井浦新、「徒花 ADABANA」甲斐さやか監督は「内側の魂が分厚い監督」【第37回東京国際映画祭】
2024年10月29日 22:40
第37回東京国際映画祭の新設部門「ウィメンズ・エンパワーメント部門」に日本映画として唯一選出された「徒花 ADABANA」が10月29日、丸の内ピカデリー2で上映。終映後に主演の井浦新、甲斐さやか監督、作品選定を行ったシニア・プログラマーのアンドリヤナ・ツべトコビッチによるQ&Aが実施された。
本作は、長編デビュー作「赤い雪 Red Snow」で国内外から高く評価された甲斐監督が、構想に20年以上をかけて脚本を執筆した意欲作。ある最新技術を用いた延命治療が可能になった近未来を生きる人々を描く。井浦と水原希子を迎えた日仏合作映画で、現在劇場公開中だ。
「ウィメンズ・エンパワーメント部門」は、東京都と連携し、女性監督の作品、あるいは女性の活躍をテーマとする作品に焦点を当てた部門となる。本作を選出したツべトコビッチは「本作を10~15分くらい見た時、力強い映画だと感じ、自分が何を見せたいのか、鮮明に理解されている監督の作品だなと思いました。キャラクターの展開や作りこみなどに、深いメッセージを感じましたし、とりわけキャスティングが素晴らしい。そういう目のつけどころを大変評価したいと思いました」と絶賛した。
また、ツべトコビッチから勅使河原宏、カズオ・イシグロ、黒澤明作品などから影響を受けたのか?と問われた甲斐監督は「この作品を最初に思いついたのは、中国にクローン人間がいるという都市伝説からで、そこからインスパイアされました。最初はショートフィルムで撮ろうと思ったんです。その後、カズオ・イシグロの『わたしを離さないで』などについて教えていただき、拝読した次第です。また、私も勅使河監督作は好きですし、黒澤監督作では『夢』や『羅生門』が特に大好きな作品です」と笑顔で答えた。
井浦に対しては、この野心的な作品のスクリプトをどう読んだか?と尋ねると、「僕は甲斐監督と組むのは2回目で、前作『赤い雪 Red Snow』で甲斐監督の世界観を体験しました。その時も映画を見る人だけじゃなく、甲斐監督の映画作りに参加するスタッフや俳優にまでつきつけてくるメッセージや、監督にしか作れない世界観を、僕らがどう作っていくかということを、一度経験しています。今回は全く違う話ですが、最初に構想を聞かせてもらった時、僕の中ではスムーズに入ってきて、受け入れることができました」と胸の内を明かした。
井浦は役作りについて「大事にしたのは、強烈な甲斐監督のオリジナリティを、役を通してどのように表現していくかです。自分自身も、20~30代の頃、アートムービーが大好きで、見漁ったこともあったのですが、今回は自分が見て影響を受けたものではなく、それは自分の中に大切にしまっておいて、それよりももっとシンプルに『徒花』の世界に生きる1人の人間と、そこから作られた、ある環境で生きている“それ”という2つの生き物を想定しました。それらを自分自身もまだ演じたことのない表現で、どう演じていくかが、自分自身のアンサーだと思いました。この役へのアプローチは、自分の中での文化人類学的な作り方というか、そういうお芝居のような、または実験のようなものでもありました」と独自のアプローチについて語った。
また、観客からは、本作において、女性監督ならではのアプローチだと感じた点や、井浦が恩師とする若松孝二監督の演出との違いについての質問も上がった。
井浦は「僕自身が、男性の監督だから、女性の監督だからというのをあまり意識はしていないのですが」という前提を踏まえた上で「まず映画監督という専門職が、だいぶ特殊で、男性も女性も個性的な方たちが多いです。甲斐監督は脚本までご自身で書かれますし、ぶれない世界観があり、そういう意味では内側の魂が分厚い監督だなと思います。若松監督とは、時代も作風も映画作りの仕方も違うけど、ご自身の世界観が絶対にぶれず、自分の撮りたいものを撮るという貪欲さや、もの作りへの真剣さは同じだなと感じました」と述懐。
さらに「不思議なことに、甲斐監督といる時に、若松監督の顔が浮かぶ場面もあって。ごはんを食べながら、クリエイティブなお話をうかがっている時、あれ?と思うことも多々ありました。お二人で、映画作りの志や社会への眼差しなど、重なる部分が何度もあったなと思ったんです」と亡き恩師と甲斐監督との共通点を感慨深い表情で語った。
第37回東京国際映画祭は、11月6日まで開催。
関連ニュース
映画.com注目特集をチェック
関連コンテンツをチェック
シネマ映画.comで今すぐ見る
第86回アカデミー作品賞受賞作。南部の農園に売られた黒人ソロモン・ノーサップが12年間の壮絶な奴隷生活をつづった伝記を、「SHAME シェイム」で注目を集めたスティーブ・マックイーン監督が映画化した人間ドラマ。1841年、奴隷制度が廃止される前のニューヨーク州サラトガ。自由証明書で認められた自由黒人で、白人の友人も多くいた黒人バイオリニストのソロモンは、愛する家族とともに幸せな生活を送っていたが、ある白人の裏切りによって拉致され、奴隷としてニューオーリンズの地へ売られてしまう。狂信的な選民主義者のエップスら白人たちの容赦ない差別と暴力に苦しめられながらも、ソロモンは決して尊厳を失うことはなかった。やがて12年の歳月が流れたある日、ソロモンは奴隷制度撤廃を唱えるカナダ人労働者バスと出会う。アカデミー賞では作品、監督ほか計9部門にノミネート。作品賞、助演女優賞、脚色賞の3部門を受賞した。
