日本のインディペンデントアニメーション、国際的な視野を持つ新たなフェーズに 若手作家たちがパリでお披露目
2025年6月29日 09:00

6月のフランスのイベントといえば、映画業界ではアヌシー国際アニメーション映画祭がある。いまやカンヌ国際映画祭以上の熱気とも言われ、参加する側も観客も、カンヌよりも若手が多い。フランスでは相変わらず日本のマンガ、アニメ人気が根強いだけに、最近は日本からの参加者もますます増えている印象だ。日本の文化庁が、若手アニメーション作家たちの支援に力を入れているのも心強い。
そんななか、パリの日本文化会館で2夜にわたり「アナザー・ニューウェーブ:日本の短編アニメーション作家たち」と題するイベントが開催された。一夜目は東京藝大でアニメーションを学ぶ修士課程の学生による作品の上映、そして2夜目が文化庁による若手クリエイター支援事業の一環で渡仏した6名の作家(ひらのりょう、関口和希、金子勲矩、ニヘイサリナ、矢野ほなみ、折笠良)の作品上映とトークだった。6名とも今回、クロアチアのザグレブ国際アニメーション映画祭からアヌシーを回りパリに到着。すべて短編作品ではあるものの、どれも個性的で強い作家性を感じさせるものばかりだった。

ひらのりょうの「ガスー」(2021)は、タイで有名な頭から内臓だけがぶら下がったガスーと呼ばれるお化けと、ヤクザ映画のようなアクションを合体させたジャンルもの。ポップな色彩とともにひねりを加え、ビザールなエンターテインメントに仕立てている。
関口和希の「死ぬほどつまらない映画」(2017)は、「率直な意見を言ったら友人のあいだで浮いてしまった」という自身の経験をもとにしたショートストーリー。ウサギのような動物を擬人化させたミニマルなスタイルのアニメーションが逆に、複雑な感情を示唆する。見た目はキュートであるのに内容は痛いところを突く、ある意味日本的な世界の作家性を感じさせた。
金子勲矩の「Magnified City」(2022)は、グラフィックデザインを学んだ監督らしく、細部まで描き込んだ映像でSF的な世界が展開する。個人的にはフランスのエンキ・ビラルやジャン=ピエール・ジュネ&マルク・キャロの世界と近いものを感じたが、作風は毎回異なるという。

サグレブで今年、グランド・コンペティション短編部門の審査員を務めたというニヘイ・サリナの「Polka-Dot Boy」(2020)は、カルト宗教団体が秘密裏に蔓延させる奇妙な病の物語。人間の心の闇や集団心理の怖さを浮き彫りにする。つねに手書きで今後もスタイルを変える気はないという、その牧歌的なアニメーションと不気味なテーマのミスマッチが印象深い。
矢野ほなみの「骨噛み」(2021)は、印象派のような点描法を用いて、父親を亡くした少年を描き、詩的なアニメを創作した。「作品ごとにスタイルが変わる」そうで、今後の変化も楽しみだ。
2016年にザグレブで「水準原点」がゴールデン・ザグレブ賞を受賞した折笠良の「みじめな奇蹟」(2023)は、フランスの詩人、アンリ・ミショーの詩とデッサンにインスパイアされた作品。ギョーム・アポリネールが生み出したカリグラムのように、文字による造形で遊んだ映像にミショーの詩が被る。フランスのMiyu Productionsとの共同制作で、フランス語の詩を朗読しているのはドニ・ラヴァン。言葉に趣を置いた感覚は、むしろフランス的なセンスを感じさせた。折笠監督はこの後ロワール地方にあるアニメーション・スタジオCiclic Animationのレジデンス・プログラムに参加し、ボリス・ラベと共同で監督するフランス制作の次回作に取り掛かるという。

上映後には、それぞれ自身の創作スタイルや今後の展望について語った。6人はアヌシーでも次回作のピッチをおこなったというだけに、作画を見せながら資金集めのアピールもしていたのが頼もしい。
日本のインディペンデントなアニメーションといえば、国内でこつこつ作られてきた印象があるが、アニメ制作も国際的な視野を持つ新たなフェーズに来ていると感じさせられた。(佐藤久理子)
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