川村元気監督×二宮和也、カンヌで得た手応えと確信 「二宮くんは日本のダスティン・ホフマン」【「8番出口」インタビュー】
2025年6月27日 18:00

カンヌ国際映画祭のミッドナイト・スクリーニング部門でワールドプレミアを迎え、終映後はメイン会場の観客が総立ち、8分のスタンディング・オベーションで迎えられたのが、川村元気監督、二宮和也主演の「8番出口」だ。インディーゲームクリエーター、KOTAKE CREATEによる「異変」探しの無限ループゲーム、「8番出口」を実写映画化することにチャレンジした本作。ゲームの雰囲気に忠実に、かつサバイバル映画としてのスリルがあり、映画ならではの物語が加味され、あっと驚く仕掛けが用意されている。すでに世界30以上の国と地域での配給が決まり大きな注目を浴びる中、現地で川村監督と二宮に、その胸中を語ってもらった。(取材・文/佐藤久理子、編集/大塚史貴)

川村「前作の『百花』という作品で、『記憶』を表現するために本来繋がらない空間だったり時間がワンカットの中に繋がる映像手法にチャンレジして、それが評価されてサン・セバスティアン国際映画祭で監督賞を頂きました。その表現を使って、まったく新しいジャンルの映画を撮りたいと、いろいろな題材を探していたところ、一昨年の11月に『8番出口』というゲームに出合って一目惚れをしたんです。
極めて日本的に整理整頓された地下通路デザインが素晴らしかった。ループする通路を前に進むか、引き返すかという二択を繰り返すというシンプルながらも強いルールにも惹かれた。けれどもストーリーがない。この空間にインスパイアされた物語が作れたら、誰も観たことがない映画ができるんじゃないかと考えました。
初日にスタッフを前に、『みなさん脚本を読んでもどんな映画になるかさっぱりわからないと思います。でも安心してください。僕もわかりません(笑)。みんなで考えながら作っていきましょう』と言ったんです。いまの観客が映画館で観たいのは、そういう映画だと思っていました。一体どうなるのか分からないスリリングな鑑賞体験。二宮くんは生粋のゲームラバーなので、ゲームを映画にするにあたりどうしていくのか、最初からディスカッションをしながら作っていきました」

二宮「ゲーム全般から捉えていくと、このゲームは見ているだけでも面白いゲームなので、映画にするには持ってこいの題材だろうと思いました。ゲームのテクスチャーが見えてきて、ちょうどよく紐解けているなという感じが映画に落とし込まれていて、分かりやすい。説明を存分にしなくても、徐々に体に刷り込まれていくような気持ちよさがあった。でもあとは物語を作らなきゃいけないわけです。
大体このゲームは40、50分くらいなんですが、その体感は必要だろうと思いました。必要なものは拾っていくけれど、これは省いて大丈夫かなというものは切り捨てて、その余白にストーリーを作っていくというやり方はすごく綺麗だなと思いました。
川村監督は変わったことをやりたいということじゃなく、いろいろな世界のいろいろなものを見てきたからこそ、無いものをやりたいんですよ。 それは僕も一緒。いかに現場にハンカチ落としのようにアイデアをポロポロ落としていって、 誰かがそれを見つけて拾ってくれるかという毎日だったので、お芝居以上の面白さを多面的に感じることができました」

川村 「そういう意味では、既存の映画の作り方とはまるで違う手法で進めていきました。普通はストーリーとキャラクターがあって美術が決まるけれど、まず美術があってそこにキャラクターを置いて、最後にストーリーを作るみたいな順番でした。
ひとつの空間しかないので、 二宮くんに動いてもらって、毎日シナリオを書き変えました。撮ったものを編集して、二宮くんと話し合って動きやセリフが違ったねとなればもう一度書き直し、撮り直しを繰り返した。ゲームのように何回もリプレイしながら正解を見つけていくという。作り方自体、新しいことをやっていました」
二宮「楽しかったですね。感情論で芝居のスケッチを作って、 現場に持っていったら監督と向き合い方が違ったからそこの擦り合わせをするというよりも、こっちをやる、監督が言ったようにもやる、どっちがハマるんだろうみたいなのを後で繋いでみてください、という形でした。僕は撮影監督とあの通路を1日で30周ぐらいしています(笑)」

川村「いきなりカメラを回して、違ったらシナリオを書き直してまた撮るみたいな贅沢な作り方をさせてもらいました。それは現場のスタッフ、俳優さんの理解がないとできないことですが、同じ空間だからこそできる撮り方でもあって。これが地方を点々とするロケだったらできない撮り方だから、こんなチャンス二度とないなと思って。
地下通路で迷う感覚は、世界中の人が理解できる。パリでもロンドンでも上海でも迷う。潜在的に都市生活者が持っている不安。加えて、みんなが内在している罪の意識が可視化される空間として地下通路を描いていった。
ダンテの『神曲』に煉獄という、地獄でも天国でもなくその中間にある場所が出てきます。日常がいつの間にか非日常に接続され、地下通路が人間を試す。ストレートにエンタテインメントとして、でも観たことがない映像表現でやればいろいろな国で観てもらえるんじゃないか、そういう映画にしたいと思いました」