父親と2人で過ごした夏休みを、20年後、その時の父親と同じ年齢になった娘の視点からつづり、当時は知らなかった父親の新たな一面を見いだしていく姿を描いたヒューマンドラマ。 11歳の夏休み、思春期のソフィは、離れて暮らす31歳の父親カラムとともにトルコのひなびたリゾート地にやってきた。まぶしい太陽の下、カラムが入手したビデオカメラを互いに向け合い、2人は親密な時間を過ごす。20年後、当時のカラムと同じ年齢になったソフィは、その時に撮影した懐かしい映像を振り返り、大好きだった父との記憶をよみがえらてゆく。 テレビドラマ「ノーマル・ピープル」でブレイクしたポール・メスカルが愛情深くも繊細な父親カラムを演じ、第95回アカデミー主演男優賞にノミネート。ソフィ役はオーディションで選ばれた新人フランキー・コリオ。監督・脚本はこれが長編デビューとなる、スコットランド出身の新星シャーロット・ウェルズ。
ギリシャ・クレタ島のリゾート地を舞台に、10代の少女たちの友情や恋愛やセックスが絡み合う夏休みをいきいきと描いた青春ドラマ。 タラ、スカイ、エムの親友3人組は卒業旅行の締めくくりとして、パーティが盛んなクレタ島のリゾート地マリアへやって来る。3人の中で自分だけがバージンのタラはこの地で初体験を果たすべく焦りを募らせるが、スカイとエムはお節介な混乱を招いてばかり。バーやナイトクラブが立ち並ぶ雑踏を、酒に酔ってひとりさまようタラ。やがて彼女はホテルの隣室の青年たちと出会い、思い出に残る夏の日々への期待を抱くが……。 主人公タラ役に、ドラマ「ヴァンパイア・アカデミー」のミア・マッケンナ=ブルース。「SCRAPPER スクラッパー」などの作品で撮影監督として活躍してきたモリー・マニング・ウォーカーが長編初監督・脚本を手がけ、2023年・第76回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門グランプリをはじめ世界各地の映画祭で高く評価された。
「苦役列車」「まなみ100%」の脚本や「れいこいるか」などの監督作で知られるいまおかしんじ監督が、突然体が入れ替わってしまった男女を主人公に、セックスもジェンダーも超えた恋の形をユーモラスにつづった奇想天外なラブストーリー。 39歳の小説家・辺見たかしと24歳の美容師・横澤サトミは、街で衝突して一緒に階段から転げ落ちたことをきっかけに、体が入れ替わってしまう。お互いになりきってそれぞれの生活を送り始める2人だったが、たかしの妻・由莉奈には別の男の影があり、レズビアンのサトミは同棲中の真紀から男の恋人ができたことを理由に別れを告げられる。たかしとサトミはお互いの人生を好転させるため、周囲の人々を巻き込みながら奮闘を続けるが……。 小説家たかしを小出恵介、たかしと体が入れ替わってしまう美容師サトミをグラビアアイドルの風吹ケイ、たかしの妻・由莉奈を新藤まなみ、たかしとサトミを見守るゲイのバー店主を田中幸太朗が演じた。
文豪・谷崎潤一郎が同性愛や不倫に溺れる男女の破滅的な情愛を赤裸々につづった長編小説「卍」を、現代に舞台を置き換えて登場人物の性別を逆にするなど大胆なアレンジを加えて映画化。 画家になる夢を諦めきれず、サラリーマンを辞めて美術学校に通う園田。家庭では弁護士の妻・弥生が生計を支えていた。そんな中、園田は学校で見かけた美しい青年・光を目で追うようになり、デッサンのモデルとして自宅に招く。園田と光は自然に体を重ね、その後も逢瀬を繰り返していく。弥生からの誘いを断って光との情事に溺れる園田だったが、光には香織という婚約者がいることが発覚し……。 「クロガラス0」の中﨑絵梨奈が弥生役を体当たりで演じ、「ヘタな二人の恋の話」の鈴木志遠、「モダンかアナーキー」の門間航が共演。監督・脚本は「家政夫のミタゾノ」「孤独のグルメ」などテレビドラマの演出を中心に手がけてきた宝来忠昭。
奔放な美少女に翻弄される男の姿をつづった谷崎潤一郎の長編小説「痴人の愛」を、現代に舞台を置き換えて主人公ふたりの性別を逆転させるなど大胆なアレンジを加えて映画化。 教師のなおみは、捨て猫のように道端に座り込んでいた青年ゆずるを放っておくことができず、広い家に引っ越して一緒に暮らし始める。ゆずるとの間に体の関係はなく、なおみは彼の成長を見守るだけのはずだった。しかし、ゆずるの自由奔放な行動に振り回されるうちに、その蠱惑的な魅力の虜になっていき……。 2022年の映画「鍵」でも谷崎作品のヒロインを務めた桝田幸希が主人公なおみ、「ロストサマー」「ブルーイマジン」の林裕太がゆずるを演じ、「青春ジャック 止められるか、俺たちを2」の碧木愛莉、「きのう生まれたわけじゃない」の守屋文雄が共演。「家政夫のミタゾノ」などテレビドラマの演出を中心に手がけてきた宝来忠昭が監督・脚本を担当。