阿部寛の見方が変わった、キャスターたちの闘いとは?【「ショウタイムセブン」インタビュー】
2025年2月11日 11:00

阿部寛が、「異動辞令は音楽隊!」以来3年ぶりに映画出演を果たした。「岸辺露伴は動かない」シリーズで知られる渡辺一貴監督が「テロ,ライブ」を日本版リメイクした「ショウタイムセブン」(2月7日より劇場公開)だ。人気ニュース番組から突如降板させられたキャスター・折本(阿部寛)のもとに爆弾犯から犯行予告が届く。この特ダネを携えて番組に返り咲こうとする折本は、前代未聞となる犯人との生通話を強引に中継。しかし自分の命も危険にさらされ……。
テレビドラマ「DCU〜手錠を持ったダイバー〜」「VIVANT」など、作品ごとに新たなチャレンジを行い、2023年にはアジア全域版アカデミー賞「第16回アジア・フィルム・アワード」(AFA)で「Excellence in Asian Cinema」を受賞した阿部寛。未知なるエンタメとの出会いを追い求める彼の嗅覚に刺さった「ショウタイムセブン」の独自性を語ってもらった。(取材・文/SYO、写真/間庭裕基)

日本に合わせてかなり変えていますよね。設定だけでなく後半の展開や犯人の年齢も異なっていますし、監督の中に明確な計算があるのだと思います。その中で印象に残ったのは、最後の終わり方でした。当初にいただいた台本と決定稿ではラストが違っていて、監督とも「どっちもアリだけれど、どうしようか」と話し合いました。ギリギリまで悩まれて、この形に決定しました。
やはり、キャスターという今までやったことがない役どころでしょうか。出演作の宣伝などで様々な番組にお伺いし、キャスターの方々にお会いする機会はこれまでもありました。そのプロフェッショナルな動きを目の当たりにして、同じ芸能界にいても全く違うお仕事であり、領域が近いからこそ「自分にはできない」と感じていたのです。もちろん俳優出身のキャスターもいらっしゃいますが、僕は「キャスターは特別な才能の持ち主だけができるもの」と捉えているため、役柄でも自分がキャスターの役をやるとは想像もしていませんでした。そんななか今回のお話をいただき、チャレンジしてみたいと感じ、お受けしました。

僕の頭の中にも過去にテレビで観てきたキャスターの方々のイメージがあり、そのイメージが残っていました。キャスターの方々は全ての動きが滑らかかつスマートで、その中で自分の個性をどう出すか――非常に難しい塩梅で表現をされていると感じます。撮影にあたりアナウンサーの方をご紹介いただきお話を伺ったのですが、「ニュースを視聴者にきっちり伝えないといけないお仕事の中で、もし自分の感情を出すとしたらどういう部分ですか?」とお聞きしたら、ペンの置き方や原稿の持ち方といった本当に小さな部分に個性を持っていらっしゃる方が多い、と答えていただいて感情的なパフォーマンスも計算して盛り込んでいることがわかりました。僕はそのお話を聞くまで、「キャスターとは感情を出してはいけないお仕事」という認識でいたのですが、実際は感情を出す部分を極限まで絞っているのだと気づかされ面白かったです。折本を演じるうえでも参考にさせていただきました。

原作とはかなり終着点が違う台本だったので、お書きになった監督に確認するのが一番だと思い、常に監督に相談させていただきました。セリフは確かに量は多いのですが、キャスターの方々が使われる言葉は綺麗なものが多いため、意外とすんなり覚えられて自分でも驚きました。文章の組み立て方や流れはもちろん、“音”としてもとても滑らかで違和感がなく、スッと覚えられました。
そうですね、全く違っていました。「ヘンリー八世」のセリフはシェイクスピアなので比喩とか抽象的な表現も多いため、覚えるのは慣れるまでなかなか大変でした。
「ショウタイムセブン」でいうと、一番大変だったのは「どうやって撮るのか?」の部分でしょうか。渡辺監督がなるべく長回しでいきたいとおっしゃっていたこともあり、どんなカメラワークで緊迫感を出していくのかがなかなか想像つきませんでした。

そうなんです。前半戦のラジオ番組のシーンなどは通常通りの1台で撮影していましたが、スタジオのシーンになるとスタジオ用のカメラが何台も用意されており、しかも小道具的に使うのではなく実際に撮影も行うため、どこのカメラを意識すればいいのかは苦労しました。見ていいカメラと見てはいけないカメラがあるので、カメラマンさんを信じて自分はあまり制限なしに動こうとは思っていましたが、「どこから抜かれているかわからない」環境に慣れるのは大変でした。キャスターのように「カメラを見てしゃべる」ことも俳優はあまりないため、新鮮でした。

監督が頭の中でどう繋ごうかと計算されていたのかは予想がつかなかったため、「こういう風にやっていくのか、この映像を使うのか、こんなところからも撮っていたのか」と驚きの連続でした。そういった意味では、副調整室のシーン含め、完成版を観て初めて知る部分もありました。作品の展開に関しては、自分は既に台本を読んでしまっている身なので、お客さんが劇場でどれくらいヒリヒリした緊迫感を感じていただけるか、反応を楽しみにしています。スピーカーの位置などによっても臨場感も変わるでしょうし、僕自身も映画館で体感したいと思っています。

前半戦を2日に分けて行い、大体の動きを掴んだうえで実際のセットに入って後半戦のリハーサルを行いました。事前に現場で立ち位置や動きをすり合わせられたため、スムーズに本番に臨めました。ただスタジオパートに関しては座っているシーンも多いため、動きがないぶんどう表現していくかは悩みました。犯人役の方が毎日現場に来て下さって別室から声のお芝居の掛け合いを行ってくださいました。セリフや感情の中でいかに表現できるかが勝負だと思っていました。

いきなりドン!と変わるのではなく、シーンの中でテンポ感やボルテージがお互いに上がっていったところはありました。慣れるというわけではなく、こっちが変われば向こうも変わるといったように「わかる/感じ取る」ようになっていきました。顔を合わせない掛け合いに関しても、相手の芝居を録音したものにするのではなくライブでやりたい、というのは監督がこだわられていた部分です。どうしても録音形式だと時差が出てきてしまいますが、今回は一切ないぶんとても有り難かったです。こういった工夫が、リアルタイム感に一役買っていると思います。

結構動きがあるシーンで、物語的にも大きな展開があり、位置関係がどんどん変わっていく場面でした。僕自身もこれまでのシーンとは違う動きが必要だと思って試行錯誤しましたし、監督も様々な角度からこだわって撮られていました。今回の作品はシーンの途中まで/途中から撮るということはなく、全体を通した一連の撮影を繰り返していくスタイルでしたが、件のシーンでは竜星涼くんの芝居も後半に行くにしたがってすごく力のある強いものに変化していきました。台本上で読んでいたものより遥かに素晴らしい芝居を繰り出してきてくれたので、それを受けて自分もやりやすかったし、長いシーンの中でお互いの芝居がどんどん変わっていくのは楽しいですね。

たとえばNetflixの「地面師たち」など、表現における規制や縛りがあまりないように感じられるものもどんどん出てきて、より自由度が広がってきた感覚を抱いています。今後、さらに多様な世界観を持った作品が生まれてくるでしょうから、ある種攻めた作品にも関わりたいと思っています。
様々な作品を任せていただくのは、本当に光栄なことです。そのうえで、いまの自分のムードとしてはあまり規制がないものに飛び込んでみたい気持ちがあります。「ショウタイムセブン」のように監督がご自身で脚本も書かれた作品のオファーが来れば、すごく嬉しいです。

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