川村「二宮くんのアイデアです。最初話していたときに、主人公に何か負荷があった方がいいねと話し合って」
二宮「それで行き着いたのが喘息でした。というのも、読んだときにホラー味はあまり感じなくて、それよりストレス、パニック的なものがあるほうがいいなと思ったんです。ずっと映画にストレスという圧をかけたかったんですよ。全部が見えたらすっきりするけれど、見えないところがあるから勘ぐってしまう、そこを見たくなる、そういう仕上がりになっているので、全体的にずっとぎゅうぎゅうストレスをかけ続けて、それが爆発する構造が好きでした」
川村「たしかにホラーじゃなくてサバイバル映画として捉えていました。いま話を聞いていて面白いなと思ったのは、やっぱり二宮くんはゲーマーだなと。咳でヒットポイントが減っていき、(吸入薬を)吸うとゲージが復活するって、ゲーム的(笑)。 ゲームっぽい発想を、リアルな人間の身体性や人間ドラマに置き換えると、 ユニークな物語になるねと話していました」

川村「この映画は、ゲーム的なデザインとかルールをめちゃくちゃリアリスティックに人間の体でやったらどうなるか。それって怖くない? 面白くない? ユニークな話になりそうじゃない? っていう実験なんです」
二宮「後半の場面で意見が分かれたときも、じゃあ違う場面を追加する? と、どんどん違う広がりが生まれていって。ああ、台本ってこうやって作っていくやり方もあるのか、と思った瞬間でした」
川村「そうですね。彼は大きな二択を抱えた状態で、地下通路に迷い込みます。このゲームは、異変があったら引き返す、異変がなかったら前に進むの二択の連続なんですが、人生も大なり小なりずっとそういう二択が繰り返されるものなのではないかと。

川村「海外の批評家たちの解釈がとても面白かった。たとえば、『冒頭でゲームが映画に変身する瞬間を描いたのはなぜか』『たびたびクローズアップされる黄色い8番出口の看板は、神のようなものなのか』といったことを訊いてくるんです。まるで自分の内心を批評家に言い当てられたような気分になって、これがカンヌなのかと思いました(笑)。
とても嬉しかったのは、ゲーム的な題材なのにもかかわらず、人間を描いていて普遍的なテーマに行き着いていると言われたこと。そして俳優の芝居がとても良かったと言われたことです。海外の批評家は『二宮和也』を知らない人も多かったけれど、芝居を純粋に観て評価してくれていた。僕は、二宮くんは日本のダスティン・ホフマンだと思っていて、絶対に世界的にその素晴らしさがわかってもらえると思っていました」

二宮「僕はむしろ、ふだんから日本のものを海外に持っていきたいなと思っているんです。世界中いろいろな文化があるなかで、日本ってこんな面白いもの、泣けるもの、笑えるものがあるんだよというのを世界に紹介できたらいいなと。だから今回『8番出口』でカンヌに来させて頂いて、日本の面白いものを紹介できたというのはとても嬉しいですね」
二宮「まずはやっぱり『8番出口』を日本のみなさんに面白いと思ってもらいたいし、カンヌで海外の方に観てもらった感覚をもう一度ブラッシュアップして公開ギリギリまで頑張って楽しいバージョンに仕上げたいと思っています。いろんな人に気味悪がってもらうのが、今の命題です。
そういった作業をすることによって、自分が今後何をどうするか、どうできるのかが見えてくる時期でもあると思います。40代になってくると、役者ってなかなか役柄が難しいしないんですよ。もう次は誰かのお父さんになっていく世代になるので、その時に役者だけじゃなくいろいろなところに顔を出して、やれるものを探っていく時間にしたいと思っています」
川村「カンヌの会場で観ながらここ直そう、みたいなことを考えていました。それが許されている、本当に贅沢なチームです。これから二宮くんと直すところを話し合う予定です。カンヌで観た人もさらに驚く作りになると思います」
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執筆者紹介

佐藤久理子 (さとう・くりこ)
パリ在住。編集者を経て、現在フリージャーナリスト。映画だけでなく、ファッション、アート等の分野でも筆を振るう。「CUT」「キネマ旬報」「ふらんす」などでその活躍を披露している。著書に「映画で歩くパリ」(スペースシャワーネットワーク)。
Twitter:@KurikoSato
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