坂下雄一郎監督が明かす、「金髪」の主人公の設定を30歳にした理由【第38回東京国際映画祭】
2025年10月24日 21:00

第38回東京国際映画祭が、10月27日から開幕する。コンペティション部門に選出された個性あふれる世界各国の作品15本には、日本映画が2本含まれている。そのうちの1本である「金髪」は、坂下雄一郎監督が岩田剛典を主演に迎えて描いたオリジナル作品。公式上映を前に、坂下監督に話を聞いた。
【ストーリー】
ある日、中学校教師の市川(岩田剛典)は金色に髪を染めてきた生徒たちへの対応を強いられる。その夜、恋人の美咲(門脇麦)からは結婚の話を切り出され…。校則に抗議する金髪デモが騒動となる中、恋人にも辛辣な言葉を浴びせられた市川は、デモを計画した生徒の板緑(⽩⿃⽟季)とある作戦に打って出る。
ある日、中学校教師の市川(岩田剛典)は金色に髪を染めてきた生徒たちへの対応を強いられる。その夜、恋人の美咲(門脇麦)からは結婚の話を切り出され…。校則に抗議する金髪デモが騒動となる中、恋人にも辛辣な言葉を浴びせられた市川は、デモを計画した生徒の板緑(⽩⿃⽟季)とある作戦に打って出る。

坂下監督(1986年生まれ)はオリジナル脚本による群像劇のコメディを得意とし、これまで「ピンカートンに会いに行く」(2018)、「決戦は日曜日」(2022)などの快作を手がけてきた。6本目のオリジナル作である本作で東京国際映画祭のコンペ初選出となったが、「君の顔では泣けない」(25)も今回ガラ・セレクション部門にセレクトされており、今後ますますの活躍が期待されるひとりと言えるだろう。
──作家の村上春樹さんは、前々から成人式は30歳にすべきであると唱えています。この作品にも通じる話題では?
坂下雄一郎監督(以下、坂下監督):ある意味、そういう映画です(笑)。
──本作は、第22回香港 - アジア映画投資フォーラム(HAF)で、非香港映画を対象としたIDP部門の企画大賞を受賞された作品です。作品の成り立ちをお聞かせください。
坂下監督:2世議員の選挙活動を描いた「決戦は日曜日」(22)を監督した後、その作品のプロデューサーの方からお誘いがあり、当時、世間で話題になっていた校則をテーマにしたコメディを提案しました。校則は旧態依然として、変わりつつありますが今の時代にそぐわないところもまだあります。そこに着目して映画を作ったら面白いんじゃないかと考えました。最初は教師や教育委員会、文科省の官僚などの群像劇を考えましたが、アイデアを練るうちに、ひとりの教師を主人公にしたコメディが見えてきました。香港アジア映画投資フォーラム(通称:HAF)で企画が表彰されたのは、脚本とキャストはもう決定していて撮影に入る前の時期です。海外で企画が評価され、大変励みになりました。

──髪型に関する校則に抗議する生徒たちが、金色に髪を染めて集団登校する騒動を描いています。
坂下監督:映画のテーマを考えている時、制服に関する校則に抗議するため、男子生徒たちがスカートを履いて登校したという海外のネットニュースを思い出し、日本ならどんな抗議活動になるんだろうと考えました。
──作品には、この騒動をめぐる様々な意見や対立がシニカルに描かれます。
坂下監督:発端にあるのは生徒の抗議活動ですが、振り回される大人の側をメインにすることは最初に決めていたので、もし本当にこのように生徒が抗議してきたらどう対応するのか、教師から官僚までいろんな方々に地道に取材し、そこで聞いた話を取り入れました。具体的な事例をもとにして書き進め、ありえないと言われたら、だったらこう。と推敲を重ねました。教師の日常生活についても自分は全然知らなかったので、取材して場面を作りました。
──主人公の中学校教師・市川のキャラクターはどう描かれましたか。
坂下監督:最初は、いい人が「嫌だ嫌だ」と言いながら働く姿を想像しましたが、この人には少し嫌味なところがあった方が面白いと気付き、周りから自分が好かれているのをある程度自覚したキャラクターにしました。モノローグを入れたのは、そんな人が頭の中で何を考えているのか再生させたら面白いと思ったからで、リアルタイムの説明ではなく、誰かに取材されている感覚で未来から映画の時系列を振り返るようにすれば、コメディ要素として嘘や誇張も入れ込めると想像しました。
──30歳という設定はどこから出てきたんでしょう。
坂下監督:脚本を書き進めるうちに、年齢が本作では重要な要素になると気づいて、日本人は30歳を区切りとして意識することが多いと思い市川の設定を30歳にしました。

──中学生側の主人公の板緑も魅力的です。
坂下監督:金髪デモを起こす中学生側にもメインのキャラクターがいて、市川と議論させたいと思いました。中学生が真っ当な議論を仕掛けてきて、子供なのに大人びたことを言うのはコメディとして面白そうというところから、彼女のキャラクターは詰めていきました。弁が立って賢い。それでいて正義感もある。二人が議論するシーンは、エリック・ロメールの「木と市長と文化会館 または七つの偶然」(1992)で、10歳くらいの女の子と市長が議論するシーンに影響されています。
──「決戦は日曜日」に「大人になりましょうよ」という台詞がありますが、本作でも大人になることが問われています。
坂下監督:校則をテーマにする一方、この作品もまた年齢を重ねることをテーマにしていて、大人になりきれない教師を岩田剛典さんが、大人びた子供を⽩⿃⽟季さんが演じています。岩田さんは歌手・パフォーマーとして第一線で活躍されている方ですが、笑顔の裏に何かある感じもあって今回の役柄にぴったりでしたね。⽩⿃さんはオーディションで選びましたが演技がうまくて、本編でも期待に応えてくれました。
──門脇麦さん演じる恋人のセリフも良いですね。ピリ辛でありながらもユーモラスで。
坂下監督:恋人のセリフもそうですが、一教師のドタバタを描きながらも、言葉と会話でくすぐるウディ・アレンのようなトーンのコメディを目指し、撮り方など大いに影響を受けました。
取材構成/赤塚成人(四月社)
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