AIによるダース・ベイダー音声複製で労使激突 「フォートナイト」の新機能に米俳優組合が法的措置
2025年5月21日 16:00

人気オンラインゲーム「フォートナイト」が伝説的映画シリーズ「スター・ウォーズ」のダース・ベイダーの声をAIで複製した問題が、エンタテインメント業界の新たな火種となっている。米俳優組合(SAG-AFTRA)が不当労働行為として全米労働関係委員会(NLRB)に申し立てを行ったと、米Deadlineが報じた。この争いは、AIによる故人の音声複製という未規制の領域における重要な先例となる可能性がある。
フォートナイトを運営するLlama Productionsは先週金曜日、プレイヤーがダース・ベイダーと会話できる新機能を発表した。この機能では、昨年9月に93歳で死去した俳優ジェームズ・アール・ジョーンズさんの音声をAI技術で再現し、プレイヤーとの対話を可能にしている。同社は、この実装についてジョーンズさんの遺族と合意を得ていると主張している。
ジョーンズさんの遺族は「ジェームズはダース・ベイダーの声がスター・ウォーズの物語と不可分だと感じており、あらゆる年齢のファンがこれからもその体験を続けられることを望んでいました」と声明を発表。彼らは「このフォートナイトとのコラボレーションにより、長年のダース・ベイダーファンと新世代の両方がこの象徴的なキャラクターを楽しめることを願っています」と述べた。
問題の核心は、映画でジョーンズさんが演じたダース・ベイダーの声をゲームで使用する際の労働協約にある。SAG-AFTRAが主張するポイントは明確だ。映画とは別のメディアであるビデオゲームで、AIで音声を複製して使用する場合、たとえ遺族の許可を得ていたとしても、組合との事前協議が必要だったというものだ。これは声優の仕事をAIで代替する場合の労働条件について交渉する権利を守ろうとしている取り組みである。
SAG-AFTRAは声明で「メンバーとその遺族がデジタル複製の使用を管理する権利を歓迎する」としながらも、「我々のメンバーの仕事を置き換える声の使用については、交渉条件を守る権利を保護しなければなりません」と主張した。さらに「Llama Productionsは人間のパフォーマーの仕事をAI技術で置き換えることを選択したが、その意図の通知を行わず、適切な条件について組合と交渉しなかった」と批判している。
NLRBへの申し立てでは、Llamaが「組合に通知や交渉の機会を与えることなく、インタラクティブプログラム『フォートナイト』において、AI生成音声を使用して交渉ユニットの仕事を置き換えることで、雇用条件を一方的に変更し、組合との誠実な交渉を怠った」と明記している。
ジョーンズさんは、その独特の低音ボイスで世代を超えて愛されてきた伝説的俳優だ。「スター・ウォーズ」(1977)、「帝国の逆襲」(80)、「ジェダイの帰還」(83)でダース・ベイダーの声を演じ、銀河帝国の恐るべき支配者に命を吹き込んだ。近年では「シスの復讐」(2005)、「ローグ・ワン」(16)、「スカイウォーカーの夜明け」(19)にも復帰し、キャラクターの連続性を守り続けた。トニー賞やエミー賞など数々の賞を受賞した彼の声は、映画史上最も認識しやすい音声の一つとなっている。
この対立の本質は、キャラクターの声の権利をめぐる問題ではなく、AIによる声優代替という新たな労働環境の変化に対し、組合との事前協議なく一方的に導入したことへの反発である。これは声優業界全体に影響を与える可能性のある重要な問題だ。
フォートナイトのようなゲームで新たなダース・ベイダーの音声演技が必要になった場合、通常であれば声優を雇用するところを、AIでジョーンズの声を複製して代用したことが、将来的に声優の雇用機会を奪うという懸念がSAG-AFTRAの行動の背景にある。
エンタテインメント業界では、AIによる俳優や声優の代替が急速に進みつつあるが、その導入過程における労使間の協議ルールは未確立だ。スタジオと創作者の間で進む新たなデジタル時代の交渉過程を象徴するこの事例は、AI時代における労働組合の役割と権限の範囲を明確にする重要な先例となるかもしれない。

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