が務めた。
審査と授賞式を終えた池田は、「どれも“好き系”の映画ばかりでした」と笑顔。厳しい現実を捉えながらも、「すべての作品に通じるのは、絶望だけを描いているわけではなく、そこに救いがあること。少年漫画の主人公のような大きな飛躍ではないにしろ、いろいろなことに苛まれながらも希望を見出したり、昨日よりは強い一歩を踏み出していこうとする姿を目にすることができました」と豊かな映画に触れる機会になったという。

「エシカル・フィルム賞」に選ばれたのは、「ガザ・ブランカ」だ。審査員の「満場一致だった」と明かした池田は、「愛情が土台にあって、他者を思いやることの美しさを静かに描いた作品」だと称える。都市のスラム出身者の視点から社会的リアリティを描いてきたブラジルのルシアーノ・ヴィジカル監督による本作では、リオデジャネイロに住む少年デーが、家賃や医療費の支払いもままならない中、親友2人の助けを借りながら、アルツハイマー病の祖母と暮らしていく姿がみずみずしく映し出されている。
池田は「おばあちゃんの“車椅子に乗る、降りる”という行動ひとつを取っても、『手伝ってやるよ』という言葉もなく、当然のように友だちがおばあちゃんに手を差し伸べていて。デーが『おばあちゃんを山に連れて行ってあげたい』と言えば、友だちがおばあちゃんを抱いて山に登ったりと、誰かを助けることが“何も特別ではない”という姿が映し出されていました」としみじみ。「街全体で子どもを育てているような空気感もあって、いろいろなところに“人の時間”や、愛情を感じました」と熱っぽく語る。
ブラジルという地球の裏側で繰り広げられるドラマから、「人との距離感」にもまぶしさを感じたという池田。「主人公の3人組の男の子たちが、ずっと肩をぶつけながら歩いていて!彼らの心のつながりを惜しげもなく見せつけられているようで、本当にステキだった」と声を弾ませつつ、「私自身、お芝居で“人と肩をぶつけながら歩く”ってやったことがないかもなと。それは、ものすごく日本人的なことなのかと思ったりしました。気づけばどんどんパーソナルスペースが広くなってしまっている人たちが見たら、きっと刺さるものがあると思います」とぜひ鑑賞してほしい映画だとアピール。
みずみずしい青春劇でありつつ、まさに「人や社会・環境を思いやる考え方・行動」という「エシカル」の理念を体現しているような作品だったと続ける。
「豊かさや思いやり、優しさについて、私自身、すごく難しく考えていたのかもしれない。本当の思いやりを持っている人たちは、誰かに手を差し伸べる時に立ち止まったり、考えたりしないんだなと。まずは視界をクリアにして、いろいろな人に感謝をして、いろいろな人に豊かな愛情を持って接したら、同時にあらゆる悩みも消えていくんじゃないかなと本気で思わせてくれました」と力を込め、「私自身、安定と安心が欲しくてすごく働いてしまう“働き虫”なので、心の豊かさを代償に、生活の豊かさを求めてしまってはいないだろうかと考えました。技術を活かせる職、おいしい食事、ほしい衣服など、そういったもので一時的な豊かさを得られたとしても、デーたち3人組のように愛情で寄り添っていく豊かさがなければ、きっと孤独になっていく」と、映画を通して「本当の豊かさ」について思考を深めている。

審査会で、池田は「個人的なことは、社会的なこと。“個人としてどう感じたか”を大事にしていこう」と審査に携わった学生たちに呼びかけたそう。授賞式では、映画祭で受賞作品を決めることに緊張しきりだったという学生たちが、その言葉にとても救われたと明かしていた。
式典のステージでも学生たちの話を丁寧に拾い上げたりと、池田の言葉や態度からはいつも、人への思いやりにあふれた温かな人柄伝わる。池田は、「ただ単に、私は不器用で、人に気を遣いながら生きてきたところがあって。いろいろと考えすぎてしまうんですよね」と苦笑いで自己分析。「幼少期の家庭環境や、経済的に厳しい経験もしたりと大変なこともありましたが、それに有り余るほどの母の愛を感じて、いつもそこに救い上げてもらっていました。もし今、私が誰かに寄り添えているとしたら、もらった愛の大きさのおかげ」と彼女の思いやりの原点は、周囲の愛から育まれている様子だ。
池田は常に、「俳優・映画監督として映画に関わらせていただている中で、映画を通して世間の役に立ちたい、誰かを救いたいという思いを体現していくのは遠回りで、自分自身がボランティアに行ったほうが早いんじゃないか? と悩み続けている」という。「エシカル」という視点で審査員長を務めた経験を通して、映画の力を実感したことはあるだろうか。

「ニュースや記事を見ていると雑学的なことは増えるけれど、その場の風景まで垣間見えてくるのが、映画のいいところ。また映画の多くは、100人単位の人が集まってできるものです。『彼らは、どうしてこの瞬間を世界に届けたいと思ったんだろう』と知ろうとすること自体、ひとつの体験になっていく。今回改めて、映画を観ることは、旅をすることに近いんだろうなと思いました」と痛感しながら、「私自身、今回の作品たちから救いをもらいました。自分たちが作った映画だって、もし誰かの人生を手助けする船にならなかったとしても、また別の誰かにとっては救いになるかもしれない。ひとりの俳優として、匙を投げずに、作品に参加し続ける。それが大事なんだと思いました」とまっすぐな瞳を見せた池田。
彼女が原案・初監督を務めた「夏、至るころ」(20)は、悩むことさえも尊いと感じられる美しい青春映画だった。「最近はあまり落ち込むこともなくなったり、忙しなく仕事をするうちに、“最強女”になっているなと思うことがあった」と目尻を下げた池田だが、「学生の皆さんと議論をしていると、いろいろな視点で登場人物に共感を寄せていて。そんな姿を見ていると、今の私は悩みを遠いところに追いやって、見えないようにしているだけなんだと感じたりもしました。最強なのではなく、不器用になっているだけだ!と気付かせてくれました。また若いみんなが、映画を大好きなんだと感じられたこともものすごくうれしかった」とニッコリ。加えてすばらしい作品群に作り手として「嫉妬した」と告白する一幕もあり、「私もまた、映画を撮ります!」と監督宣言。「エシカルな、命についての話を描けたらと思っています」と意欲をにじませていた。
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