髙石あかり、朝ドラ「ばけばけ」ヒロインへの道 両親、恩師、マネージャーと紡ぐ歓喜の涙【特別インタビュー】
2024年12月19日 09:00
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「ベイビーわるきゅーれ」での好演が大きな話題になった女優・髙石あかりが、2025年度後期放送予定のNHK連続テレビ小説「ばけばけ」のヒロインに選ばれたことが発表されたのは、10月29日。ヒロイン発表会見で大粒の涙を流した髙石が、どのような思いでオーディションに挑んだのか、そして知られざる恩師との交流について映画.comに語った。(取材・文/大塚史貴、写真/間庭裕基)
このインタビューが配信される12月19日は、髙石の22歳の誕生日。女優として本格的な活動を始めた2019年4月から5年で、大きな役を掴み取った。当時の自分に何と伝えたいか問いかけると、「そのままでいい…と言いたいです」と笑みを浮かべる。
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「5年間、あっという間でしたが、その中でも焦り、悔しさ、色々な感情が生まれました。その都度、自分に『大丈夫だよ』『焦っても意味がない』と言い聞かせてきました。悔しいという感情が原動力にもなりましたが、色々な壁にぶち当たって、悩んできた時間がわたしには大切でした」
発表会見が行われた大阪から帰京する新幹線の中では約2時間半、祝福のメッセージへの返信に追われていたという。
「発表会見を終えて携帯を開いたら、200件以上もメッセージが届いていたんです! この人たちを、絶対に大切にしようって改めて思いました。今までも大切にしてきたつもりでしたが、これからも何があっても天狗にならず、今のまま周囲の人たちへの感謝の気持ちを忘れず、大切にしていきたいと強く感じました。そう気づかせてくれた1日でしたね、あの日は」
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それにしても、着物姿でハラハラと涙を流す姿は多くの人の心を打ったことだろう。無粋ながら、どのタイミングから涙腺が緩んできたのか聞いてみた。
「絶対に泣かない!って思っていたんです。それが、名前を呼ばれて出る直前、スタッフさんから『泣いていいよ』ってささやかれて(笑)。『え? 泣いていい? どういうこと?』って不意を突かれた感じで、その言葉で一気に緩んでしまいました。NHKの局員の方々も発表まで知らされていなかったみたいで、以前、夜ドラ『わたしの一番最悪なともだち』でご一緒したヘアメイクさんやスタッフさんが会見終了後に会いに来てくださって、それでまた号泣しちゃいました」
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「ばけばけ」のヒロイン・松野トキ役を掴み取るまで、朝ドラのオーディションは「舞いあがれ!」「あんぱん」と惜敗を屈している。両作品とも最終選考まで進んでいたという。今回は2892人が参加したオーディションで最終選考には9人が進んだそうだが、髙石本人はライバルの存在は全く意識することはなかったようだ。
「最終に何人残っているのかも、知らされていなかったんです。ただ、これまで誰もが知っているような方に決まっていたので、正直なところ今回もそういう方になるのかなと思っていました。最終落ちが2度続いていたので、何かを変えてみようと思って。『受かるはずがない。でもこの機会を大事にしよう!』という気持ちで臨んでみたんです。
三次審査で、対面で演出の方々に芝居を見てもらえる機会がありました。皆さん、全然かしこまっていなくて、ワークショップみたいでした。普段であれば椅子に座っていらっしゃるんですが、逆に私たちが座ってお芝居をして、その周囲を皆さんが見ているという形式。ワクワクしてきて、とにかく楽しかったんです。しかもお芝居の後をすごく大切にされていて、セリフが終わってからも延々と続く……。
エチュード(即興劇)というんですか。途中で監督も入ってきちゃって(笑)。お父さんの帰りを2人で待つという設定で、台本ではお父さんは帰ってこない。でも監督はお父さんとしているので、最初は訳が分からなかったのですが頭フル回転させて必死で続けました。グループ審査になると、自分が…とかじゃないんです。そこにいるメンバーと協力して続けていかなければならない。それが楽しかったんです」
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一次の書類選考は、エッセイの提出が課せられたと聞いている。髙石はどのような内容を書き記したのだろうか。
