【「グラディエーターII 英雄を呼ぶ声」評論】うわべだけの続編にあらず、前作が持つ戦いの哲学が宿っている
2024年11月17日 07:00
前作が否の打ちどころのない作りで完結しているのに、はたして世に送り出す正当性があるのか? 酒席がお開きになっても、居残ってしゃべり続ける酔客を見るような、そんな蛇足的な作品にならなければ…と案じていたものの、どうやらそれは杞憂に終わったようだ。
巨匠リドリー・スコットに最大の興行的成功をもたらした古代英雄伝、約四半世紀を経てまさかの続編である。今回はヌミディアで暮らしていたルッシラの息子ルシウス(ポール・メスカル)が、ローマ軍に捕えられて奴隷にされ、同地でマキシマスの伝説に感応して剣闘士となる。そこでは狂気で統治する双子の暴帝や、武器商人マクリヌス(デンゼル・ワシントン)が彼らを殺して政権を奪おうと謀略をくわだてており、ルシウスはマキシマスイズムの継承者として、それらとの対峙を余儀なくされていく。
いわば本作は「グラディエーター」(2000)をよりエモーショナルに階層化させての再生産であり、腐敗した世界で善心をまっとうしようとする、そんなヒロイズムを気高く反復する。その拡張は人によって、「風の谷のナウシカ」(1984)が「もののけ姫」(1997)に発展したのと似た傾向を感じるかもしれない。
併せて24年間という時の流れは、正続のルックを大きく変えていく。進化したVFXはローマ帝国のランドスケープをより精緻でパノラミックに生成させ、コロッセオの空間表現は生々しさを増強。逆に戦闘シーンのレイアウトやリズム感は悠然とした様式化をともなっている。それが本作を、前作以上の格調高いものにしているのだ。
また劇中では呼吸が止まりそうな海戦描写や、巨大なサイや殺人ヒヒを相手とする闘獣試合までも展開させ、そこは見せ物感たっぷりに、前作のやり残しを果たすかのように披露している。
なにより民族分断が不安視される現代にあって、相容れない者同士の闘争を一貫して描いてきたリドリーが、再びこの世界にアクセスする意義のある結末になっている。「エイリアン」(1979)や「ブレードランナー」(1982)のフランチャイズは他者に委ねても、この続編だけは自分で手がけた甲斐がある。
執筆者紹介
尾﨑一男 (おざき・かずお)
映画評論家&ライター。主な執筆先は紙媒体に「フィギュア王」「チャンピオンRED」「映画秘宝」「特撮秘宝」、Webメディアに「ザ・シネマ」「cinefil」などがある。併せて劇場用パンフレットや映画ムック本、DVD&Blu-rayソフトのブックレットにも解説・論考を数多く寄稿。また“ドリー・尾崎”の名義でシネマ芸人ユニット[映画ガチンコ兄弟]を組み、TVやトークイベントにも出没。
Twitter:@dolly_ozaki
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