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高橋幸宏さん一夜限りのライブを超高音質上映 飯尾芳史氏が語るユキヒロさんとの思い出、ミキシングのこだわり

2024年1月18日 18:00

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高橋幸宏さんのライブが超高音質上映でよみがえる
高橋幸宏さんのライブが超高音質上映でよみがえる

坂本龍一さんが音響監修を務めた映画館、109シネマズプレミアム新宿で、2018年に開催された高橋幸宏さんの一夜限りのライブ映像「YUKIHIRO TAKAHASHI LIVE 2018 SARAVAH SARAVAH!」が、1月19日から1月28日の10日間限定で「SAION Super Real Effects」使用の超高音質で上映される。

本作でミキシングを担当、YMOをはじめ、数多くのアーティストのレコーディングに多数携わり、今回の上映に際し特別監修を行ったエンジニア/プロデューサーの飯尾芳史氏に話を聞いた。

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YUKIHIRO TAKAHASHI LIVE 2018 SARAVAH SARAVAH!」は、1978年にリリースした高橋さんのソロデビューアルバム「SARAVAH!」を完全再現したもの。当時のアーティスト表記、高橋ユキヒロ名義(高ははしごだか)で公演され、オリジナル盤のレコーディングに参加した林立夫氏をはじめ、佐橋佳幸氏、Dr.kyOnら11人のミュージシャンがユキヒロの「原点」を再現する。また「SARAVAH!」のプロデュースをともに行った坂本龍一さんもビデオ・コメントでレコーディング当時のエピソードを語るほか、スペシャル・ゲストとして細野晴臣氏も登場。珠玉のセッションが極上の音響で蘇る。


特別監修を行ったエンジニア/プロデューサーの飯尾芳史氏
特別監修を行ったエンジニア/プロデューサーの飯尾芳史氏
――高橋幸宏さんのライブ「YUKIHIRO TAKAHASHI LIVE 2018 SARAVAH SARAVAH!」を坂本龍一さんが音響監修した映画館で上映することについて。
飯尾:今回、「YUKIHIRO TAKAHASHI LIVE 2018 SARAVAH SARAVAH!」を上映するにあたって、事前に教授(坂本龍一さん)の「Ryuichi Sakamoto: Playing the Piano 2022+」を拝見して、もう素晴らしくて……ポンと1音弾いただけで、教授がそこで弾いているようなイメージが沸き上がって。さすが、教授が音響監修をした映画館だと思いました。ですから、ユキヒロさんの音楽もぜひここで聴いてみたいと思いました。

今回こちらで実際の上映を見て、音はもちろん素晴らしかったのですが、まずはユキヒロさんとのいろんなことを思い出して胸がいっぱいになりました。この映画館は定位(楽器の場所)がいいんです。歌の場所が動いたり、ギターは誰がどこで弾いているか、などそれぞれ意図してミックスしたことが、ここではすべて忠実に聴こえます。

製品としてのライブ音源は、すでに臨場感を含めて作っていますので、一般的な劇場やコンサートホールで流すと、どうしても残響が長くなってしまうのですが、ここではバシッと決まって聴こえます。また、音を左右に動かすのは簡単ですが、上下に聴こえるようにするのはとても難しいんです。上下は低音と高音のバランスなので、並大抵のチューニングでは上手く再生されません。ここではそれが見事に再生されているのが素晴らしいのです。普段自分が使っているスピーカーではできないことができていて、もう一度ミックスをやり直してみたいほどです。

従来の2チャンネルステレオ信号を、原音を残したまま立体的超リアルに再生するプロセッシングシステム「SAION Super Real Effects(SSRE)」(右図)
従来の2チャンネルステレオ信号を、原音を残したまま立体的超リアルに再生するプロセッシングシステム「SAION Super Real Effects(SSRE)」(右図)
――40年以上も時間を共にした、高橋幸宏さんとのエピソードを聞かせてください。

僕にとっては、最後まで本当に優しいお兄さんのような存在でした。怒られたこともありませんでしたし、細かなことまで面倒を見てくださって、悩んでいることや、どうしてみようか……と今一つ踏ん切りがつかないときにいつも背中を押してもらえました。

学生時代「サディスティック・ミカ・バンド」が大好きで、その時に僕が思い描いていた高橋幸宏という人の像と、初めてお会いしたときのYMOの頃は、ちょっとイメージが違ったんです。思い返すと、実はYMOが特殊だったのですが(笑)。その後お付き合いをすると、本当に最初のイメージと変わらなくて。音楽をこんなに楽しく、ずっとやりたいことをやり続けていいんだな、と本当に励まされました。

僕は1979年にレコード会社に入って、YMOのアシスタントになってからユキヒロさんと40数年過ごしました。83年に会社を辞めているのですが、それはユキヒロさんがイギリスの音楽に大きな影響を受け、あれだけのことをやってらしたのに、僕は日光より北に行ったことがなくて(笑)。そこで、ロンドンに行かなければ絶対に後悔するだろうなという気持ちになったんです。そうしたら、ユキヒロさんが「行っておいで!」って、ポンと背中を押してくださって。そして、帰国後フリーランスになってから、ユキヒロさんが細野さんと一緒にやられていた事務所に誘っていただいて。(イギリスのバンド)「JAPAN」のメンバーと仲良くなれたり、僕自身の結婚など、本当に公私ともに様々なきっかけやアドバイスをくださいました。

