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眞栄田郷敦、映画「ブルーピリオド」原作者・山口つばさと対談 キャリアの転機&若者たちへのメッセージ

2024年8月10日 12:00

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眞栄田郷敦と原作者の山口つばさ
眞栄田郷敦と原作者の山口つばさ

「マンガ大賞2020」を受賞した山口つばさによる人気漫画を、眞栄田郷敦主演で萩原健太郎監督が実写化した映画「ブルーピリオド」。空虚な毎日を送っていた男子高校生が、絵画にのめりこみ、情熱だけを武器に美術の世界に本気で挑む姿を描いた“青くて熱い”青春ドラマだ。

眞栄田をはじめ、高橋文哉板垣李光人桜田ひよりら、メインキャストの若い才能と好演が光る本作、それぞれが演じるキャラクターも大きな話題を集めている。8月9日からの劇場公開を前に、眞栄田と山口氏が対談。映画と主人公八虎のキャラクターについて、またお互いのキャリアについて語り合った。(取材・文/映画.com編集部、撮影/松蔭浩之

画像2(C)山口つばさ/講談社 (C)2024映画「ブルーピリオド」製作委員会
<あらすじ>
高校生の矢口八虎(演:眞栄田)は成績優秀で周囲からの人望も厚いが、空気を読んで生きる毎日に物足りなさを感じていた。苦手な美術の授業で「私の好きな風景」という課題を出された彼は、悩んだ末に、一番好きな「明け方の青い渋谷」を描いてみる。絵を通じて初めて本当の自分をさらけ出せたような気がした八虎は、美術に興味を抱くようになり、またたく間にのめりこんでいく。そして、国内最難関の東京藝術大学への受験を決意するが……。
画像3(C)山口つばさ/講談社 (C)2024映画「ブルーピリオド」製作委員会
▼アニメ化に続き、実写映画化 原作者の感想は?
――まずは山口先生、実写映画化されると決まったときのお気持ち、そして完成作を観た感想を教えてください。
山口:自分が描いたものが実写化されると、どう仕上がるのかな? という楽しみと恐怖半分みたいな気持ちでした。完成作では、漫画ではできない表現、映画ならではの表現をたくさん盛り込んでくださっていて楽しかったです。

漫画より登場人物たちのセリフを削っているので言葉は少なくなっていますが、役者さんたちの演技や細かい動きで、その削られたものがすごく伝わってきます。それは脚本を読んだ時にはわからなかった部分で、これは漫画じゃできないな、すごいなと思いました。

――実写化にあたって、山口先生から製作陣に何かリクエストはされたのでしょうか?
山口:あまりないのですが、鮎川龍二のキャラクターは、センシティブなところもあるので、少しお話はさせていただきましたが、それ以外は、原作者としての立場からはほとんど何も言っていません。
ユカちゃん(鮎川龍二)を演じた高橋文哉
ユカちゃん(鮎川龍二)を演じた高橋文哉
(C)山口つばさ/講談社 (C)2024映画「ブルーピリオド」製作委員会
▼大ヒット漫画のキャラクター、演じる上でどう解釈した?
――眞栄田さんは、役作りで先入観を持たないために、撮影前に原作を読まれなかったそうですね。その後、八虎を演じて、しかもご自身で描画に挑戦するという経験を経て原作を読まれた感想を教えてください。
眞栄田:あ、これやったやつ! みたいな感じで、いろんな場面を答え合わせみたいに読み進めていくのがすごく楽しかったです。特に、絵画の経験者はこれはハマるだろうな……と、漫画に描かれているのがすごくリアルな表現だということがわかりました。

もちろん、現場に入る前から原作のことは知っていましたし、軽くは眺めていました。でも、演じてからじっくり読んだら、より楽しくその世界観に入り込めた気がします。

画像5(C)山口つばさ/講談社 (C)2024映画「ブルーピリオド」製作委員会
――原作の八虎と眞栄田さんが作り上げた八虎に違いはありますか?
眞栄田:それはあると思います。そこは映画を見た方に判断してほしいですね。
――八虎を演じるにあたってどういった点に一番気を配りましたか?
眞栄田:美術と出合う前の八虎、そして出合ってから成長する姿という変化をまず大事に、そのグラデーションをしっかり意識しました。
――山口先生は、眞栄田さんが演じる八虎に対してどのような感想を持ちましたか?
山口:私の印象は、良い意味で漫画の八虎よりちょっと不器用な感じがしました。だからこそ、実直な感じというか……言葉にして他の人には言わないけど、頭の中でいろいろと考えているんだろうな……そういうことが不思議とすごくわかるお芝居で。

漫画の八虎は結構ヘラヘラしちゃうし、繊細だけどそれなりに攻撃的な部分もある、そういうキャラクターですが、映画の八虎は、本当に予備校にいる子のイメージがわかっている感じがあって。とても頑張っているし、わかる、本当にこういう子いる……と思えて、すごくよかったです。

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▼漫画家として、俳優として――お互いに質問タイム!
――山口先生から眞栄田さんに質問はありますか?
山口:例えば私が漫画を描くときは、まずどういうストーリーにしようか、そして、このキャラはどういうキャラで、どういう風に組んで、このキャラには何が足りないのか……そういう全体のこと常に考えながら作品を作っていきます。
でも、眞栄田さんをはじめ俳優さんや、アニメの声優さんたちは、1人のキャラクターに向き合う労力や時間が私よりもすごく多いと思うんです。そういう意味で、眞栄田さんは八虎をどういう風に捉えているか知りたいですね。
眞栄田:芝居をする中で、リアリティを求めるとなると、やはり自分にあるものをベースにします。例えば、自分の繊細さがメーターでこのくらいなら、この役ではちょっと引き延ばそうとか。明るさでは普段の俺はこうだけど、この役では……という感じで。そういうメーターは、TPOで変わるものなので、自分が持っているレンジは結構広いと思っていて。その中で役に合わせて、調節していく感じです。

