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高級娼館での出来事を映画化「ラ・メゾン」監督、主演アナ・ジラルドインタビュー「女性は自分で自分の人生を選ぶ自由がある」

2023年12月28日 21:00

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主演のアナ・ジラルド(左)とアニッサ・ボンヌフォン監督
主演のアナ・ジラルド(左)とアニッサ・ボンヌフォン監督

作家であることを隠して高級娼館に潜入したエマ・ベッケルが、その体験をもとに自身と女性たちのリアルな姿を描き、フランスで賛否両論を巻き起こしたベストセラー小説を映画化した「ラ・メゾン 小説家と娼婦」が公開となる。

センセーショナルなテーマで、女性の欲望と自由、そして女性であるからこそ被る危険性も描いたアニッサ・ボンヌフォン監督と主演のアナ・ジラルドが来日し、作品を語った。

<あらすじ>
フランスからベルリンに移り住んだ27歳の作家エマ。娼婦たちの裏側に興味を抱いた彼女はその実情を理解するべく、高級娼館「ラ・メゾン」に娼婦として潜入する。一緒に働くことで顕になる女性たちの本音や、そこで繰り広げられる刺激的な出来事を、包み隠さずノートにつづっていくエマ。新たな発見に満ちた日々を送るうちに、当初は2週間だったはずが、いつしか2年もの月日が流れていく。
画像4(C)RADAR FILMS - REZO PRODUCTIONS - UMEDIA - CARL HIRSCHMANN - STELLA MARIS PICTURES
――特に女性は知ることのできない、娼館内部での出来事に衝撃を受けました。私(インタビュアー)は、直近でアナさんが、恋愛に臆病な主人公を演じるセドリック・クラピッシュ監督の「パリのどこかで、あなたと」(19)を見ていたので、今回、全く異なるタイプの女性を演じていることに驚きました。
アナ・ジラルド(以下アナ):確かにこれまでの作品で演じたキャラクターとは全然違いますね。ですから、アニッサ(・ボンヌフォン監督)に会った時、シナリオはとっても気に入っていましたし、エマの経験に共感していましたが、私はこの役を演じるのがちょっと怖いんですと正直に言いました。

そして私の女優のキャリアとしても、大きな転換期になると思いました。実はフランス映画界は役柄をカテゴライズされることが多いんです。一旦○○タイプの女優だと認識されたら、そのイメージを崩すのはとても難しいのです。そんな恐怖も乗り越えて、今回エマという役に臨みました。私一人が準備をするというより、アニッサとの共同作業でした。

画像2
――この役を演じてみたい、と強く思われた理由は何だったのでしょう?
アナ:この作品は、女性が多面的であることを称賛していると思ったんです。そういう役柄を演じるのは、女優としても女性としても探究しがいがあります。この作品の中で起こるようなことを演じることは、もちろん恐怖もありましたが、同時に電気ショックにあったような衝撃も得られました。

そして、この作品をやりたいと強く思ったのは、女性のアニッサが監督だったからです。彼女が本当に私を支えてくれたのです。もし監督が男性だったら、きっと私は挑戦していなかったと思います。

――監督にお伺いします。今、この時代に、このタイミングで映画化しようと思われたきっかけ、原作者のエマ・ベッケルさんとのつながりについて教えてください。
アニッサ・ボンヌフォン監督(以下ボンヌフォン監督):作者のエマ・ベッケルが、女性の性的な欲望を否定するのではなく、それを持って生きると書いたその勇気に、私は感動したんです。彼女が映画化の権利を渡してくれたので、私もベルリンに行って、実際に彼女が働いていた娼館、そしてエマの自宅にも行きました。そこには娼館から持ち帰ってきた沢山のオブジェが飾ってあったり、客からの手紙が残されていて、そういったものからも彼女の経験を一つの物語として、私は実際に見ることができたんです。

シナリオの第一稿はかなり原作に近かったのでエマには気に入ってもらえました。でも、私は自分で監督するからには、自分のものにしようと内容を書き換えていきました。そこで、作者であるエマの物語とは違いが出てしまったので、私たちの関係もやや疎遠になってしまったんです。しかし、彼女の作品が出るたびに私はずっと読者でいます。

画像5(C)RADAR FILMS - REZO PRODUCTIONS - UMEDIA - CARL HIRSCHMANN - STELLA MARIS PICTURES
――ベルリンでの娼館取材はどのように行われたのですか?
ボンヌフォン監督:ベルリンで私が取材したのは、エマが働いていた1館だけです。客として行きました。私が知りたかったのは、簡単に入館できるものなのか? 脚本を書く上で必要だったんです。サービスは受けずに帰りましたが。

その後は、今度はパリで自分の意志でこの職業を選んだというセックスワーカーの女性たちから話を聞きました。事情があって選択した、ということではない女性たちの話を聞けたことがとても重要で、その証言こそが、エマの行動の解明になると思ったのです。もちろんエマは作家です。しかしセックスワーカーの方々は、本職としてその世界に入っていくわけですから、そのモチベーションを知りたかったのです。

