リアルかつ悪夢的なアメリカの崩壊像 野心作「CIVIL WAR」で描かれる“恐るべきシミュレーション”【ハリウッドコラムvol.354】
2024年6月19日 09:00
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ゴールデングローブ賞を運営するゴールデングローブ協会に所属する、米ロサンゼルス在住のフィルムメイカー/映画ジャーナリストの小西未来氏が、ハリウッドの最新情報をお届けします。
遅れ馳せながら、アレックス・ガーランド監督の最新作「CIVIL WAR(原題)」(日本公開は10月4日)を鑑賞した。
ガーランド監督といえば、人工知能に鋭く切り込んだ「エクス・マキナ」(2015)で監督デビューを飾っている。AIブームの今こそ、「エクス・マキナ」とスパイク・ジョーンズ監督の問題作「her 世界でひとつの彼女」(13)を改めて観るべきだと思う。
先見の明を持つガーランド監督が最新作「CIVIL WAR(原題)」で真正面から取り組んだのは、タイトル通り、アメリカの内戦(Civil War)だ。現在のアメリカでは政治的分断が修復不可能なレベルに達していて、内戦勃発のシナリオは絵空事ではなくなりつつある。トランプ政権時代には、イギリスのEU離脱「ブレグジット」になぞらえ、カリフォルニア州の分離独立を唱える「カレグジット」運動すら現れた。
19世紀のアメリカでは、北部と南部の対立が悲惨な内戦(1861-1865年)を招いた。それが現代に再び起きたら──。「CIVIL WAR(原題)」は、そんな恐るべきシミュレーションに挑んだ野心作だ。
舞台は近未来。専制的な大統領(ニック・オファーマン)が率いるアメリカ合衆国は、分離独立を果たした複数の州連合から総攻撃を受けている。なかでも最大の勢力を誇るのは、カリフォルニア州とテキサス州の連合体「ウエスタン・フォース」だ。ホワイトハウス陥落は時間の問題とされる。
だが本作の主人公は、政治家でも軍人でもない。戦場カメラマンを率いるジャーナリスト(キルステン・ダンスト)なのだ。彼女たちは大統領の独占インタビューを狙い、戦火をかいくぐってワシントンD.C.を目指す。いわば内戦ロードムービーである。
主人公を一般人に設定したのは賢明だった。武力も権力もない彼女たちが、ただカメラを片手に戦場を駆け抜ける姿は、観客の感情移入を誘う。ジャーナリストの視点で描くことで、壮大なセットも不要になる(とはいえクライマックスの大規模シーンは圧巻で、5000万ドルの製作費も納得だ)。
ガーランド監督と撮影監督のロブ・ハーディ(「ミッション:インポッシブル フォールアウト」)は、リアルかつ悪夢的なアメリカの崩壊像を描いていく。キャストの演技も素晴らしい。なかでもジェシー・プレモンスが演じる冷酷な民兵は秀逸だ。登場時間はわずかだが、強烈なインパクトを残す。「ブレイキング・バッド」といい、「ブラック・ミラー」の「宇宙船カリスター号」のエピソードといい、不気味なキャラを演じさせたら彼の右に出るものはいない。
「CIVIL WAR(原題)」はアメリカを舞台にしたディストピアもので、ガーランド監督はゾンビもエイリアンも出さずにスリリングに仕上げることに成功している。だが、アメリカの分断を題材にしながら、根本原因に切りこんでいない点が気になった。リベラル・保守双方の観客に配慮しすぎているのだ。ウエスタン・フォースを構成するのが、青い州のカリフォルニアと、赤い州のテキサスであるのがいい証拠だ(ぶっちゃけ、この二州が共闘するなど考えられない)。
そうした配慮のおかげで、「CIVIL WAR(原題)」は、米共和党支持者、米民主党支持者のどちらからも批判されず、結果的に米国国内で6000万ドル、世界総興収1億1400万ドルのヒットとなった。
個人的には内戦の原因が不明で、おまけに現実の対立軸が意図的に排除されているため、シミュレーションをみせられているような気がした。昨年大ヒットした「バービー」が保守的価値観に真っ向から挑んで社会現象になったことを考えれば、「CIVIL WAR(原題)」にもう一歩踏み込む勇気があれば、単なるアクションスリラー以上になっていたかもしれないと思えるのだが。
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