「MELT メルト」あらすじ・概要・評論まとめ ~ひとりも味方がいない世界で生きる苦しさと切なさ~【おすすめの注目映画】
2025年7月24日 09:30

近日公開または上映中の最新作の中から映画.com編集部が選りすぐった作品を、毎週3作品ご紹介!
本記事では、「MELT メルト」(2025年7月25日公開)の概要とあらすじ、評論をお届けします。

少女時代のトラウマを抱える女性のはかなくも美しい復讐劇を描いた、ベルギー・オランダ合作によるリベンジスリラー。「オーバー・ザ・ブルースカイ」などへの出演で知られるベルギーの女優フィーラ・バーテンスが長編初監督を務め、大人になった主人公が過去の忌まわしい出来事を回想する構成で描き出した。
ブリュッセルでカメラマンの助手として働くエヴァには親しい友人も恋人もおらず、両親とは長らく絶縁状態にある。そんなエヴァのもとに、彼女が少女だった頃に不慮の死を遂げた少年ヤンの追悼イベントが催されるというメッセージが届く。その報せをきっかけに、かつて起きた惨劇のトラウマを呼び覚まされたエヴァは、謎めいた大きな氷の塊を車に積み、故郷の村へと向かう。それは自らの人生を大きく狂わせた過去と対峙し、すべてを終わらせるための復讐の始まりだった。
本作が長編映画デビューとなるローザ・マーチャントが13歳のエヴァを繊細に演じ、2023年サンダンス映画祭のワールド・シネマ・ドラマティック部門にて最優秀演技賞を受賞。「トリとロキタ」のシャルロット・デ・ブライネが大人になったエヴァを演じた。

「家具も何もない部屋で男が首を吊っている。男の足元には大きな水たまりがある。男はどうやって首を吊ったのか?」――物語の中核をなすのは、父親が13歳の娘に出すにはブラックすぎるクイズだ。このクイズは2つの役割を果たしている。ひとつは、現在と過去をつなぐブリッジの役割。もうひとつは、エヴァの心理を物語る役割だ。
何もない空間で宙づりになった男のように、13歳のエヴァ(ローザ・マーチャント)は、足をつけられる居場所がどこにもないと感じている。アルコール依存症の母は妹だけをかわいがり、導火線の短い父はいつキレるかわからない。家庭に安住の地を見出せないエヴァは、三銃士と呼ばれた幼なじみのグループに帰属を求めるが、思春期真っ盛りの男子ふたりとの関係は以前のようにはいかない。とくに、男子のひとりティム(アンソニー・ビット)に片思いしているのだから、なおさらだ。

それでも、三銃士の一員の座を保持するために、エヴァは、ティムが言い出した破廉恥なゲームの推進役になる。ゲームは、「クイズに正解したら賞金をもらえるが、間違えたら服を脱ぐ」というルールで、エヴァは、ゲームに参加する女子の調達と、超難問クイズの出題を担当する。当然、女子からは奇異な目で見られるが、ティムに嫌われたくないエヴァは必死だ。
だが、それほどまでして死守したかった三銃士の絆も、ティムがエヴァに女性として低評価を下したことで崩れ去る。さらに、その後に起きた出来事は、自分の味方になる人間が誰ひとりいない現実をエヴァにつきつける。彼女は、その思いを心の中に凍結させたまま大人になった。ひとりも味方がいない世界で生きる苦しさと切なさ。それを、フィーラ・バーテンス監督は震えるカメラワークで表現する。

大人になったエヴァ(シャルロット・デ・ブライネ)は、何を目論んで故郷に帰って来たのか。13歳の彼女の心を凍結させた出来事は何だったのか。凍てつく冬の現在と、まぶしい夏の過去の謎をシンクロさせながら、「復讐」というキーワードを浮かび上がらせていく作劇は、上質のミステリーのごとし。ただし、謎を解き明かしたうえでエヴァの身の上に心を寄せてくれる刑事や探偵は、この映画には登場しない。その役目を果たすのは観客のあなたであると、この映画は語りかけている。
執筆者紹介
矢崎由紀子 (やざき・ゆきこ)
「自分が気に入った映画をひとりでも多くの人に見てもらうこと」を日々の目標に、ウン十年間地味に原稿を書き続けている映画評論家。趣味はネイサン・レインの舞台の追っかけ。ミュージカル「プロデューサーズ」の初演を十回観たバカは私です。
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