本作は、東直子氏の小説「とりつくしま」を原作に、娘である東かほりが脚本・監督し製作するという特別な映画。小説「とりつくしま」は、すでに失われた人生のかけがえのない記憶がよみがえり、切なさと温かさと哀しみ、そして少しのおかしみが滲み出る11篇の短篇集。海外も含めファンも多く、シネマプロジェクト作品として映画化を発表した際には多くの反響があった。
人生が終わってしまった人々の前に現れる“とりつくしま係”は、「この世に未練はありませんか。あるなら、なにかモノになって戻ることができますよ」と告げる。夫のお気に入りのマグカップになることにした妻、だいすきな青いジャングルジムになった男の子、孫にあげたカメラになった祖母、ピッチャーの息子を見守るため、野球の試合で使うロージンになった母。人生のほんとうの最後に、モノとなって大切な人の側で過ごす時間が描かれる。
ENBUゼミナール「シネマプロジェクト」は、上田慎一郎監督「カメラを止めるな!」をはじめ、今泉力哉監督作「退屈な日々にさようならを」、外山文治監督作「茶飲友達」など、ワークショップからキャスティングされた俳優たちと共に、商業映画とは一線を画す映画を世に送り出してきた。本作のワークショップには応募総数399名の中から選ばれた71名のキャストが参加。そこから橋本つむぎ、櫛島想史、小川未祐、磯西真喜、安宅陽子、志村魁など23名が出演となった。そして、小説で重要な役割となる「とりつくしま係」として、小説のファンである小泉が演じている。
コメントは以下の通り。
子供の頃、モノにぶつかったら10秒数を数えなくてはいけなというルールを自分でつくっていました。ゴミ箱や、文房具にも言葉をかけてみたり、なんとなく見守られているような気持ちがありました。亡くなったあと、モノにとりつくということは、非現実のようで日常にあるあたりまえのことなのかもしれません。
母がこの小説を書いていた頃、わたしは長すぎる反抗期中で、会話をすることを避けていました。この「
とりつくしま」を読むと、その頃の母と会話しているような気持ちになります。
撮影前、印刷された脚本を母に渡すと、こんな日がくるなんて、と言いながら脚本を抱きしめていました。その姿がこころに残っています。
だれかの大切な人や、わすれられない記憶に寄り添うような作品になれていたらうれしいです。
たくさんの方に観ていただけますように。
「
とりつくしま」って「とりつくしまがない」という一文でしか使わない不思議な言葉だと思っていました。なぜ「とりつくしまがある」と言わないのだろう。亡くなった人がとりつく物が「
とりつくしま」だとしたら? と、あるとき想像しました。
自分で希望した愛着のある物から見える世界は、愛情を感じている人のそばにあるのだと書いているうちに気づきました。結果的に生きることを見つめ直す物語になった気がします。長い時間をかけて多くの方に愛されたこの物語が、私が産み、育てた娘、
東かほりを通して映画化されることになりました。この上なく幸せです。
このプロジェクトのワークショップに少し顔を出させていただき、参加した役者さんたちの「
とりつくしま」をお聞きする機会がありました。それぞれユニークであたたかい、素敵な「
とりつくしま」ばかりで感激しました。此岸彼岸を超えて、たくさんの魂が往還する映画ができるのだな、と胸を熱くしています。
若い人たちの才能、新しい人たちの才能を育てる。
その門を開いているENBUゼミナールには以前から興味があり、ENBUシネマプロジェクト第11弾、
東かほり監督「
とりつくしま」に参加させて頂きました。
原作者の
東直子さんとは以前に対談をさせて頂いたこともあり、小説を読んでいました。まさかあの役を私が演じることができるなんて!しかも、小説が伝えたいものを心から理解しているであろう
東かほりさんが監督だなんて!参加するしか選択肢はありませんでした。
私以外のキャストの多くはオーディションで選ばれた俳優が演じています。
撮影現場では、それぞれの役にぴったりな雰囲気、声、容姿で「その役」である時間を噛み締めるように「その役」として生きている姿が印象的でした。
すごく当たり前のことのようだけど、とても素敵なことだと思います。
このピュアな映画を応援してください。私も応援します。
【カモシタサラ(インナージャーニーVo&Gt/主題歌「陽だまりの夢」作詞・作曲)】
死んだらどこにいくのかな、とずっと昔から考えていました。
今までの感情や記憶は無かったことになって忘れ去られてしまうのか、残されたほうはもっと一緒にいればよかった、という後悔のようなものが押し寄せるかもしれない。
けれど“
とりつくしま”は、こちら側とあちら側の架け橋となり、かたちを変えて大切な人のそばにいたり、最後のお別れをするためにあるように感じて、少し気持ちを楽にさせてくれました。
昔からずっと感じていた死に対するぼんやりとした不安も、この映画が助けてくれたように思います。
そんな解釈を通して、温かくてやわらかい気持ちで幕を閉じられるようにと今回主題歌を書き下ろしさせていただきました。
自分の感情のとても近い部分にある映画に携わることができて嬉しいです。
どうかたくさんの人に届きますように。