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僕は主にレコーディングエンジニアという仕事をやっていますが、近年は女優ののんさんのファーストアルバムのプロデュース、アレンジを担いました。矢野顕子さんが作詞作曲をしてくださった「わたしはベイベー」という曲があるのですが、当初、誰にアレンジを担当していただこうか悩んでいたら、ユキヒロさんが「飯尾君がやればいいじゃん」と言ってくださって。僕がやっていいのかなあ……と迷いつつ、「ユキヒロさんドラム叩いてくれますか?」と聞いたら「やるやる!」って。そして「ベースは小原礼さんに頼もうよ」など、トントンと話が進みました。

一番感謝しているのは、YMOが大ヒットして、たくさんの取材を受ける中で、ユキヒロさんは必ず僕の名前を出してくださるんです。僕がどんな仕事をしているかも話してくれました。僕の仕事が軌道に乗れたのは間違いなくユキヒロさんのおかげです。

――「YUKIHIRO TAKAHASHI LIVE 2018 SARAVAH SARAVAH!」はライブ映像ですが、鑑賞後に上質なヨーロッパの劇映画を1本見終わったかのような味わい深い余韻が残ります。「SARAVAH SARAVAH!」で飯尾さんがエンジニアとしてこだわったことを教えてください。

1978年にリリースされた「SARAVAH!」が、ユキヒロさんの初めてのソロアルバムで、ジャケットにはエッフェル塔が写っていて、パリそのものの雰囲気です。ユキヒロさんは1970年代前半から、毎年パリコレに行っていたんです。当時は今より渡航費用も高いし、誰もが簡単にフランスにいける時代ではなかった、そんな時代に、毎年フランスに行って、その文化を肌で感じ、(映画「男と女」の楽曲を担当した)ピエール・バルーを知り、影響を受けて作ったアルバムです。ユキヒロさんの音楽は、まず世界観が重要で、そのバックボーンからどうやってその世界に至るかを僕たちは理解するのに努める……という感じでしたが、このアルバムはとても分かりやすいです。

関係者とともに劇場での音をチェックする飯尾氏
関係者とともに劇場での音をチェックする飯尾氏

「SARAVAH!」から40周年の2018年に、当時の演奏パートをそのまま使用し、ユキヒロさんがボーカルパートのみ歌いなおして、新たに録音したアルバムが「SARAVAH SARAVAH!」です。ライブのMCでは「26歳の自分とお別れした」と言っていました。「SARAVAH!」当時の僕は高校生で、繰り返し聞いていたんです。そして「SARAVAH SARAVAH!」を自分の好きなようにミックスできることは夢のようでもあり、また同時に、その世界観を壊さないようにすることに気を配りました。

「ボーラーレ」や「セ・シ・ボン」など、カバー曲もあって、ヨーロッパ映画音楽のようなイメージのアルバムですよね。アレンジは全曲坂本龍一さん。ユキヒロさんが歌いなおしをしたときに、教授に連絡して、「歌いなおしてみたら、あの曲のあそこのコードはこうだったんだね!」のような話をされていて、とても嬉しそうでした。

2018年の高橋幸宏が再び「SARAVAH!」を歌うこと、それはユキヒロさんの歌がうまいとかどうとか、そういったことではなく、ユキヒロさんの思いがさらに歌に込められていること、それを忠実に守り、よりそこにスポットを当てることができたアルバムだと思います。

――今回、最高の音質で上映される「YUKIHIRO TAKAHASHI LIVE 2018 SARAVAH SARAVAH!」、どこに注目してほしいですか?

とにかくプレイヤーの再現度の高さです。当時の演奏のムードを壊さず、ビルドアップしている感じで再現できていることを映像で追えるので、なんだかタイムスリップしたような気分を味わえると思います。林立夫さんも映りますし、最後に細野晴臣さんが登場する場面は感無量でしょう。

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――高橋幸宏さんは、天才的なドラマーであり、名曲「ライディーン」を作曲、YMOのメンバーとしての顔が広く知られていますが、独自の感性で切り開かれたソロ活動を知らない若い世代などにはどんなアーティストだと伝えたいですか?

ファッションとしての音楽の最先端を行っていた人でした。かっこいいこと以外を考えていなかったと思うんです。「おしゃれは我慢」という言葉がありますが、その「おしゃれは我慢」を率先してやり続けていました。特にソロ活動の作品を聴いて、見ていただくと、そういう人が音楽をやるということは、こういうことなのだとわかると思います。ご自身でアパレルブランドも持っていましたし、ずっとファッションを気にかけていたので、そこから生まれるユキヒロさんの計り知れない音楽の世界を理解していただけると思います。


今月1周忌を迎えた高橋幸宏さんとの思い出から、その音楽からにじみ出るセンス、繊細で穏やかな人柄をうれしそうに語ってくれた飯尾氏。高橋さん、YMOファンはもちろんのこと、映画ファンも心を揺さぶられる音楽体験ができる、貴重な上映と空間をぜひ楽しんでほしい。

今回の上映では、高橋幸宏さんが居を構えた軽井沢での日々を追ったショートムービーが併映されるほか、高橋さんが中学生時代に18回も映画館に通い影響を受けたと公言するフランス映画「男と女」(クロード・ルルーシュ監督)も期間限定(1月19日~2月1日)で上映される。

「男と女」
「男と女」
(C)1966 Les Films 13

スーベニアショップ「POST CREDIT」では、本作の公開に合わせた期間限定のPOP-UP STOREとして、YOHJI YAMAMOTO社とのコラボ Tシャツや、撮り下ろしのポストカードブックなど、オリジナルデザインによる各種グッズが販売され、高橋幸宏の世界に浸れる特別な10日間が展開される。オンラインチケットは、109シネマズプレミアム新宿公式ホームぺージ(https://109cinemas.net/premiumshinjuku/)で販売中。

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執筆者紹介

松村果奈 (まつむらかな)

映画.com編集部員。2011年入社。


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