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イマジナリーラインを越える演出 「劇場版モノノ怪 第二章 火鼠」中村健治&鈴木清崇インタビュー(後編)

2025年3月17日 19:00

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画像1(C)ツインエンジン

「劇場版モノノ怪 唐傘」に続く「劇場版モノノ怪 第二章 火鼠」が3月14日から公開された。全3部作の真ん中にあたる同作は、中村健治が総監督、鈴木清崇が監督を担当し、製作会社ツインエンジンのグループ会社である新スタジオ「くるせる」が制作を担っている。

中村監督作品に多く関わってきた鈴木監督は、「唐傘」に監督応援として参加したときから、くるせるの作画・演出ユニットを率いてチームとして作品に取り組んでいる。インタビュー後編では中村健治(総監督)と鈴木清崇(監督)に「劇場版モノノ怪 第二章 火鼠」の具体的なシーンに関する質問を投げかけた。また、第二章と続く第三章に関しても、話すことができる範囲でその展望を聞いた。(取材・構成:五所光太郎/アニメハック編集部)

※本インタビューでは「劇場版モノノ怪 第二章 火鼠」の内容に大きく触れています。鑑賞後に読むことをお勧めします。
画像7(C)ツインエンジン
――第二章は老中たちによる将棋のシーンからはじまります。ちょっと意表をつかれるはじまり方でしたが、これは第一章とは違うところからはじめようと思われたからだったのでしょうか。
鈴木:老中部屋のシーンからはじめたのは、第一章からのつながりで、いちばん覚えておいてほしいキャラクターをまずだしておこうという意図がありました。語るべきバックグラウンドがある人たちは自然と立ちあがってきますので、ある程度説明が必要なキャラクターは最初にだしておこうと。
時田フキ
時田フキ
(C)ツインエンジン
――物語の終盤で、時田フキと時田良路(フキと三郎丸の父)が屏風を横にして向きあって話すシーンがありますよね。途中でフキが何を話しているかが伏せられて、最後にもう一回でてきますが、あの会話のシーンは演出的に物凄く凝っていて、アクションとは別のクライマックスと言えるシーンだと感じました。あの一連のシーンの演出的なねらいについて聞かせてください。
鈴木:あのシーンは、セリフやカットの入れ方、カメラ位置などを中村監督と最後まで微調整していたところなので注目してもらえてうれしいですね。あそこは第二章の物語の収束地点であり、フキと(大友)ボタンによるドラマの終着点にもなっているんです。そしてそれは坂下にとっても同じです。20年前に自分が救えなかったスズさんに起きた悲劇を、今度はフキに強いているという同じシチュエーションが描かれているのですが、今度は違う結果になった。それによってやり直せたというか報われたことによって、スズさんにもらった手ぬぐいで涙をふく。坂下のドラマはそこで終着しているんですけれど、火鼠とのバトルが終わったあとに、同じシーンを今度はセリフをいれてリフレインさせる。バトルの前にすでに答えがでていることではあるのですが、あえて最初のシーンではセリフを伏せることで、シナリオ上の多重構造が上手く機能しているんじゃないかと思います。
中村:第一章でもアサが何を言ったか分からないように描くという似たようなことをやっていて、実はここで一回、答えがでているんだけれども、その答えを理解してもらうには次のシークエンスを見てもらわないといけない、というようなシーンですよね。キャラクター自身は最初のシーンで言っているのですが、見せる側の都合としては、火鼠が薬売りに切られてから聞いてほしい。そのためにどう見せるかというシーンでもありました。第二章では坂下のリアクションもありますから、察しがいい方は、なんとなく坂下が喜ぶようなことってこのあたりだろうなと分かってしまうとは思うのですが、混乱する方もいると思います。でも最終的にはいいタイミングでフキの回想が入りますから、混乱された方もすっきりして帰ることができるという。
