フランシス・フォード・コッポラ監督が語る、分断の時代に考えてほしい“人類のあるべき未来”【「メガロポリス」インタビュー】
2025年6月20日 13:00

「メガロポリス」(6月20日公開)は、巨匠フランシス・フォード・コッポラによる構想40年、監督作としては13年ぶり、そして1億2000万ドルもの巨額の私財を投じたことでも話題の叙事詩的超大作だ。コッポラ監督は、共和政ローマ時代に起きた「カティリナの陰謀」に関する本を読んだのを機に本作を着想。古代ローマと現代のアメリカを重ね合わせた大都市ニューローマを舞台に、アダム・ドライバー扮する天才建築家カエサル・カティリナが、権力争いや陰謀などさまざまな困難に直面しながらも理想社会“メガロポリス”開発に挑む姿を描き出す。
日本公開に先立つ6月上旬、次作準備のためロンドンに滞在中のコッポラ監督と、オンラインビデオ会議を介したインタビューが実現した。自身のフィルモグラフィで権力争いと家族のテーマを繰り返し描いてきた理由、「メガロポリス」を通じて伝えたい“人類のあるべき未来”、カエサルが持つ特別な能力、さらにはコッポラ家4代の歴史に基づく物語を映画化する壮大なプロジェクトを含む今後の見通しなどについて、丁寧に言葉を紡ぎつつ熱心に語ってくれた。(取材・文/高森郁哉)

私は人類が1つの家族だと信じています。ホモサピエンスは30万年ほど地球上に存在し、それぞれが環境に適応して進化してきたので、現在では見た目も文化も異なっていますが、言うなれば今いる私たちはいとこ同士ですよね。
そして、私たちは天才の仲間とも言えます。というのは、他の生き物でこれほど思考し創造する能力を持ち、とてつもなく素晴らしいことを成し遂げた存在はいないからです。それなのに現実には、人間は不幸せだったり、残忍なことをしたりします。特に現代は満たされない思いや不安を抱えた人が多いですよね。私は86歳で孫を持つ身ですが、本来ならば楽園のような地を子どもたち、次の世代に残せるはずだったのが、現状は楽園とはかけ離れてしまっています。思うに、こうした生き方はそれほど古くなく、せいぜいここ1万年ぐらいでしょう。その前はおそらく違っていて、お互いを助け合う母性主義に近いものだったのではないかと。
つまり、人類は家族という信念に基づき、私たちに何が必要で何が不必要なのか、権力の悪用や暴力などの問題に直面したときどう対処したらいいのかといったことを考えてもらうため、私はそうしたテーマを扱う映画を作っているとも言えます。

以前に読んだ本で知ったのですが、第1次世界大戦の前はパスポートやビザというものがなく、どこへでも行けたのだとか。なぜパスポートの概念が生まれたかというと、当時のオーストリアが、入国してくるドイツ人がスパイ活動することを恐れて発明したと言われています。つまり今の世界は国という概念で分断されていますが、私の夢は文化や音楽、芸術、職などは維持した上で、国境をなくして1つの家族になることです。1つの地球であり、どこでも好きなところへ行ける。もともと地球は私たちの家であり、国も国境もかつてはなかったのに、この概念を発明したのは私たち人間ですよね。
私は映画作りを通じて、家族である人類が争ったり、家である美しい地球の環境を破壊したりするのではなく、どうしたら子どもたちのために喜びと幸せに満ちた世界を作ることができるのかを考えてもらいたいのです。そうした理想の世界を実現して未来の子どもたちに残せるような、素晴らしい存在に人類はなり得るのだと伝えることが、私が映画を作る理由と言えるかもしれません。

私は映画のジャンル分けというものに抵抗したいと思います。いろいろとレッテルを貼りがちですが、そうしたことから映画を自由に解放してあげたい。ですから、この「メガロポリス」も寓話あるいはファンタジーと私は呼んでいます。カエサルの時間を制御する能力については、アーティストなら誰でも持っている力と言えるでしょう。画家は絵を描けばその時間を止めることができるし、ダンサーも空間と時間を自分で操れますよね。
ただし人間は、自ら時間の概念を生み出したことで、自らの人生を時間に乗っ取られてしまいました。たとえば家賃を毎月払うといった決まりごとであったり、1週間のうち2日は休む規則であったり。自然や宇宙が提示しているものは本来、日の出や日暮れ、月の満ち欠けのように美しいものなのに、人間は自然と宇宙の美しい法則性から時間の概念を作り出し、それを自らの首を絞めるような、圧迫するものにしてしまったのです。

伝記映画もやはりジャンルの1つなので、そのような分類を必要とは思いません。ともあれ、私は長年にわたり自分の家族の歴史に基づく脚本を書き進めていて、いつかは自分で監督することになるでしょう。これは壮大なプロジェクトで、なかなか実現しないので「コッポラは企画を放棄した」と言う人もいますが、いくつも映画を撮りながら将来の企画にじっくり取り組むのはよくあることです。
そう、プロジェクトの総称は「ライブ・シネマ」で、第1弾の「ディスタント・ヴィジョン」を含む複数の映画で構成する見込みです。コッポラ家4世代の歴史に基づく連作になるでしょう。

いつも問題ばかり抱えている作品を手がけることが多くて、今のところお金もないのですが、「The Glimpses of the Moon」は本当に小品で、少ない予算で撮ることができます。ロケ地は主にイタリアで、楽しく撮影できるでしょう。まだ準備中ですが、取りかかれればだいたい9カ月から1年ぐらいでしょうか。映画を作るのは子どもを作るのと似ていて、世に出るまでにそれくらいの月日がかかるものです。
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執筆者紹介
高森郁哉 (たかもり・いくや)
フリーランスのライター、英日翻訳者。主にウェブ媒体で映画評やコラムの寄稿、ニュース記事の翻訳を行う。訳書に『「スター・ウォーズ」を科学する―徹底検証! フォースの正体から銀河間旅行まで』(マーク・ブレイク&ジョン・チェイス著、化学同人刊)ほか。
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