【「憐れみの3章」評論】“人間の矮小化”という弱点を克服したヨルゴス・ランティモス監督の新章の始まり
2024年9月29日 15:00

“劇団ランティモス”へようこそ!である。劇団員(出演者)はヨルゴス・ランティモス監督の前作「哀れなるものたち」から続投するエマ・ストーン、ウィレム・デフォー、マーガレット・クアリーという3世代の実力派。さらに近年最も活躍しているアジア系俳優のホン・チャウと「パワー・オブ・ザ・ドッグ」「キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン」のジェシー・プレモンスが加わり、豪華な顔ぶれが3章仕立ての各エピソードで3つの役を演じ分ける(ひとり4役もいる)。
ひとつの章はだいたい50分あり、中編オムニバスと呼ぶべきか。総上映時間は2時間45分。壮大なロードムービーでもあった「哀れなるものたち」より23分も長い。にもかかわらず、これまでのどのランティモス作品より短く感じた。面白いから、は当然として、どのエピソードも長すぎず短すぎず、ランティモスならではのヘンテコな小噺がテンポよく続いていくので、飽きたりダレたりする暇がないのだ。
全体を通じて「支配と非支配」というテーマは察知できるが、それぞれに別個の物語が進行する。第一章は、謎の大富豪の指示に絶対服従するという奇妙な仕事に就いた男の転落劇。第二章は、遭難事故から生還した妻を「別人ではないか?」と疑う夫を描いたシュールなスリラー。そして第三章は、エマ・ストーン扮する女性がカルト教団の救世主を探して全米を旅する。第一章では脇役だったストーンが第三章では主人公になるなど役割はコロコロ入れ替わるが、どこか繋がっているように感じる部分もあり、正解を探し始めるとまんまと迷宮に入り込む。
ランティモスはキャリアを通じて「人間は愚かで幼稚である」というシニカルな目線を貫いてきた。「憐れみの3章」も「愚かな人間大放出!」なのだが、筆者はほのかな、しかし決定的な違いを感じている。
おそらくランティモスは、前作「哀れなるものたち」を作ったことでより普遍的なシンパシー(共感力)を獲得し、人間観が少しポジティブに修正されたのだと思う。ブラックコメディであることは一緒でも、過去作では自虐的に人間を戯画化している印象があった。いまはその愚かさを慈しむとまでは言えなくとも、ありのままで受け入れる度量がある気がしてならない。ときに現実離れしたヒドいことや、バカバカしい珍事態のオンパレードなのに、不思議と意地悪さは感じない。“人間の矮小化”という弱点を克服したランティモスの、新たなる章の始まりだと思っている。

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