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寺尾聰&松坂桃李、12年越しで手繰り寄せた“相思相愛”の親子役【「父と僕の終わらない歌」インタビュー】

2025年5月22日 19:00

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撮影時も笑いの絶えない寺尾聰と松坂桃李
撮影時も笑いの絶えない寺尾聰と松坂桃李

俳優でミュージシャンの寺尾聰が16年ぶりに映画主演を果たし、松坂桃李と親子を演じた「父と僕の終わらない歌」が5月23日から全国で封切られる。初共演となったWOWOWのドラマW「チキンレース」から、ちょうど12年。干支がひと回りしても「いつかまた一緒に芝居を」と願い続けたふたりに話を聞いた。(取材・文/大塚史貴、写真/間庭裕基

寺尾が息吹を注いだのは、音楽とユーモアをこよなく愛し、生まれ育った横須賀で楽器店を営む間宮哲太。アルツハイマー型認知症を発症しするが明るく前向きに受け止め、愛する家族と音楽を支えに自分を取り戻そうとする役どころだ。当初は出演するか迷ったというが、息子役が松坂と聞いて翻意したという。

■「桃李の名前を聞かなかったら、最初からごめんなさい」(寺尾)

寺尾「僕は仕事をするとき、どういう本? 監督はどなた? の前に主役はどなた? と聞くんです。そうしたら松坂桃李さんですと言うんで、面倒臭くて嫌だなあ……と思っていたのが『ちょっと台本読んでみよう』となったわけ。桃李の名前を聞かなかったら、最初からごめんなさい、とお断りしていたんじゃないかな」

画像2(C)2025「父と僕の終わらない歌」製作委員会

松坂のどの部分が、寺尾の心の琴線に触れたのかを聞こうとすると「あのね、言葉で言えたらこんなに簡単なことはないんだけど、俳優が俳優に惹かれるというのは理屈じゃないし、説明がつかないんだよ」と穏やかな口調で話し始める。

寺尾「目をつむって自分が桃李と並んでいるイメージが浮かべばいいなと思うし、ただ浮かぶだけじゃなくて、その人の芝居の質を好きかどうかが大事。彼がどんな芝居をして俺の前にいても俺は100%、“受け”なわけよ。好きな人だったら大丈夫なの。そんなに大きな理由はないんだよ。

かつて黒澤明監督がカンヌ国際映画祭へ連れて行ってくれたとき、世界中の記者さんが『ミスター黒澤、今回のテーマは?』と聞くんだ。そうすると、『そんなことを言葉で言えたら、文字で伝えられたら映画なんか撮らないよ。プラカードに書いて持っているよ』って言ったんだ。僕らは基本的に、どう見て欲しいかなんて僭越なことは言えないんです。僕らが誠実に作ったものを観てくれたカップルが、『良い映画だったね』と言いながら映画館を出て行ってくれたらそれでいいのよ」

画像3(C)2025「父と僕の終わらない歌」製作委員会
■ドラマ「チキンレース」から12年越しの念願成就

寺尾の話を横でニコニコしながら聞き入っていた松坂は、アルツハイマー型認知症を患う父を支え続ける息子の間宮雄太に扮した。記憶を失っていく父を前に、ナイーブさと優しさを併せ持つ確かな演技力で、不安に揺れながらも寄り添う姿を熱演。今作での共演に関して、「寺尾さんの息子を演じられたことは、僕の中では本当に誇りです」と話しているが、詳細に触れようとすると話は12年前までさかのぼる。

松坂「僕は以前、寺尾さんとお仕事をする機会があったんですが、肺炎にかかってしまったんです。出演自体はちょっとだけだったんですが、医者からは出られる状態ではないので降板してくださいと言われてしまって……。でも、寺尾さんが主演する作品にどうしても出たかったので、『なんとかなりませんか?』と無理を言って、1日だけならという条件でOKをいただいたんです」

寺尾「岡田恵和が脚本を書いたWOWOWの『チキンレース』というドラマでね。僕も桃李のことはすごく印象に残っていて、『またどこかで出くわさないかな』と思っていたくらいだから。その後で、彼がそんな状態だったと知ってね。なんだ、そんなに無理していたのか……と。そうしたら、NHKの大河ドラマ『軍師官兵衛』でまた出くわしたんだ。それが嬉しくてさ」

松坂「あのときは嬉しかったですねえ。本当に、僕も嬉しかったんです」

■「桃李と岡田将生は息子のように感じちゃう」(寺尾)

寺尾「そうなんだよ。そういったことを経ての今回だから、とにかく桃李だったら俺はやるよと。そこに繋がってくるんだ。役者ってなんとなく気が合うとか、なんとなくその人の醸し出す空気で居心地が良かったり、そういう相手とやっている方がいいんだよ。その方が仕上がりも良くなるしね。それが緊張感があって、黙って口を利かないようなやつだったとしてもいいんだよ。

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先日まで毎週、桃李のドラマ(『御上先生』)を見ていたんだけど、どんどん惹かれるものを身に付けてきているのが伝わってきて、それがまた楽しいんだ。ただ、桃李は謙虚だから、そろそろその謙虚さを捨てていいぞと思っているよ。『あいつは生意気だ』と言われるくらいふんぞり返ってもいいんじゃないか? その方が、自分のやりたい方向へもっとストレートに行けるのに。桃李は器用だから、何でもできちゃうんだよな。このあと、俺が死ぬまでにもう一緒に仕事をすることはないかもしれないけど、そうであったとしてもいつでもずっと遠くで見ていたい存在なんだ。そんなやつ、なかなかいないから。

