「トワイライト・ウォリアーズ」谷垣健治流アクションの組み立て方 目指したのは「速いけれど“わかる”もの」【アジア映画コラム】
2025年1月24日 09:00

1993年、22歳で香港に渡り、いまやトップクラスのアクション監督として活躍している谷垣健治氏は、かつてこんなことを仰っていました。
台湾金馬奨や香港金像奨など、中華圏で数多くの受賞を重ねた谷垣氏は、香港映画界においても欠かせない存在です。
そんな谷垣氏がアクション監督を務めた新作が「トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦」。同作の企画は、約8年前から動き出していましたが、近年の香港映画では、ある意味“賭け”のような作品です。製作費は3億香港ドル超え。香港映画界最強キャスト陣が集結し、製作費の1/6とも言われる5000万香港ドルをかけて九龍城砦のセットを作り上げました。
(C)2024 Media Asia Film Production Limited Entertaining Power Co. Limited One Cool Film Production Limited Lian Ray Pictures Co., Ltd All Rights Reserved.ワールドプレミアとなったカンヌ国際映画祭ミッドナイト・スクリーンでは、世界中の映画ファンから拍手喝采。香港では興収1.1億香港ドル(約22億円)を叩き出し、香港映画界においては「中国語映画歴代3位」を記録。さらに、中国大陸では興収6.84億元(約147億円)とメガヒットとなりました。
本作に参加した谷垣氏は、最高のアクションをデザイン。“黄金期の香港アクション映画の再来”と言われている本作の成功に大きく貢献しました。今回はそんな谷垣氏に「トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦」(1月17日公開)の話題を中心に、たっぷりお話を聞きました。
(C)2024 Media Asia Film Production Limited Entertaining Power Co. Limited One Cool Film Production Limited Lian Ray Pictures Co., Ltd All Rights Reserved.映画化が決まる前は小説も、漫画も読んだことがなかったです。映画化が決まった後に、小説、そして漫画も一回ずつ、軽く読みました。ただ、ソイ・チェン監督と作品を作るのであれば、原作をリスペクトしつつもオリジナルを作るぐらいのつもりで臨んだほうがいいものになると考えていました。最初から脚本もなかったですし、最終的にもないんです(笑)。箱書きのようなものをもとに監督や各部署とディスカッションしながら内容を詰めていく感じです。
ずっと前から動いていたらしいですが、僕が具体的に聞いたのは、2021年の春ぐらいかな。その後、その年の6月に連絡が来て、広州で8月スタート予定だったと思います。ただ、その時の広州はコロナが感染爆発してた関係で、結局撮影ができませんでした。僕は夏に雲南省のシーサンパンナで仕事があって、そこから直接香港に行き、日本や中国のスタントマンたちが合流し、9月末から役者のトレーニングやリハーサル、11月末に正式に撮影がスタートしました。
確かに大変でした。スタジオ内や駐車場にまで延長してセットを作ったり、小学校の跡地を改造したりして、やりくりしました。その小学校は今回の撮影にとって、かなり重要な場所になりました。めちゃくちゃ郊外にありますし、“お化けスポット”としても有名な場所なんですが、幸い遭遇することもなく(笑)自由に使わせていただきました。
(C)2024 Media Asia Film Production Limited Entertaining Power Co. Limited One Cool Film Production Limited Lian Ray Pictures Co., Ltd All Rights Reserved.最初に香港に行ったのは1989年のことですが、その時に前を通りかかりました。めちゃくちゃ怖そうな所だなと思いました。異様な存在感でしたね。
毎日スタジオでアクション練習をしつつ、美術や演出部と一緒にロケハンに行き、監督のイメージを共有しました。九龍城砦は非常に広い場所ですが、その場所がまるまる再現されるわけではないですからね。図面を見てそれと同じサイズのスペースをスタジオに作ってアクションを設計し、それを実際にロケ地でリハーサルして美術部と調整を行い、装飾物をどこに配置して何を破壊するなどのやり取りをします。
マック・コッキョンをはじめ、今回の美術チームは本当に優秀でした。彼は「孫文の義士団」でも上海のスタジオに1900年初頭の香港の街を作ったりしました。街づくりのプロですね(笑)。アクション映画にも慣れているので、一緒にやるのはとても楽しい作業でした。
(C)2024 Media Asia Film Production Limited Entertaining Power Co. Limited One Cool Film Production Limited Lian Ray Pictures Co., Ltd All Rights Reserved.本当にすごい映画でした。そうそう、あの作品もマック・コッキョンが美術を担当しています。あの汚しの感じが個人的にとても好きでね。汚しがちゃんとできているセットだと、そこで行われるアクションもちゃんと質感にあるものになると思います。
最初は韓国映画のような“暴力美学”の世界観のようなつもりで考えてたんですが、「もうちょっと誇張してもいい」と言われました。“誇張”と言われても、どの程度なのかはわからないので、そこはやりながら擦り合わせていくことが必要です。撮影が始まって初日と2日目が理髪店でのアクションシーンだったんですが、今思えばあのシーンの撮影を通してこの作品においてのアクションのカラーが決まった感じはありますね。ルイス・クー演じつ龍捲風(ロンギュンフォン)がタバコをキャッチするところと陳洛軍(チャン)が回転しながら壁に吹っ飛ばされるところが、現場の熱がふわっと一瞬上がったというか、全員が「これでいける」と思た瞬間だったと思います。フィクションとしてうまく嘘がつけたんじゃないかと思います。
