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田中泯、ドイツの芸術家アンゼルム・キーファーとヴェンダース監督との交流語る 共通点は「戦後ゼロ年」生まれ

2024年6月8日 16:30

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田中泯
田中泯

戦後ドイツ最大の芸術家、アンゼルム・キーファーのすべてをヴィム・ヴェンダース監督が描く「アンゼルム “傷ついた世界”の芸術家」のトークイベントが6月6日、ヒューマントラストシネマ渋谷であり、ダンサー・俳優の田中泯が両者との交流について語ったレポートが公開された。(聞き手:森直人/映画評論家)

田中は、ヴェンダース監督の「PERFECT DAYS」と、短編「Some Body Comes Into the Light」出演、また昨年6月、カンヌ国際映画祭出席後、フランスにあるキーファーのアトリエを訪ねた。キーファーは、田中のドキュメンタリー映画「名付けようのない踊り」(犬童一心監督)を鑑賞していたという。

「僕は30代初めから、ヨーロッパに行くようになって、ちょうど、キーファーとか、ボルタンスキーとか美術家たちがドンと出てきて、僕はキーファーにびっくりしたんですね。その時に直感なんですけども、自分に似てるんじゃないかと思ったんですよ。それで調べたら同じ歳で、しかも誕生日が2日違い」

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キーファーの誕生日は1945年3月8日、田中は3月10日、東京大空襲の日に生まれた。

「それで、アンゼルムに自分は東京の空襲の日に生まれたって言ったら、俺だってドイツの空襲の日に生まれたって(笑)。彼が産院の地下で生まれたらしいですけども、その日、彼の家は空襲で焼かれてなくなっていたと」

「周囲から戦争について、その当時の話を聞かされる訳ですよね。この間、山田洋次監督の映画に出してもらった時に、東京大空襲で川に飛び込んだ人の死体の数が最も多かった橋の上で芝居をやらせてもらったんですよ。偶然なんですけども。僕は1945年の生まれを『戦後ゼロ年』と言ってるんですけども、戦争は二人とも体験はしてないんです。ただ、戦争の真っ只中、戦争はまだ終わってなかったんですよ。終戦後のドイツの物凄さ、ひとづてに聞けば国民の半分は盗みを働いていたという言われるくらいに戦後のドイツは辛くて辛くて大変だった。僕が子供の頃は、戦後であるということがそこらじゅうで感じることができたんです。キーファーも一緒でそこら辺の話は彼としました」

そして、ヴェンダース監督の誕生日は1945年8月14日であり、同じく「戦後ゼロ年」生まれ。敗戦国に生まれた3人の大きな共通点となった。

「ヴェンダース監督については、30年以上前になるんですけども、僕がまだ映画なんか出てない時代に、彼がローマの美術館で講演をしていて、その時に少し話す機会があって、この人は繊細だって直感的に思いましたね。彼の映画に出る、最大のきっかけを作ったのはたぶん、ピナバウシュだと思います。僕はピナバウシュとは口論ばかりしてました(笑)。それが『田中泯、田中泯』って言ってたらしいです、本当かどうか分かりませんが。でも『PERFECT DAYS』を構想した当初から『田中泯は、まだ踊っているのか?』ってヴェンダース監督が言っているとプロデューサーに聞いて、会うことになったんです。「PERFECT DAYS」の撮影の最終日に車に乗って帰ろうとしたら、ヴェンダース監督が追いかけてきて、『泯、俺たち同い年だよね』って(笑)。彼は自分の誕生日は広島・長崎の原爆が投下されて、『世界中のニュースになっているときに俺は生まれたんだ』って。もちろん僕たちは何も覚えてませんよ。周りから聞かされた話から、自分が焼夷弾見たかのような気になってますから」

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映画「アンゼルム“傷ついた世界”の芸術家」について問われると、「キーファーは映画監督になりたかったらしいんですよ。それはヴェンダースもそんな話をしていて、相当の昔からキーファーとヴェンダースは、ずっと交流を続けていて、それがベースでこの映画ができたんだと思います」とコメント。

「この人は俺に近い人なんじゃないかと思ってしまったのは、そういう時代に生まれたことが特殊なことでは決してなくて、人間の歴史の中の、ある一コマな訳じゃないですか。でも繰り返し繰り返し人類は悲劇を創造している訳ですよね。それに対する『ムカムカ』って僕は言うんですけども、子供として大人に対して『ムカムカ』する。どんな瞬間でも大人が社会を動かしているんですね。だから大人っていうのはいつまで経っても良くないんですよ。体のどこか奥の方に『ムカムカ』したものを抱えている人っていうのは、“匂う”んですよね。そういう人たちほとんどが子供っぽいんです(笑)子供みたいに戯れあって、冗談を言える。キーファーって哲学者みたいな顔してるじゃないですか? でも、ものすごいダジャレ言いますよ(笑)。あと、めちゃめちゃ体が強いんですよ。一緒に山を歩くんですけど、キーファーは全然疲れない」

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そして、戦後ドイツのタブーとされている歴史をあえてモチーフにするキーファーの作風やアトリエについてこう述懐する。

「東京ドームの何十倍かな。そこに50いくつかの貯蔵庫というか、ガラスハウスっていうか……その中に巨大な絵があって見れるようになっていて、見上げるほどデカい絵がいっぱい。もう、巨大なミュージアムです」

「ドイツでは彼は裏切り者……戦後ドイツでは邪魔者扱いというか、バッシングされた時期もあって、映画でもそう言ってますよ。ヒトラーを忘れちゃダメだって、こういうパフォーマンスをするんですよね(右腕を掲げる)。その時は誤解を恐れずやるんですよ、写真に残して」

「一瞬なんですけども、(映画の中で)キーファーが斜めのワイヤーを綱渡りしてるんですよ。ひっかかるんですよね。なにか、エッジ(縁)をやっとこすっとこ歩いている感じがしないでもないな。ちょっとバランスを崩すと落ちる。バルジャックの彼の半数くらいの作品が見られるアトリエは、実は地下道で繋がっているんです。すごいです。最初は大型の重機で掘り始めるんだけども、途中から手掘りなんですよ。いまだに掘ってるんです。これをキーファーは『オーディトリアム』って言うんです。アンダーグラウンドです。要するに作品と作品の間を行き来する時に、サロンなんかを通るな、地下道を通れって、そう言うメッセージを受け取りました」と感想を語った。

映画は6月21日から、TOHOシネマズ日比谷ほか全国順次公開。

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