だから、八虎という他人を演じても、どこまで行っても自分だ、という意識が強いです。もちろん、原作の八虎は自分とは思えないですが、映画は、脚本を自分なりに解釈をして作った八虎なので、映画の中での八虎は、やっぱり自分だ、っていう感覚ですね。

山口:なるほどー(深く頷く)。それは面白い!
撮影が行われた美術室
撮影が行われた美術室
(C)山口つばさ/講談社 (C)2024映画「ブルーピリオド」製作委員会
――今回、この作品で眞栄田さんは八虎として受験絵画に取り組みました。八虎と同様に最難関の東京藝術大学に進んだ山口先生に聞きたいことはありますか?
眞栄田:山口先生も東京藝大を受験されたんですよね?
山口:そうです。幼稚園の頃からお絵描き教室に通って、高校も美術系で、中学の時からデッサンもバリバリやっていて……そこはかなり八虎とは違いますね。
眞栄田:その経験から、漫画で描かれた“努力する人間と天才”、そういうことを考えたんですか?
山口:考えましたね。ただ、当時は“天才”の魔力に引っ張られましたが、今はそこまで思わないです。あ、でも、ほかの漫画家さんに対して、そう思うことはあるかも。それでも、昔ほどギラついた言葉としては捉えていないですね。
眞栄田:八虎の“俺にはこれしかない”っていう気持ちの解釈で、僕は高校生にとって、受験って人生の全てみたいなことがあるのかなと思って。この大学に行けなかったらその先、どうすんだろう……と考える、そういう気持ちを大事に、受験までの1年半~2年間が人生の勝負ぐらいの感じで演じました。実際に受験を経験された当時の山口先生はどうだったんですか?
山口:もちろんそういう気持ちはかなりありました。「受験なんて通過点だよ」みたいなこともよく言われますが、当人にとってその時はそれがすべてだし、将来のことなんて、想像できなかったです。でも、その頃の狂気的な熱量を軽んじるのは良くないな、って、今は思います。「青春だよね」とか「人生の通過点だよね」っていうの、なんだかずるい大人の言葉だなって。
眞栄田:そうですよね……よくわかります。

今回、映画の八虎は、そういったところも含めて苦しんでる姿を強く表現したかったんです。だから、原作より必然的に不器用になったのかなと思います。

美術部の顧問を演じた薬師丸ひろ子
美術部の顧問を演じた薬師丸ひろ子
(C)山口つばさ/講談社 (C)2024映画「ブルーピリオド」製作委員会
▼実は、高校時代は今の職業に就くことを想定していなかったふたり
――“好き”にまい進する、がこの作品のひとつのテーマです。眞栄田さんも山口先生も、今、それぞれのフィールドで大活躍されていますが、眞栄田さんは元々音楽の世界を目指しており、山口先生も藝大入学当初は漫画家志望ではありませんでした。一般的にも、大人になるまでになにかしらの挫折を経験したり、人生の進路を変更する、そういう人の方が大多数だと思います。おふたりのターニングポイントについて教えてください。
山口:眞栄田さんは、役者で頑張ろうって思ったタイミングがあったんですか?
眞栄田:ありますね。僕はなにかやるって決めた時は手を抜かずにやる性格なんですが、この作品の前に萩原監督と1回ご一緒させてもらって、その時に全然芝居できなかったのがめちゃくちゃ悔しくて。

その時に、芝居についての本を貸してもらったんです。それで、萩原さんと次にもう1度一緒に仕事をして、リベンジできるまでこの本は借りパクしようと(笑)。 そして、この作品のクランクアップに返せました。僕の中で、萩原さんとは役者としてちゃんとやりたい、もちろん最初からそう思っていましたが、より強く思った今回がまさにそのタイミングなのかもしれません。

山口:わあ、それはドラマですね! めっちゃ熱い!

私が漫画を描こうって思ったのは、藝大は現役で入ったものの、何かをやるみたいなことに対してハードルを上げすぎて、わけわかんなくなっちゃって。それで、もともと漫画が好きだったので、自分が楽しいって思うものを素直にやってみようと思ったのがきっかけです。

台本を読む眞栄田
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――これからの進路を考える、若い世代にメッセージやアドバイスをお願いします。
山口:私はメッセージを言えるほど偉くないので困ってしまいますが……とにかく、いっぱい食べて、よく寝て、自分の好きなことも嫌いなことも知ろう、かな。私は漫画を描いていますが、だから絶対に好きなことを仕事に!って言うほどじゃなくて、人生長すぎるからいい意味での暇つぶしとして、 今、一生懸命になれることを描いている、それくらいのスタンスなんですよ。
眞栄田:17~18歳の頃って、本当に自分の好きなことはわからないと思うんです。だって学校にしかいないんだから。

山口先生の仰るように、人生は長くて、いつでもなんでもできるから、いろんなことを経験することが僕は大事だと思います。その上で、自分の強みとか、何が好きとか嫌いとか、やってみて楽しいことがわかってきたところで、また考えればいい。とりあえず、自分が今いる場所で咲こうとする努力、置かれている場所で全力になってみればいいんじゃないかなと思うんです。そこで自分と向き合うと色々考えるし、また、いろんな人と出会うことでも視野が広がると思います。

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