【インタビュー】細田佳央太、注目度急上昇も「人気は副産物」 デビュー作から変わらぬ俳優としてのスタンス
2024年7月3日 10:00
俳優の細田佳央太が、岩明均氏の漫画を実写化したドラマシリーズ「七夕の国」で主演を務めた。同作はディズニープラスのコンテンツブランド「スター」で世界配信される。約1000人のオーディションから主演に抜てきされた映画「町田くんの世界」以来、さまざまなドラマ、映画で快進撃を続ける細田が、新たなフェーズへと踏み出す重要作になる予感だ。一方、当の本人は注目度が急上昇する状況にも「人気は副産物」と冷静に自己分析。若き演技派を奮い立たせる、俳優としての信条・心情とは?(取材・文/内田涼)
原作は、1996年~99年に「週刊ビッグコミックスピリッツ」(小学館刊)で不定期連載された同名漫画。「寄生獣」「ヒストリエ」などで人気を博す岩明作品のなかでも、カルト的人気を誇り、その壮大なスケールと刺激的な表現から「映像化不可能」と言われ続けていた怪作だ。
ある日、ビルや人体が丸くえぐられる怪事件が多発し、日本中が恐怖に包まれる。事件の鍵を握るのは、季節外れの七夕祭を行う山間の丸川町に、代々受け継がれていた“球体の力”の謎――。自身もこの地にルーツを持つ主人公の南丸洋二(通称ナン丸)は、内に秘めたパワーと向き合い、巨大な陰謀に対峙していく。
僕はすごくうらやましいなと思います。将来に対して、不透明な部分があっても、すごく楽観的ですよね。就活もそんなに焦っていないですし。周りに流されているだけかもしれないですけど、そういうナン丸独特の“柔らかさ”が、同じ世代としてうらやましいなと思いますね。
そうですね。SNSが当たり前にある時代なので、情報っていうものに、すごく囲まれて育ってきたじゃないですか。だから、何が正しいのか、正しくないのか。わからないことが多すぎて、本当にやりたいことがあっても無理だと諦めたり、かと言って、何をしたらいいのかもわからなかったり。そういう不安を抱えている人が多いんじゃないかなと思います。もしかすると、ナン丸の楽観的な部分って、(原作が生まれた)90年代の空気なのかもしれないですけど。ある種の脱力感というか。
それは確かにそうなんです。言ってしまえば、普通の男の子なので、親近感が湧いて、役との距離が近いというか、入り込みやすい、寄り添いやすいキャラクターではありました。イコール、演じやすいということではないんですが。瀧監督(演出の瀧悠輔)からは、「ナチュラルに、フラットに演じてほしい」という言葉をいただいて。
そういうことだと思います。瀧監督からは本読みの段階で「多分、ドラマのクセがついているんだろうね」とも言われましたから。ドラマのお芝居って、タッチも含めて分かりやすさが求められることが多いですが、今回はそのパーセンテージを下げるというか。わかりやすい喜怒哀楽を出すのではなく、あまり作りこまず、もっと等身大がいいとおっしゃっていて。
難しかったか? うーん、そうですね。でも、もう心のふんどしを締めて(笑)、やるしかないので。実際、インする前は高い壁に見えていても、挑んでみると思ったほど高くなかったなと思えますし、今回で言えば「ナチュラルに、フラットに」という(演技の)引き出しを手に入れることができたので、求められれば、それをすぐ出せるようになりたいですね。
不安や緊張は、どの作品にもついてまわりますし、実際に作品を見てくださった皆さんの声を聞いてみないと、分からないこともあるので。それに、作品は自分ひとりでは、作れないじゃないですか。自分がどんな良いお芝居ができたとしても、それは周りにいる方々のおかげなので、「自分が何かを成し遂げた」みたいなことは、そもそもありえないと思ってしまいます。
手応えや実感を聞かれることもありますが、いまのところはわからないですね。作品をたくさんの人に見てもらい、賞賛の声が届けば、そこで初めて良かったなと安心するのかもしれないですね。自分が携わらせていただいた作品ですから、やはり評価というものは気になります。
「七夕の国」という作品は、特殊な能力をめぐるミステリーやSF的な戦いが、壮大なスケールで描かれていますが、背景にあるのが“丸神の里”と呼ばれる小さな町ですよね。古くからの伝統を守り続ける町の閉鎖的な雰囲気が、海外の人たちにどんな風に見えるのか、文化的な面も含めて、すごく興味がありますね。
僕自身は留学経験もありませんし、日本特有の考えや価値観に触れながら育ってきましたが、作品に関しては「日本人が作った日本だからこそ説得力はある」という自信はあるので、それがどんな反応で返ってくるのか好奇心が湧いています。きっと海外の人たちが、日本をどう見ているのかも知ることができるでしょうし。
そうですね。確かに、“球体の力”とかロジックを理解するのは、難しさもあるかなと思ったんですが、原作を丁寧に台本に起こしているし、テンポも良いので、身構えずに楽しめる、とても見やすい作品になっていると思います。
あの球体はもちろん、現場では見えませんから、演じるときは、球体の発泡スチロールに棒が刺さったものを、助監督さんが「こう動きますよ」とイメージを見せてくださいました。実は、丸神の里の遠景もCGなので、自分史上最もCGに囲まれた撮影だったかもしれません。マーベル作品の俳優さんは、そんなことが当たり前だと聞きますから、順応する技術はすごいなと思いますね。