 登場人物の感情のスピードと、シナリオの構造上こう見てほしいというところがぶつかっているという言い方もできて、そこで人物も曲げず作品も曲げずにどうやろうかと考えたとき、こういう見せ方がいいよねという感じでやったというイメージです。
――ありがとうございます。フキと良路が会話するシーンは、通常越えてはならないと言われているイマジナリーラインが切り替わっていますよね。そこも「モノノ怪」らしい見せ方だなと思いました。
鈴木:イマジナリーラインの切り替えは、中村さんの作品だと「いっぱいやれ」と命じられているので(笑)、けっこうやることが多いです。演出上の引っかかりをつくったり、お客さんの注意をそらさないようにするために使う場合が多くて、今言っていただいたシーンのような、何かが起こるきっかけのためにも使います。個人的には、お客さんの心拍数を乱すための演出行為として使っているイメージです。
――第二章は火鼠によって人体が発火するシーンやエロティックな描写など、第一章に比べるとやや刺激が強いシーンが多かったように思います。鈴木監督は「PSYCHO-PASS サイコパス 2」「バビロン」と比較的ハードな作品を多く手がけられていますが、刺激の面で第一章より踏み込もうと意識されていたのでしょうか。
鈴木:おっしゃっていただいた僕が今までやってきた作品の傾向で言いますと、アニメーションの絵で伝わる刺激に対しての感性は普通の人より若干鈍いのかもしれないです。これは絶対駄目というものが映らなければいいんじゃないかと思っているところはあって、強く駄目と言われなければやってしまうかもしれない、というのはあると思います(笑)
中村:鈴木監督は素直なコンテを描かれる方で、ここは直球すぎるかもしれないというところは、僕のほうで変化球に変換させてもらったところもありました。今話題に挙がった刺激の部分に関していうと、僕自身はオフりたい(※直接的な刺激描写をオフにしたい)タイプなんですよ。そこをふくめて、鈴木君には絵コンテを「自由にやってよ」とお願いして、そのあとはお互いのコミュニケーションのなかで調整していけば大丈夫だろうという感じでやっていきました。自分がやってほしくないと思うようなものは残っていなくて、鈴木監督と話しあって解決済みのものが最終的な画面になっている感じです。
老中大友
老中大友
(C)ツインエンジン
――ピンポイントな話で恐縮ながら、火の番を務める役の女中3人組がちょくちょく第二章に登場しますよね。3人のなかの背の低い女の子だけちょっと別のアニメみたいなと言いますか――
中村・鈴木:(笑)
――良い感じにくずした作画が、雰囲気があって良いなと思いました。あと、大奥の入り口を警備する坂下も、第二章ではより親しみやすい雰囲気に感じられたのですが、そのあたりでもし意図がありましたらうかがえるとありがたいです。
鈴木:クメちゃんの作画に関しては、僕の勘違いらしいんですけど、中村監督がクメちゃんのことをきっと大好きだろうと思ったから、芝居を足してくださいとわりと言ってまわっていたんです。そうしたらアニメーターの子たちが、「このキャラはこの作品のなかでいちばん自由に描写していいんだ」「デフォルメをきかせていいんだ」と思ったんですね。実際、設定資料にわーっと泣いたり目がぎゅっとなったりするデフォルメ参考の表情も描かれていたので、このキャラはそれをやっていいんだと、みんな伸び伸び描いてくれて、それが画面にめちゃめちゃ出たという感じです。それでも方向性はぶれていないので、クメちゃんのキャラとして生き生きと描けたんじゃないかなと思っています。
坂下
坂下
(C)ツインエンジン

坂下については、彼の印象的なシーンは前半、後半それぞれのパートにあるんですが、同じアニメーターが担当しているんです。その子が描く芝居が非常に上手かったのが親しみやすさにつながったのかなと思います。

