【パリ発コラム】アカデミー賞国際長編映画部門フランス代表はイランで撮られたジャファル・パナヒ監督新作
2025年9月28日 12:00

来年のアカデミー賞の国際長編映画部門を睨んで、各国の代表作が続々と発表になっているなか、フランスも最終リストに残った5作品のなかから代表作品が決定した。選ばれたのは、今年のカンヌ国際映画祭でパルムドールに輝いたジャファル・パナヒ監督の「Un simple accident」だ。
これってイランで撮られたペルシャ語によるイラン映画じゃないの?と思う方もいるかもしれない。だが、フランス、ルクセンブルク、イラン合作のなかでフランスの比率が9割を超えるため、立派な「フランス映画」という認識なのだ。
では、いったい誰が選んで決めているのか? これはフランス政府の機関であるCNC(フランス国立映画、映像センター)が音頭を取り、委員会を組織して選考される。今年のメンバーは11人で、オドレイ・ディワン監督、フロリアン・ゼラー監督、俳優のクレマンス・ポエジー、さらにプロデューサー、セラーなど。業界人はともかく、監督や俳優などがどのような基準で委員に選ばれているのかは定かではないが、彼らの審査により決定された。
5作品はパナヒ監督のほか、カンヌで女優賞を受賞したアフシア・エルジ監督の「La Petite Dernière」、リチャード・リンクレイター監督がフランスで撮った「Nouvelle Vague」、レベッカ・ズロトブスキがジョディ・フォスターを起用した「Vie Privée」、アヌシー国際アニメーション映画祭でクリスタル賞を受賞したユゴ・ビヤンブニュ監督の「Arco」。
今回の決定に関してCNCのプレジデントであるガエタン・ブリュエルは、「偉大な映画監督、ジャファル・パナヒによるこのイランの物語は、フランス、とくにCNCの惜しみない支援により、(フランス国内で設立された製作会社が対象の)<世界の映画への援助システム>を通して制作されました。本作は、映画が発明されてから130年、我が国が国際共同製作に意欲的な国であり、世界中のクリエイター、とりわけ自国で制作活動ができない人々を温かく迎える地であることの証でもあります。この作品が栄えある賞を受賞することを願っています」と発表した。

もっとも、業界関係者からは、この決定に不服の声も上がった。彼らにとっては「せめてお金のみならず、内容的に何かしらフランスに関係したものがあるべきではないか」、というのが言い分で、心情的にそれはわからないでもない。たとえばリンクレーター監督はアメリカ人だが、彼の作品は完全にフランス制作であり、テーマもずばりヌーベル・ヴァーグ(ゴダールが『勝手にしやがれ』を撮った舞台裏を描く。もちろんメインの言語はフランス語)であるから、その趣旨ではこちらの方がフランス的だ。だが合作が増えている昨今、ブリュエルが語るように「フランス映画」の基準もまた大きく様変わりしているわけで、これは映画界の変化に合わせた柔軟な姿勢と言えるだろう。
そもそもフランスはむかしから芸術に関しては開かれた国で、どの分野においても海外からのアーティストを積極的に受け入れてきた伝統がある。外部からの新風を取り込むことで、フランス映画界が硬直化するのを防げるという利点も挙げられる。
もうひとつ、率直に言ってこの5作品のなかで一番賞に近そうなのがパナヒ監督と思われたのではないか。なんといっても「パルムドール」という肩書きがあるし、イラン政府に拘束されていた監督で、ゲリラで撮影をし続ける「闘う監督」として知られている。また本作のテーマは復讐と赦しであり、加えてユーモアやアクションも含まれているので、普遍的で万人向きである。つまり、「賞を取りに行く」ことを基準に選択されたところも多分にあるに違いない。
いずれにしろこの選択が吉と出るか否かは、来年3月のお楽しみだ。(佐藤久理子)
執筆者紹介

佐藤久理子 (さとう・くりこ)
パリ在住。編集者を経て、現在フリージャーナリスト。映画だけでなく、ファッション、アート等の分野でも筆を振るう。「CUT」「キネマ旬報」「ふらんす」などでその活躍を披露している。著書に「映画で歩くパリ」(スペースシャワーネットワーク)。
Twitter:@KurikoSato
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