【「ゴールドフィンガー 巨大金融詐欺事件」評論】狂乱の香港バブル経済時代を舞台にした、レオンとラウ共演の新たなる代表作
2025年1月19日 19:00

香港ノワールの傑作「インファナル・アフェア」(2002)、続くシリーズ「インファナル・アフェアII 無間序曲」、(2003)「インファナル・アフェアIII 終極無間」(同)以来20年ぶりにトニー・レオンとアンディ・ラウが共演したというだけでも映画ファンにとっては胸アツな作品だが、2020年代に入り、香港映画が新たな潮流に入ったことを証明するような象徴的な一本。「インファナル・アフェア」シリーズを見ていなくても見応え充分なエンタテインメント作品となっている。
「インファナル・アフェア」は1990年代から2000年の香港黒社会を舞台に、警察とマフィアにそれぞれ潜入した2人の男の生き様を描いたが、本作は1980年代の香港バブル経済時代を舞台に巨額の金融詐欺事件を描いている。「インファナル・アフェア」では警察官役がレオン、マフィア役がラウだったが、本作では詐欺師役をレオン、捜査官役をラウが演じており、立場が逆転したかのようなキャスティングが心憎い。
イギリスによる植民地支配の終焉(1997年7月1日返還)が近づく80年代の狂乱の香港バブル経済、アジア金融のハブ(中心)とも言われたこの香港黄金時代を、総製作費70億円以上を投じて豪華絢爛に再現した製作力には中国の資本力を実感させられる。
香港バブル経済はどのように起こったのか。本作は、海外でビジネスに失敗し、身ひとつで香港にやってきた野心家のチン・ヤッイン(レオン)が主人公。悪質な違法取引を通じて香港に足場を築き、80年代株式市場ブームの波に乗って、無一文から資産100億ドルのグループを立ち上げ、一躍時代の寵児となった男を通し、当時の香港の栄枯盛衰が刺激的に、ノスタルジックに描かれる。
絶頂を迎えたチンの姿は、マーティン・スコセッシ監督の「ウルフ・オブ・ウォールストリート」(2013)でレオナルド・ディカプリオが演じた実在の株式ブローカー、80年代後半から90年代中盤にかけて米ウォール街で悪名を轟かせた、ジョーダン・ベルフォートの姿とも重なる。そんなチンの陰謀に狙いを定めた汚職対策独立委員会のエリート捜査官ラウ・カイユン(ラウ)が、なんと15年もの時間をかけて、粘り強く追い詰めていくのだが、経済の光と影、次第に勢いを失っていく香港の様子がある種の郷愁さえ誘う。
社会の必要悪とは何なのか。はじめは明確に異なる立場であったはずの二人が、やがて正義と悪が曖昧になっていくことで、信じていたものが少しずつ交わっていく。いつしか二人は写し鏡のような関係となり、入れ替わってもおかしくない、一人の人間から分裂したような男の生き様は、「インファナル・アフェア」でも描かれていた。同3部作の脚本を手がけたフェリックス・チョンが本作の脚本と監督を手掛けており、未見の方は是非見比べて欲しい。
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