「小学生の頃にお世話になった先生で、私に朝ドラのヒロインという夢を与えてくれた恩師がいるんです。その方のことを書こうと、すぐに思い至りました。ずっと連絡を取り合っていた時期もあったのですが、だんだんと疎遠になってしまって…。いざ疎遠になると、なかなか連絡をするきっかけが作れなかったのですが、このエッセイについては先生のことを書きたかったので、たとえ返信が来なくても連絡してみようと。すごく大切なオーディションを受けます。一次審査で先生のことを書かせてもらいたいですって。テーマが『化ける』という言葉を使ってエッセイを書くというものだったので、最後の一文に『先生、わたし化けるね』って書いて提出しました。
その後、先生からも返信があったのですが、発表会見の日の夕方、(髙石の地元である)宮崎県の取材班が先生を特定して取材に来たそうなんです。『改めておめでとう。私が頑張る理由が、ひとつ増えました』って手紙に書いてあって、わたしまた泣きました(笑)」
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ヒロイン決定の報は、どのようにもたらされたのだろうか。きっと涙なしでは語れないエピソードが用意されているのだろうと確信しながら聞いてみた。ここでは、髙石と苦楽を共にしてきた担当マネージャーに詳細を語ってもらった。
「なんの根拠もなかったのですが、会社の先輩たちに『笑ってくれて構わないのですが、わたし今回はいける気がするんです』と言って、笑いあっていました。長崎で撮影をしているときに、ちょうどみやざき大使の仕事の関係で車移動するタイミングがあったので、その夜に伝えようと決めていました。そこに至るまでに、小さな嘘を積み重ねて朝ドラの話題を遠ざけて油断させておいて、『どうしても髙石にお願いしたい役がある』って他のドラマのプロデューサーさんから託された手紙があると伝え、そこに私がヒロイン決定!と書いたお手紙を渡しました」
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「泣きました。泣きますよ」と振り返る髙石はそのとき、想像もしない光景を目にした。「(マネージャーが)動画撮りながら、泣いてるんですよ。わたし、初めて見ましたよ。めっちゃ嬉しかった。ずっと二人三脚でやってきたので…。私って一歩一歩の人間なので、ゆっくり隣で道筋を作ってくれました。愛情しかない人のそばでやってきたので、少しは恩返しができたのかなと思っています」
歓喜の涙の連鎖は、まだまだ続く。この喜びを誰よりも分かち合いたかった両親には、発表会見当日にURLを送り「これを見てください」とメッセージを添えたという。
「当日まで言えませんでした。会見後に母へ電話して、また大号泣でした。母も泣いてくれていましたが、わたしの方が泣いていたかも。これまでも、朝ドラのオーディションでダメだったときに前を向かせてくれたのは、いつも母でした。『次に向けて切り替えよう。あなたがヒロインを務めるのは、どんな作品だろうね』って。ようやく伝えることができた安堵で、わたしが嗚咽するくらい泣いているのを演出チーム、プロデュースチーム、会社のマネジメントチーム全員もまた、涙を流しながら見守ってくれているという、とても温かい時間でした。父からも『やっと少しだけ恩返しができるね』ってLINEが届いて…。本当に嬉しかった。両親とも周囲を大切にする人なので、この人たちのもとに生まれて良かったと心から思いました」
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会見時には、涙を拭えるようにと「ばけばけ」スタッフお手製のハンカチが手渡されたというエピソードが多くのメディアで紹介されたが、まだまだ語られていないエピソードがあったそうだ。
「取材に来られていた記者さんたちからも、すごく温かく迎え入れてくださったように感じ取れたんです。泣いている記者さんもいらっしゃいました。会見後、局内を挨拶回りさせていただく機会がありました。
局内を歩いていたら、初めてお目にかかるスタッフさんが『もう家族だからね』と言って通り過ぎていったんです。そんな嬉しいことを言ってくださるんだって、感激しました。1年間におよぶ撮影は大変と言われていますが、私は“家族”の一員になれることが嬉しくて、大阪での撮影が楽しみで仕方がないです。スタッフさんからも『これは面白い作品になる』とおっしゃってくださっている。そういう作品に見合うよう、全力を尽くします」
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執筆者紹介
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大塚史貴 (おおつか・ふみたか)
映画.com副編集長。1976年生まれ、神奈川県出身。出版社やハリウッドのエンタメ業界紙の日本版「Variety Japan」を経て、2009年から映画.com編集部に所属。規模の大小を問わず、数多くの邦画作品の撮影現場を取材し、日本映画プロフェッショナル大賞選考委員を務める。
Twitter:@com56362672
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