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【「箱男」撮影現場レポ】石井岳龍監督「一度たりとも諦めたことがない」“幻の企画実現”に確かな“熱”を感じた

2024年8月9日 10:00

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撮影現場に潜入!
撮影現場に潜入!
(C)2024 The Box Man Film Partners

安部公房氏の小説を石井岳龍監督の手によって映像化した映画「箱男」。27年越しに日の目を見ることになった“幻の企画”は、2023年6月19日にクランクインを迎えていた。映画.comは、 同年7月3日、茨城県笠間市にある「旧友部病院」で行われた撮影に潜入。石井監督が誘う摩訶不思議な世界――確かな“熱”を感じる現場。目を疑うような光景を目の当たりにした。

箱男」は、日本を代表する作家・安部氏が1973年に発表した小説であり、代表作の一つとして知られている。「人間の自己の存在証明を放棄した先にあるものとは何か?」をテーマに、その幻惑的な手法と難解な内容のため、映像化が困難と言われていた。石井監督版の映画は、97年に製作が決定。ところが不運にもクランクイン前日に、撮影が突如頓挫。撮影クルーやキャストは失意のまま帰国することとなり、幻の企画となっていた。

そこから27年。奇しくも「安部公房生誕100年」にあたる2024年、映画化を諦めなかった石井監督が遂に「箱男」を実現。主演は27年前と同じ永瀬正敏。さらに永瀬と共に27年前も出演予定だった佐藤浩市に加え、浅野忠信白本彩奈が加わっている。

画像2(C)2024 The Box Man Film Partners

この日行われていたのは「“箱男”VS“ニセ箱男”」のバトルシーン。“箱”に入った男2人が物理的に“激しく”戦っている光景は、あまりにもクレイジー。“箱男”の片手には、砂の詰まったワニの人形。スピーディな動きで“ニセ箱男”を徐々に追い詰めていく。「俺が“本物”だ」と言わんばかりの気迫。だが、はた目から見ていると、どちらかが“本物の箱男”なのか――徐々に頭の中が混乱していった。

真夏の陽気――室内の空調は効いているが、撮影時には“停止”しなければならない。ただ立っているだけでも、汗が全身を覆い尽くす。そんな状況下で、永瀬と浅野は“箱”を被り、小さく開いた“窓”から、撮影現場を覗き込んでいた――。

画像3(C)2024 The Box Man Film Partners
画像4(C)2024 The Box Man Film Partners

撮影の合間には、石井監督に加え、プロデューサーの小西啓介氏(ハピネットファントム・スタジオ)、関友彦氏(コギトワークス)が囲み取材に応じた。かつて中断した企画を遂に撮っている――石井監督は「毎日順調に大変なので、感慨にふける暇がないんです。毎日ハードワークをこなしています」と口火を切り、安部氏との初対面について語り出した。

石井監督「安部さんにお会いした当時は『逆噴射家族』と『ノイバウテン 半分人間』を撮っていた頃。その2本をすごく気に入っていただいて。そこから『箱男』映画化に際しては『石井君、娯楽にしてくれ』と言われたんです。27年前のバージョンは“全編娯楽”のような形ですが、今回はそれだけではなくかなり原作に近い要素や、私が考える“映画の面白さ”というものを、多面的に入れている感じです。つまり“全部盛り”。“原作=純文学”であることも考慮しつつ、映画としての面白さを存分に発揮させながら、映画として翻訳しているような感じです」
画像5(C)2024 The Box Man Film Partners

頓挫から27年の間「一度たりとも諦めたことがない。最初に立ち上げた時から“必ず撮る”。物理的な問題で撮れなくなった時期はありますが、必ず機会が巡ってくると信じていました」と明かした石井監督。関氏に「(『箱男』の映画化を)一緒にやりたい」と持ちかけたのは、2013年1月。2015年、今回のバージョンにおける“初稿”を書き終えるが、すぐさま撮影には結びつかず。関氏いわく「毎年のように『今年はやりましょう』『今年はできませんでした』の繰り返し」だったそうだ。

関氏「(スタッフやキャストには)初稿が上がった15年には、既に“お声掛け”はしていまして。オファーをさせていただき、快諾していただいてから、毎年『今年は何月が空いてらっしゃいますか』という形です」
画像6(C)2024 The Box Man Film Partners

大きなきっかけとなったのは、2024年に控えていた「安部公房生誕100年」。2023年の撮入を目指し、石井監督と永瀬は、関氏同席のもと顔を合わせることになった。時は、2022年12月31日――。関氏は、当時の様子をこう振り返った。

