原作は、2000年に刊行され、25年経った今も世界中で愛読されている傑作短編連作「神の子どもたちはみな踊る」(新潮文庫刊)。同著に収録されている4編をベースに一部時代設定を変更、1995年から2025年の30年にわたる物語として新たに生まれ変わった。
1995年の阪神・淡路大震災以降、それぞれ別の時代・場所で孤独を抱える4人の人生が交錯し現代へ繋がる、喪失と回復の物語。4月に放送されたNHKドラマ「地震のあとで」と物語を共有しながらも、4人を結ぶ新たなシーンが加わり、映画版ならではの編集で劇場公開となる。脚本は「ドライブ・マイ・カー」の大江崇允が担当している。
座談会の模様は、以下の通り。
(C)2025 Chiaroscuro / NHK / NHKエンタープライズ――本作は4つのパートに分かれており、皆さんはそれぞれ別の物語で主人公を演じられています。まずは、ご自身が出演しているパートで一番印象に残っているシーンを教えてください。
岡田 印象に残っているのは、釧路で撮影された
橋本愛さん演じる未名が草原の中でUFOの光のようなものを見つけて走っていくシーンです。すごく幻想的で、大掛かりな撮影でした。この映画の象徴となるシーンになったのではないかと思います。
井上監督 確かにあのシーンの撮影は大がかりでしたね。広大な範囲の撮影をしていたので、牧草地を借り切って撮影しました。撮影したのは夏で、草木が伸びまくっていたので、それを刈り取るのも大変でしたね。
(C)2025 Chiaroscuro / NHK / NHKエンタープライズ鳴海 私は、やっぱり焚き火のシーンが印象的でした。風向きで表情が変わるので、撮影に入る前にスタッフさんが何度もリハーサルを重ねてくださいました。皆さんの努力のたまものだと思います。
堤真一さん演じる三宅と私が演じる順子の心の移り変わりと、焚き火の炎の動きとリンクしながらお芝居ができた感覚があって、CGを使わずに実際の火を目の前にして撮影ができてとても良かったと思います。
井上監督 すごく長いシーンで、撮り始めたらカットがかけられない撮影だったんで、助監督が「焚き火台本」を作っていたんです。こういうお芝居だったら、これくらいの火の量がいいなというものを、その台本に書いていたんです。火にくべる流木も、かなり量が必要だったので、一カ月以上探して集めてきました。
鳴海 一回、カメラを回したら最後までお芝居を続けるという舞台のような撮影だったんですよね。
井上監督 台本でいうと20ページくらいありましたね。「揺れる火」というのも、「クエイク」のひとつなんですよね。
(C)2025 Chiaroscuro / NHK / NHKエンタープライズ渡辺 自分は夜の野球場に忍び込んでいくシーンを思い出します。しげみをかき分けて野球場に入っていくということに、何かの体内を入り込んでいくような感覚がありました。野球場にぽつんとひとりだけというのも初めてで、野球場という場所が世界のすべてのように思う感覚もありました。映像に映ったときも、そんな風に見えたらいいなと思っています。ちなみに野球場も貸し切ってくれたんですよね。
井上監督 そうです。野球場も貸し切りでした。そのシーンは、自分のルーツ探しのように、何かの力に引き寄せられるような感覚のシーンにしたいねと現場でも話していたんですよ。
(C)2025 Chiaroscuro / NHK / NHKエンタープライズ佐藤 僕は非日常的なロケ地が必要なシーンが多かったんですけど、それで行った地下トンネルが凄かったですね。全部で19キロあるんですよ。しかも、撮影現場まで行くのも2~3キロあるんで、トイレに行くまで2~3キロ歩かないといけないというね。それと、僕が演じる片桐が夢から覚めて現実かわからない場面で住んでいるアパートメントがかなり変わった構造で作られているんです。ボックスを積み重ねたような作りで、万博前に作られたんですけど、震災も乗り越えたものなんですよね。
井上監督 相当大きなマンション群なんですけど、その中のひとつのエリアをこれまた貸し切りましたね。ロケ地は神戸出身のプロデューサーの山本さんが見つけてきまして、できた当時からすごく突飛でモダンな建物だったそうです。
佐藤 山本さんが紹介してくれた串揚げ屋のエビもぷりっぷりでうまかったですね(笑)。
(C)2025 Chiaroscuro / NHK / NHKエンタープライズ――明日、何が起こるかわからない現代において、生きる希望を感じるときってどんなときですか?
岡田 プライベートで大きな変化があったので家族の存在ですね。やっぱり、仕事への活力にもなりますし、明日への希望にもなっていますし、家族のために必死に生きようと思っています。
鳴海 私の場合は知らないものを知りたいという好奇心が生きる希望になってます。辛いなと思うことがあっても、面白い作品に出会うとワクワクしますし、知らない国に行ってそこで生きている人たちに出会うのも好きです。一人旅が好きで、ちょっと前にカナダの友だちに会いに行きました。そのとき、いいホテルを取ったのに、台風でバスが出なくて…。結局そのホテルに行けなくて、大変だったんですけど、そういった経験で強くなれるのが好きだし、苦しいときにも面白がって生きていきたいなって思ってるんです。
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(C)2025 Chiaroscuro / NHK / NHKエンタープライズ渡辺 皆さんの話を聞きながら何を話そうか考えようと思ってたんですけど、鳴海さんの話が面白くて考える時間がなかったですね(笑)。でも、いろいろ考えると、友だちと話すことが希望ですね。一人の時間も好きなんですけど、誰かと自分の好きなこととか大事なことを共有できたら、一人じゃなかったんだと思えるし、希望だと思えます。例えば、友だちじゃなくて初めましての人でもいいんですけど、自分の大事な感覚を共有できたときに、一人じゃなかったんだ、生きてたんだと思えます。希望と聞いて、そういうことを思いました。
佐藤 僕はもう半世紀くらい芝居をしてるんですよね。最初はフィルムからはじまって、やがてフィルムじゃなくなって、最近は技術が発展して、セリフと一緒にガヤも撮れるようになっていたりして、スタイルがどんどん変わっている。そういう変化を経験できることを希望にしないといけないなと思います。明日の現場があって、その現場がどんどん変わっていて、そこで新しい出会いもある。そんなことが体感できていることは、本当に恵まれてるなと思います。それと同時に現場の居住まいも変わってきていて、それはすごくいいことなんだけど、時には厳しいことを見つめることがエネルギーになることもあると思うので、どんな風にしたらよくなるのかを見極めながらやっていかないといけないなと思っています。
(C)2025 Chiaroscuro / NHK / NHKエンタープライズ――監督はいかがですか?
井上監督 僕のことはもういいでしょうと思いますが(笑)、やっぱり明日の予定があることはいいことだなと思いますね。
渡辺 監督が仰るように、明日の予定があることっていいなーって僕も思いました。
佐藤 僕は予定があるのはうれしいけれど、撮影が午後の開始だとさらにうれしいですね。午後に開始で、定時に終わることが希望です(笑)。
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