(C)2024 Media Asia Film Production Limited Entertaining Power Co. Limited One Cool Film Production Limited Lian Ray Pictures Co., Ltd All Rights Reserved.もちろんです。事前に1ヶ月半ぐらいアクション練習をしました。といっても別に役者たちに武術の達人になってほしいということではなく、それぞれの特性や何が得意なのかという点をずっと見ていました。役者の魅力を発掘するには、アクション練習や衣小合わせの時が、一番重要だと思っています。たとえば、テレンス・ラウなんかは衣小合わせの際に、突然何かが変わったというか、ギラっとしたものが出てきたのがわかりました。何というのかな、信一(ソンヤッ)というキャラクターはそこで片鱗が見えてきたというか。ソイ・チェン監督は髪型を変えたり、主人公を坊主にしたり……そこで役者の魅力をいろいろ探っていました。香港映画はほとんど本読みしないので、そういう形で役者は手がかりを掴みます。そして、その手がかりを携えて、現場で試してみるんです。ソイ・チェン監督の現場ですから、ダメであればもう、答えが見つかるまでもう一回やり直せば大丈夫。この一連の作業は大変ではあるけど、うまくいけば手応えがあるので本当に楽しかったです。
かなり多くの方々が関わっています。開発段階だけに関わった方もいますし、ソイ・チェン監督が指揮をとることになってから加わった人もいます。現場にいる脚本家は、いつも我々と打ち合わせしています。常に現場にいて、その時のシチュエーションでどのようなセリフが一番良いかを考える役割ですね。
(C)2024 Media Asia Film Production Limited Entertaining Power Co. Limited One Cool Film Production Limited Lian Ray Pictures Co., Ltd All Rights Reserved.もちろんです。最初にできたのは小学校のなかのセットですね。ただ、小学校は2階しかないです。主人公は2階から戦って、3階に行くんですが、2階で戦って、3階に行くというところでカットして、次の日は別の場所で別シーンを撮り、その間に、美術は2階を3階に装飾し直します。主人公は2階から3階に行くんですが、実際に使っているのは両方2階なんです。そして、2階を全部撮り終わったら、今度はサモ・ハンが演じる大ボスの部屋に装飾変え。その間に別のセットで撮影を進めていきました。このような撮り方で、20カ所ぐらいの“場”を用意していました。まぁ香港で撮影が決まった時点で、こうするしかないなぁと思っていました(笑)。
はい、もちろんベースは事前にしっかり作りますが、撮影というのはナマモノですからね。毎日がギリギリまで考えて、毎日危機一髪でした。「このアクションは、ここのシーンで使おう」などとは考えずに、今あるアクションを「全部シーンに注ぎ込む」。そして、次のシーンは次のシーンで頑張るという感じで撮っていきました。アクションのネタはいっぱいあったので、使いきれなかったネタを他のシーンでも使ってみるなど、色々な組み合わせを考えていました。アクションという食材に対して塩をかけると美味しいのか、もしくは醤油、それともオイスターソース……といったイメージで、可能な限りあらゆることを試して、最も良いシーンを見つけ出していくんです。
とても熱血な作品になったと思います。僕らは「イップマン」のようなウェルメイドのアクションを撮ろうとは思わなかったから、そういう意味では狙い通りですね。「トワイライト・ウォリアーズ 決戦! 九龍城砦」はある意味“ごった煮”。多種多様な人間が登場し、さまざまなアクションがぶつかり合っています。闇鍋状態です(笑)。でも、いわゆるめちゃくちゃではなく、エネルギーのある、熱量がある、つまり温度があるアクションを目指したいと思っていました。
よくできたアクションというよりは、観客が見終わった後「すごい映画を見た」とパワーを感じてくれたらいいなと思っていました。最近は、本当にこういったアクション映画が少なくなりましたよね。昔はジャッキー・チェンやブルース・リーの映画を見て“自分も主人公になったような気分”になっていました。本作は最終的にそのような映画になっていて、非常に良かったと思っています。
(C)2024 Media Asia Film Production Limited Entertaining Power Co. Limited One Cool Film Production Limited Lian Ray Pictures Co., Ltd All Rights Reserved.
(C)2024 Media Asia Film Production Limited Entertaining Power Co. Limited One Cool Film Production Limited Lian Ray Pictures Co., Ltd All Rights Reserved.僕がアクションに求めていることは、スピードは速いけども、何をやっているのかはわかるということ。何をやっているのかわからないなら、単に刺激的な場面なら簡単に作れるじゃないですか? そうではなくて、速いけどもわかるようにしたいと思っています。
若い作家たちが出てきたのは、非常に面白いと思っています。ただ難しいのは自分の身の回りのことを撮ることには長けてるんだけれども、アクションを撮れる監督がどんどん少なくなっています。もっともっとエンタメ性の強い映画が増えてほしいと思っています。
(C)2024 Media Asia Film Production Limited Entertaining Power Co. Limited One Cool Film Production Limited Lian Ray Pictures Co., Ltd All Rights Reserved.
執筆者紹介
徐昊辰 (じょ・こうしん)
1988年中国・上海生まれ。07年来日、立命館大学卒業。08年から中国のポータルサイトSINA、映画専門誌「看電影」、映画専門Web媒体DeepFocusなどで、日本映画の批評と産業分析を続々発表。2016年から、北京電影学院に論文「ゼロ年代の日本映画~平穏な変革」などを不定期発表。中国最大のSNS、微博(ウェイボー)のフォロワー数は約270万人。WEB番組「活弁シネマ倶楽部」の企画・プロデューサー。2020年から上海国際映画祭・プログラマーに就任、日本映画の選考を担当。2024年「現代中国映画祭」を企画・設立。
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