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廃墟となった映画制作所が舞台、映画人への敬意と映画への愛に満ちた物語 コンペティション作品「春の木」囲み取材【第38回東京国際映画祭】

2025年11月1日 13:00

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画像1(C)2025TIFF

鬼才チャン・リュル(張律)が、四川省・成都を舞台に撮り上げた新作「春の木」が、第38回東京国際映画祭のコンペティション部門で上映された。共同体における人々の対話を丁寧に描きながら、「場所(トポス)」を軸とした独自の映画美学を築き上げてきた鬼才の映画作りは、いかなる思想のもとに行われているのか。来日したチャン監督の記者会見には、その創作哲学に迫ろうと多くの報道陣が詰めかけた。

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【「春の木」あらすじ・概要】
 挫折した女優の帰郷から始まる物語は、彼女を取り巻く人間関係にとどまらず、言語、映画、そして歴史の忘却という、有史以前から世界が抱えてきた壮大な主題へとつながっていく。
――本作品では、創作に携わる人々の営みを丁寧に描きながら、映画の歴史という大きなテーマにも向き合っています。

劇中に登場する峨眉映画制作所は、1958年に設立された映画制作所です。現在では本来の機能を失い、すっかり廃墟となっています。スタジオだけでなく、かつてスタッフが暮らしていた宿舎も残っており、それらもすっかり古びてしまっているのです。

ちょうど私が現地を訪れた時、これらのスタジオや住宅を新しく建て直そうという計画が進んでいました。けれども私は、その廃墟が放つ独特の雰囲気に強く惹かれたのです。別の用件でたまたま峨眉映画制作所を訪れたのですが、その場に立ったとき、私はこの場所の持つ時間の堆積に圧倒され、取り壊されてしまうことを非常にもったいなく、惜しいと感じました。

そこで、映画を撮るにあたって、その思いを制作所の幹部に伝え、「私は長い時間をかけずに撮影しますから、ぜひここで撮らせてください」とお願いしたのです。その時点では、どのような映画を撮るのか自分でもまだ明確ではありませんでした。ただ、映画制作所の内部には、フィルム時代の機材や資料などが多く残されており、その痕跡が私に強いインスピレーションを与えました。

やはり、そうした空間に身を置くと、自然と映画史そのものと関わらざるを得ない。峨眉映画制作所はフィルム時代の産物であり、現在のようなデジタル主体のスタジオとは全く異なる空気を湛えています。そこには、かつてここで映画を撮っていた人々の思いや情熱が今もなお息づいており、その痕跡を感じ取ることができました。

この映画は、そうした過去の映画人たちへの敬意と、映画そのものへの情に満ちた作品になったと感じています。

画像2(C)2025TIFF
――主演を務めたバイ・バイホーさんやリウ・ダンさんといった俳優の起用について教えてください。

リウ・ダンさんとは二度目の協働になります。バイ・バイホーさんについては、これまでに出演作をいくつか拝見しており、その演技に強い印象を持っていました。今回は、撮影の準備期間が非常に短く、できるだけ早くクランクインする必要があったため、まず「今すぐ参加できる俳優は誰か」という点が大きな問題でした。バイ・バイホーさんとは友人の紹介で出会い、直接お話をして出演をお願いしたところ、快諾してくださったんです。リウ・ダンさんとは既に信頼関係がありましたので、出演の話もすぐにまとまりました。

当時はまだ脚本が完成しておらず、せいぜいあらすじ程度しか存在しない状態でした。ですから、現場で新しいセリフやシーンを書いて、その日のうちに俳優に渡すというような即興的な制作方法をとっていました。それでも彼らは見事に対応してくれて、私の想像を超える演技を見せてくれた。彼らの持つ経験と技術、そして創造性の高さに何度も驚かされました。

春の木」の撮影を終えたあと、私はかなりの疲労を感じていて、しばらく休息を取ろうと四川省の峨眉山の方へ向かいました。その途中、成都市からそう遠くない罗目(Luomu)という町に立ち寄ったのですが、予定を変更して三日ほど滞在することにしたんです。するとその滞在中に、新しい映画の構想が自然と浮かんできました。

春の木」では「」をテーマにしながらも、どこか曖昧な感情が残りました。だから次の作品(「Gloaming in Luomu」、第30回釜山国際映画祭コンペティション部門最優秀作品賞)では、より明確にラブストーリーを描こうと考えたんです。

その際、「春の木」にも出演してくれたワン・チュアンジュンさんに声をかけたのですが、別の作品の撮影が入っており、残念ながら出演での参加は叶いませんでした。ただ、声の出演という形で協力していただきました。一方で、リウ・ダンさんは休養中、バイ・バイホーさんは新作との契約直前というタイミングでしたが、最終的にどちらも出演を快諾してくれたんです。

結果的に、「春の木」に続いて三人が再び私の作品に関わってくれることになりました。私自身、「春の木」の撮影中は非常に疲れを感じていたのですが、彼らにとってはむしろ撮影が楽しく刺激的な経験だったようです。そのことが、今回の作品にも良いエネルギーをもたらしてくれたと感じています。

画像3(C)2025TIFF
▼会場からは、監督の豊かな語りに呼応するように、記者たちから次々と質問が寄せられた。以下に、その質疑応答の内容を紹介する。
――先ほど、スタジオの中にフィルム時代の人々の思いが残っていると感じたとおっしゃっていましたが、この映画の撮影にあたって、特に監督の心に残った出来事や印象的なエピソードがあれば教えてください。

そうですね。今回撮影を行った峨眉映画制作所という空間に立ったとき、普段ならあまり意識しないような「時間の痕跡」というものを強く感じたんです。そこには、かつてこの場所で映画を作っていた人々の気配や息づかいのようなものが、今も確かに残っているように思えました。

私自身もフィルムの時代からキャリアを始めていますので、そうした「映画を作る」という行為に宿る記憶の重みには、特別な共感を覚えます。もちろん今はデジタルの時代ですが、あの廃墟となった映画制作所の中には、確かにフィルム時代の時間の流れ、そしてそこに関わった人々の思いや情熱が、まだ息づいているように感じました。そうした「時間の層」がいまも空間の中に残っているということに、深く心を打たれました。

――物理的なものや人が失われることで、歴史そのものが忘れ去られていくように感じます。そうした「失われていくこと」に対して、監督はどのようにお考えでしょうか。

あらゆる芸術、映画に限らずすべての芸術は、失われ、忘れられていくものとどう結びつき、どう抗っていくかという行為だと思います。何かをそのまま留めておくことは非常に難しいですが、そこにあった情感や思いを新しい何かの中に取り込むとき、新たな機能が生まれるのです。つまり、古いものをいかに新しいものの中に息づかせるか、そこが重要だと思います。それができれば、私たちはより強く、優しく、そして開かれたものと向き合うことができるのだと思います。(取材・文/小城大知、通訳/樋口裕子

第38回東京国際映画祭は11月5日まで、日比谷・有楽町・丸の内・銀座地区で開催。チケットは公式HPオンラインチケットサイトで発売中。

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