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【「落下の解剖学」評論】一度は愛し合った夫婦の「転落」が、スリル以上に痛みを観る者に共有させる

2024年2月25日 08:30

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「落下の解剖学」
「落下の解剖学」
(C)LESFILMSPELLEAS_LESFILMSDEPIERRE

昨年カンヌ国際映画祭でパルムドールに輝き、フランス国内で154万人を動員、さらにアカデミー賞でも5部門にノミネートされた本作は、「サスペンススリラー」というジャンルに括ってしまうのは勿体ないほど、人間の深層心理に迫った作品だ。現在フランスの女性監督を代表するジュスティーヌ・トリエと、彼女のパートナーで、「ONODA 一万夜を越えて」の監督でもあるアルチュール・アラリが、共同で脚本を執筆している。

冒頭、テニスボールが階段の上からゆっくり落ちて来る。謎めいて象徴的な幕開けが、さっそく不穏な雰囲気をもたらす。そう、本作ではさまざまな「転落」がテーマになっているのだ。人里離れた山荘で、視覚障害のある11歳の息子が、父親が死んでいるのを発見する。一見バルコニーからの転落死だが、外傷に不審な点があり、自室で昼寝をしていたという妻に容疑がかけられる。真相は事故か自殺か、あるいは事故死を装った妻による計画殺人なのか。

トリエ監督によれば、編集にたっぷり10カ月を要したそうだが、裁判が進むにつれ、他人には窺い知れなかった夫婦の関係が明らかになっていく構成が上手い。事件前夜、ふたりは激しい言い合いをおこしていたことが、検察側の入手した音声テープから明らかとなり、おしどり夫婦像もまた地に堕ちる。

さらに本作がことさら現代的と感じさせる点は、夫よりも妻の方が人生に成功し、パワーがあるという設定だ。作家として成功した妻に引き換え、夫は仕事で挫折を味わっている。その苦悩を、「お前に人生を奪われた」と妻のせいにし、彼女は「自分で選んだ人生に文句ばかり。あなたは被害者じゃない」と跳ね返す。一度は愛し合ったはずの夫婦像に、トリエ監督は容赦なくメスを入れ、「解剖」していく。その過程はたんなるスリルを超えて、観る者に痛みを共有させる。夫婦のどちらに共感するにせよ、これはどんなカップルにとっても起こり得る問題だと感じさせるからだ。そこに本作の深さがある。

アカデミー賞女優賞の有力候補のひとりであるザンドラ・ヒュラー(「ありがとう、トニ・エルドマン」)が、愛が枯れた女の冷ややかさを的確に表現し、観る者を一層疑惑のなかに突き落とす。

(佐藤久理子)

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