関氏「2時間ぐらい“言葉にならない”時間が続いていましたね。『ついにやるんですね』『えぇ』と頷き合いながら視線を交わしていて――」
画像7(C)2024 The Box Man Film Partners

ここでさらに時をさかのぼろう。石井監督と関氏の繋がりが強まったのは、ドラマ「ネオ・ウルトラQ」シリーズの撮影時。同作には、「箱男」の脚本・いながききよたか、撮影・浦田秀穂、照明・常谷良男らも参加していた。関氏は「(『ネオ・ウルトラQ』の)編集が全て終わった頃、石井監督から『関君とやりたいものがあるんだ』と言われて渡されたのが『箱男』でした。最初にやってきた感覚はショッキング(笑)。それと同時に光栄でもありました」と述懐する。

まず関氏が着手したのは、原作権の取得。2013~2016年を経て許諾を得ると、次いで脚本のいながきを迎え、プロットを何度も何度も組み替えつつ、完成へと突き進んでいった。と同時に、関氏は資金調達にもまい進することになる。

関氏「公開したら絶対に見に行く。だけども“映画としての出資”はどうしても難しいと言われ続けまして。脚本を読んでいただいてもわかりづらいテイストですし、どういう映画になるのかがイメージにしにくかったんだと思います」
画像8(C)2024 The Box Man Film Partners
画像9(C)2024 The Box Man Film Partners
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やがて「ハピネットファントム・スタジオ」というパートナーに巡り合う。同社の小西氏は、石井監督とは長い付き合い。「箱男」の話題は以前から聞き及んでいたようで――。「『箱男』については、97年に起きた事件も知っていましたし、石井監督とは何作もご一緒していたので何かの形でご協力できればとは思っていましたが、『シャニダールの花』で、石井監督と韓国のプチョンの映画祭に行った時に、タクシーでの移動中『いよいよ箱男ができるかもしれません』とお聞きしました。多分原作権取得の目途がついた頃だったのかな」と振り返る。

小西氏「“箱を被って窓から覗く”だけで優位に立てる。この感覚が本当に現代的だなと思いました。姿を見せず、一方的に覗くだけ。今の時代のSNSのように好き勝手に覗いて発信もできる。誰でもヒーロー、またはアンチヒーローになり得る。原作は50年も前の作品ですが、その点が“今の時代性”を予見していると思いました」
画像11(C)2024 The Box Man Film Partners

石井監督も「“今の映画”として撮らなければ意味がないと思っていた」という。

石井監督「ノスタルジーとしての作品ではなく、みんなが自分の主観や妄想の世界に閉じこもってる“1億総箱男化”という部分が腑に落ちて、とにかくどんな状態でも作ってやろうと。そこは制作サイドも同じ思い。『今やるべきだ』ということで、ついに立ち上がったんです」
画像12(C)2024 The Box Man Film Partners

映画版「箱男」は、アクションである。と同時にラブストーリーでもあり、ホラーでもある。そしてギャグもたんまり込められているコメディであり、サスペンスであり、不条理スリラーであり……つまりノンジャンルかつ、すべての映画を包括するようなオールジャンル。石井監督は「撮影日によって全然違う映画になるんです。今日はたまたまアクションですね」と笑みを浮かべた。

では、石井監督にとっての「箱男」とは――?

石井監督「私には“怪人”に映ったんです。最底辺の人物が、段ボールの除き窓を開けることによって、実存的なヒーローになる。娯楽的にイメージしたのは、丹下左膳。どちらかといえば何かが欠落しているようなダークヒーローです。そういう存在に“ダンボールを被るだけ”でなることができる。これはマーベルとは全く異なるヒーロー像ですし、それが非常に日本的で素晴らしい発明だと思いました。もちろん匿名性や、本物と偽物の問題、安部さんならではのアイデンティティの喪失における問題は原作に色濃く滲んでいるので、そこは自分なりにじっくり取り入れてさせてもらっています。100人いれば100通りの解釈があるような小説なので、そこをどのように映画として見せたらいいのかは、ずっと、ずっと、ずっと考え続けています」

27年という歳月によって熟成された“答え”は、間もなく世に発信される。

箱男」は、8月23日から全国で公開。

執筆者紹介

岡田寛司 (おかだ・ひろし)

映画.com編集部員。1987年生まれ、千葉県出身。舞台挨拶、現場取材、インタビューなどを担当。プライベートでは、脚本を書くこともあります



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