あとはSMの世界の人に話を聞くことも必要でした。私はもともとドキュメンタリー監督からキャリアはじめているので、リサーチのプロセスを大事にしています。

――偶然だと思いますが、今年のベネチア映画祭で金獅子賞を受賞した「哀れなるものたち」(ヨルゴス・ランティモス監督)も、女性の欲望を肯定し、自分の意志で性的関係を結ぶ対象を選んだり、娼館で働くというヒロインを描きます。とても現代的なテーマと言えますね。
ボンヌフォン監督:(取材時時点で)「哀れなるものたち」は、まだフランスで公開されていないのですが、今、女性には自分で自分の人生を選ぶ自由があることを明確に自覚していると思います。セクシュアリティに関しては男性主導、男性目線で男性がカメラを回す作品は普通に存在します。それを見て、女性が私たちの視線で描きたいと思うのは自然なことです。男性に選ばせるのではなく、自分で人生を選びたい、という欲求です。また、今まで男性に占有されていた、自分のセクシュアリティ、性的嗜好はこうなんだ、と口にする自由を女性が取り戻しているのではないでしょうか。
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――去年のベネチアの最高賞は、フランスの女性監督オドレイ・ディワンが中絶の問題を扱った「あのこと」で、彼女は今度「エマニエル夫人」をリメイクするそうですね。また、ボーヴォワール、シモーヌ・ヴェイユを輩出した国でもありますし、特にフランスの女性はフェミニズムに対して先鋭的であり、先導している印象を受けます。その理由はやはり教育にあるのでしょうか?
ボンヌフォン監督:フランスの歴史にあると思います。選挙権を要求し、フランス革命の際にギロチンにかけられたオランプ・ド・グージュがいます。彼女の存在もありますし、ボーヴォワールやシモーヌ・ヴェイユら、女性の権利を勝ち取るために戦った女性が多くいます。それは表現の自由であったり、国民として市民として生きる権利の主張でした。現代は男性と女性の平等性を女性が意識するようになっていると思います。
――そんなお話もあるなかで、あなたのこの映画の中で、ベルリンの娼館でエマがフランス人女性だから、男性の欲望をかきたてる――という旨のセリフがありました。そういう幻想のようなものをヨーロッパの男性は抱いているのですか?

ええ、確かに(笑)。フランス女性に対する一つの神話みたいなものが存在すると思います。おそらく、フランス人女性は性の自由を謳歌しているようなイメージがあるのでしょう。でもそれがすべての女性に当てはまるのかは疑問ではあります。実際、私はアメリカで暮らしたことがあり、世界中を旅していますが、確かにフランス人女性は性的に自由だという目で見られている実感がありました。でも、おそらくそれは、さっき申し上げた女性の権利を勝ち取るために戦った女性たちが、強い個性を持っているから。生理的な欲求も隠さず、権利として主張する――そういうイメージとつながっているのだと思います。

画像6(C)RADAR FILMS - REZO PRODUCTIONS - UMEDIA - CARL HIRSCHMANN - STELLA MARIS PICTURES

どちらかというと、娼婦は男性に消費される存在ですが、原作者のエマの場合は違います。作家なので、経済的に自立し自分の取材のためにセックスを提供し、その代償としてお金をもらって小説を書くことができる。ベッドの中で男性に従属する女性ではなく、男性を利用する、そういうロジックなのです。それはすべての人が理解できることではありませんが、私は彼女が、この娼館での潜入取材から芸術的な作品を作るのだ、という意志を強く感じたのです。

――アナさんに伺います。娼館でサービスを提供するのは、主に男性に向けてです。サービス提供者として魅力的に見せるために、フィジカルな面なども含めての役作りについて教えてください。
アナ:(パリでヌードショーが行われる老舗キャバレー)クレイジーホースのダンサーに取材し、自分のフェミニティを自覚し、そこに責任を持つことで生まれるパワーがあると学びました。今回学んだのは、男性へのまなざしです。彼らを捉えて離さないような視線を身につけようと思いました。そこから女性の優位性が生まれるのです。ですから、目力、そしてアイメイクにこだわりました。あとは、なるべく鏡を見ないようにしていました。見てしまうと身体的なことが気になってしまうから。恐怖感を拭い去ることを心がけました。
画像7(C)RADAR FILMS - REZO PRODUCTIONS - UMEDIA - CARL HIRSCHMANN - STELLA MARIS PICTURES
――現在、経済的な事情で日本では売春をする若い女性が増えており、この取材が行われている新宿では、社会問題になっているほどです。最も古い商売でもありますが、実際のところ、フランスではどのように捉えられていますか。
ボンヌフォン監督:フランスでは買春の方が罪を問われるので、偽善がまかり通っています。そういうことは存在するにもかかわらず、娼館や売春は禁止されています。ですからエマ・ベッケルはベルリンに行ったのです。でも、実際にはフランスにも存在していて、売る側の年齢層が低下し、SNSを通して学生も行っています。しかし、そのことについて政治もメディアも話さず、社会問題ですが隠蔽されています。

コロナ禍の影響で、寝るところもないほど困窮した女性が売春を始めることはフランスでもあります。そのような事実に日が当たらないからこそ、セックスワーカーにも権利があり、社会的保護が必要であることを私たちは訴えていきたいです。

ラ・メゾン 小説家と娼婦」は12月29日から公開。


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