俳優というお仕事をさせてもらう上で、確かに注目していただくに越したことはないですし、いまはいろんな形で、人気や知名度を測られることも多いので、目に見える数字というものも大切だとは思っています。
ですが、個人的な気持ちをお話しすると、そういった部分を優先してお仕事をしているつもりはないんですね。映画やドラマ、ものづくり全般を含めた芸術は、衣食住と比べれば、人間が生きていく上では必要ないのかもしれません。それでも、人間の手によって生み出される芸術が、現代まで廃れることなく受け継がれた意味みたいなものを考えると、それが僕のなかでもすごく大事で。俳優という仕事をしている理由も、そこが大きいですね。
俳優として携わらせていただき、その作品が世に出るわけじゃないですか。ですから、自分が演じさせてもらう意味があるのか、しっかり自分自身で届けられるのか。そういったことを優先しながら、俳優というお仕事が続けられればと思います。20代という大切な期間をどう歩むべきか、事務所の皆さんと話し合ってお仕事をしていきたいです。僕のことを知ってくださる人が増えることは、純粋にうれしいですが、それはあくまで副産物なので。
目標ですか? いまはこれといってないですね。お芝居はもちろん、上手い下手があるかもしれないですが、最終的には好き嫌いの感性なので、俳優としてはできることを一生懸命やるだけ。そういうスタンスは、「町田くんの世界」からなるべく変えないようにしているんです。命がけで全力投球した作品が、いろんな人に見てもらい、受け止めてもらえた。なんか、それだけで十分幸せかなと思えますし、そういうお芝居をやっていければ、それがいいかなと。
1本に絞るのは大変ですが、一番好きな映画は、役所広司さんと小栗旬さんが出演している「キツツキと雨」(2012)です。
そうなんです。「キツツキと雨」を見たのは、「子供はわかってあげない」の撮影が終わったあとで。だから、配信で見たんです。一言で言えば、とてもかわいらしい作品。ああいった、ささやかな人間模様を描いた作品が大好きですし、当時の小栗さんが演じるまだ売れていない映画監督は、世代も近いし、仕事柄自分にとって身近な存在なので。
役所さんとの出会いから、物語が動き出しますよね。そういうのを見ていると、やっぱり人を変えるのは、人との出会いなんだなと。俳優という仕事の魅力にも通じるので、自分のなかで悩んだときや、元気になりたいときに見るようにしているんです。
正直、番組のコーナーを担当させてもらうようになって、それがきっかけで、海外の作品を見るようになりました。もっと早く、海外の作品に興味を持って、出合っていれば良かったなと思いますね。先ほど「七夕の国」で、日本のことを知ってもらえれば、というお話をしましたけど、いまの僕は海外の作品に触れながら、全然違う文化や価値観に出合っている感じですね。勉強、とは違いますけど、映画を通して、たくさんの学びを得ていると思います。
「七夕の国」は、ディズニープラス「スター」で、7月4日に独占配信開始。
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2012年に逝去した若松孝二監督が代表を務めていた若松プロダクションが、若松監督の死から6年ぶりに再始動して製作した一作。1969年を時代背景に、何者かになることを夢みて若松プロダクションの門を叩いた少女・吉積めぐみの目を通し、若松孝二ら映画人たちが駆け抜けた時代や彼らの生き様を描いた。門脇むぎが主人公となる助監督の吉積めぐみを演じ、「実録・連合赤軍 あさま山荘への道程(みち)」「11・25自決の日 三島由紀夫と若者たち」など若松監督作に出演してきた井浦新が、若き日の若松孝二役を務めた。そのほか、山本浩司が演じる足立正生、岡部尚が演じる沖島勲など、若松プロのメンバーである実在の映画人たちが多数登場する。監督は若松プロ出身で、「孤狼の血」「サニー 32」など話題作を送り出している白石和彌。
若松孝二監督が代表を務めた若松プロダクションの黎明期を描いた映画「止められるか、俺たちを」の続編で、若松監督が名古屋に作ったミニシアター「シネマスコーレ」を舞台に描いた青春群像劇。 熱くなることがカッコ悪いと思われるようになった1980年代。ビデオの普及によって人々の映画館離れが進む中、若松孝二はそんな時代に逆行するように名古屋にミニシアター「シネマスコーレ」を立ち上げる。支配人に抜てきされたのは、結婚を機に東京の文芸坐を辞めて地元名古屋でビデオカメラのセールスマンをしていた木全純治で、木全は若松に振り回されながらも持ち前の明るさで経済的危機を乗り越えていく。そんなシネマスコーレには、金本法子、井上淳一ら映画に人生をジャックされた若者たちが吸い寄せられてくる。 前作に続いて井浦新が若松孝二を演じ、木全役を東出昌大、金本役を芋生悠、井上役を杉田雷麟が務める。前作で脚本を担当した井上淳一が監督・脚本を手がけ、自身の経験をもとに撮りあげた。
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