中村:クメちゃんの作画は、僕としてはもう「これぐらいやってほしかった」という感じでした。第一章は硬質な感じというかシャープな方向にいっていて、鈴木監督とも「ところどころで漫画っぽい表現をやりたいね」という話はしていたんですが、なかなかそのすきまがなかったんです。それが第二章では、人物描写に時間を使えるすきまがけっこうあって、もともと3人娘は第二章のシナリオ発なんですよ。第二章の脚本を担当された新八角さんが生み出したキャラで、これはいいと第一章のシナリオにも顔見せとして登場させた経緯もあったんです。
 鈴木君は勘違いと言いましたが、クメちゃんは僕ももちろん好きですよ(笑)。最後のあたりでアワアワしているところや、はあはあと息を吐いているシーンとかめちゃめちゃ好きですね。作り手の気分ではなく、完全にいち視聴者として何回も見てしまいました。
大友ボタン
大友ボタン
(C)ツインエンジン
――第三章にむけてのお話も少し聞かせてください。第一章、第二章ともにエンディングでは地下に祀られている祠(ほこら)のようなものに結びつけられた3本の縄が1本ずつ外れている様子が映されていました。
中村:第一章のインタビューのときにいろいろなところでお話しさせてもらいましたが、「劇場版モノノ怪」は第三章まで全部、基本的に「合成の誤謬(ごびゅう)」というテーマでつくっています。個人と集団・組織のあいだにおこるストレスといいますか、そこから生まれる何かが情念となり、モノノ怪の発生に深くかかわっているという物語です。なおかつ、そういうときに人はどのような選択をするのかを、第二章でいえば、昔の人はこうした、けれどそれを見た今の人はこうしてみた、あなただったらどうしますか? と問いかける構成です。別に殺人がおきたりモノノ怪がでてきたりしなくても、みんなもやっぱり悩むよねというか、日常のなかにある悩みの延長線上にドラマがあると思っていますから。そういう意味でいうと、第一章は組織における新人の子たちの話、第二章は組織で中堅になった人たちの話、というふうに段階を踏んでいるんです。

第一章で歌山さんが、「高い目線になると見えるものが変わる」とアサに言っていますが、あのセリフはまさに全体のストーリーにかかっていて、第二章のキャラクターたちの視点で見たら大奥はこうなるし、では第三章ではどんな視点で大奥という世界を見ていただくのがいいのだろう……というふうになっていく予定です。

――「劇場版モノノ怪」を見ている人は、大奥の人たちが飲んでいる水がいったいなんなのか気になっている人も多いと思います。それも第三章まで見ると……。
中村:(うなずきながら)はい、大丈夫です。
スズ
スズ
(C)ツインエンジン
――ありがとうございます。最後に鈴木監督から第二章をつくり終えての手応え、それをうけて中村監督からひと言いただければと思います。
鈴木:第二章は、テレビシリーズと第一章の良いとこどりみたいな味わいになったかなと思っています。自分が「モノノ怪」で好きなものと、今回の劇場版で新しくてすごいなと思ったものを上手くかけあわせられた、といいますか。制作現場の稼働という意味では、くるせるのチームみんなの全力をフィルムに集約できたこと、中村さんと一緒に密な時間をすごしながら物をつくれたこと、それら全部にかなり満足しています。
中村:第二章は鈴木監督にお任せしてよかったですし、僕自身、鈴木監督とそのチームの皆さんの考え方やカルチャーを勉強させてもらった思いが強かったです。若い演出さんたちとたくさん触れあうことができて、普段はあんまりそういうことはしないんですけど、ちょっとお父さんモードになって、「(演出として)この芝居はさらにこうなってるといいかもよ」と横でブツブツ言ったこともありました(笑)。おそらくそれを鈴木監督や若い演出さんたちも聞いて、映像が数段階ブラッシュアップされたところがたくさんあって、「みんなすごいな」とビックリもさせられました。
 個人的には満足していますが、僕自身の手応えについては見たお客様の感想にすべてかかっています。いろいろ叱咤激励よろしくお願いいたします。

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