たまたまだけど、『チキンレース』で共演した桃李と岡田将生、このふたりは息子のように感じちゃうんだ。同じ仕事をしながら、なんだか気になる。要は、ファンなんだよ。キャリアは俺の方がずっと長いはずなんだけど、彼らにはそれだけ魅了されるものがある。それはね、きっと人に見せない努力をしているはずなんだ。とにかく今回は息子役が桃李で良かったよ」

松坂「いやいや、こちらこそです。僕はあのときから、いつか寺尾さんとがっつりお仕事をしたいと思って頑張ってきたので、今回ようやくそれがかなったことがすごく嬉しいんです」
画像5(C)2025「父と僕の終わらない歌」製作委員会

ふたりの会話に登場する初共演作「チキンレース」には、奇しくも今作で寺尾の妻を演じる松坂慶子も出演している。放送から12年を経て寺尾、松坂(慶)、松坂(桃)の3人が親子として対峙することになったのは、実に興味深い。

今作は、2016年にイギリスで1本の動画をきっかけに80歳にしてCDデビューを果たした男性の奇跡の実話をもとに、舞台を日本に置き換え小泉徳宏監督のメガホンで映画化された。寺尾は本編で、「Smile」「What Now My Love」「Love Me Tender」「Beyond the Sea」「Volare」という洋楽のスタンダードナンバーを歌っているが、これらの楽曲が家族や友人、周囲を取り巻くキャラクターはもちろん、客席の観客をも優しく包み込むような役割を果たしていることは、特筆すべき点として挙げられる。

画像6(C)2025「父と僕の終わらない歌」製作委員会
■名優・宇野重吉を父に持つ寺尾聰の思い

また、詳細な言及は避けるが、劇中で寺尾が「どうもこうもないよ。だって、あいつは俺のスターなんだから」と口にするセリフには、観客ひとりひとりが「自分にとってのスターは…」と自問自答するひと時と余韻をもたらすことだろう。寺尾と松坂にとっての「スター」は、一体誰なのだろうか。

寺尾「憧れだったり目標だったり……、俺は親父が宇野重吉という俳優で、演出家で、俺の師匠でもあるんだよ。最初から芝居の神様だと思っていたし、たったひとりの弟子だと思って今日まで生きてきた。走っても、走っても、背中に届かない。死んだおふくろからは『死ぬまで届かないから』と言われていたんだけど、俺にとっての道しるべは宇野重吉だと思っている。

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この世界で私の母親だった奈良岡朋子さんからある日、電話があって『あんたね、どこへいっても教わることなんてないから』と言うわけ。問い返したら、『あんたはそういう家に生まれたんだから、知らないうちに色々なものを見聞きしているはず。だから、誰かに教わることなんてない』って。でも、その通りだった。

桃李にしても、岡田将生にしてもディーン・フジオカにしても、気に入った後輩と共演したあと、ぐるっとひと回りしたときに、どんな役者になっているかな? どれくらい肉がついてきたかな?って変化を楽しみたいわけ。桃李で言うならば結婚して、子どもができて、これから子どもがもっと成長したときに全然違う人生が待っているはずだよ。子どもの人生に責任を持たないといけないわけだから。自分で導いてやるのか、ある程度ほったらかしにしてどっちへ行くのかな? と見守ってやるのか。それだって大きな違い。役者は脳の構造から生活に至るまで、全てが芝居ににじみ出て来るはずだと俺は考えているから、桃李は今までやってきた役とはまた違う、厚みのある男が演じられるんじゃないかってすごく楽しみにしているんだ」

画像8(C)2025「父と僕の終わらない歌」製作委員会
■「自分の感情があふれ出るなんて経験をしたことがなかった」(松坂)

寺尾の話を真摯な面持ちで、時に大笑いしながら聞き入っていた松坂は、「本当ですか、ありがとうございます。頑張ります!」と力強くうなずく。

松坂「寺尾さんには、今作でもどれだけ引き出していただいたか……。最後のシーンなんて、自分の感情があふれ出るなんて経験をしたことがなかったんです。ラストは、本当に涙が止まらなかったですから」

寺尾「桃李のあの芝居、本当に良かったよな。だってスタッフがさ、照明部も撮影部も、みんな泣いているんだから」

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松坂「あれは、寺尾さんが引き出してくださったからこそです。どのシーンもそうですが、特にあのラストシーンで自分の感情があふれ出るってこういうことなのか……って、初めて知りました」

寺尾は製作スタッフに対しても、共演する俳優に対しても、そして取材者に対しても等しくプロ意識を求める。取材者に対していうと、ありきたりな質問をしたら二度目は訪れないのかもしれない。16年前の2009年、寺尾の主演映画「さまよう刃」の初日舞台挨拶が神奈川・川崎チネチッタで行われたが、写真撮影の段になって立ち上がった報道陣の顔を見渡し、スポーツ紙のベテラン女性記者に「久しぶり、元気だったか?」と壇上から優しく語りかけていた姿を思い出した。きっとそれまでに、良い取材機会が何度となくあったのではないだろうか。これから何年後かに、寺尾と松坂が再びキャメラの前で相まみえる機会が訪れたとき、ふたりを取材する僥倖に恵まれたジャーナリストは、どのような顔でふたりと対峙するのだろうか。含蓄あるメッセージと飄々とした表情から繰り出されるユーモアを放つ寺尾、その現場を堪能する松坂が作品世界をいかに生きるのか、今から楽しみでならない。

画像10(C)2025「父と僕の終わらない歌」製作委員会

執筆者紹介

大塚史貴 (おおつか・ふみたか)

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映画.com副編集長。1976年生まれ、神奈川県出身。出版社やハリウッドのエンタメ業界紙の日本版「Variety Japan」を経て、2009年から映画.com編集部に所属。規模の大小を問わず、数多くの邦画作品の撮影現場を取材し、日本映画プロフェッショナル大賞選考委員を務める。

Twitter:@com56362672


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