【「ウィッシュ」評論】願うこと”の素晴らしさにスポットを当てたドラマティックな躍動
2023年12月16日 14:00

ウォルト・ディズニーが兄のロイと共に自らのスタジオを創設してから100年が経つ。この記念すべき年にふさわしい映画とは何か。作り手たちがその最適解にたどり着くまではきっと試行錯誤の連続だったはず。
もしかすると、過去のディズニーアニメの主人公が一挙集結するような長編企画もありえたのかもしれないが、結果的に彼らは、ただオマージュを捧げるのでなく新たな物語を切り開くことを選択する。あらゆるディズニー作品に共通する「願い」という要素にスポットを当て、あくまで伝統的なフェアリーテイルの形式に則ったオリジナルの一作を創り出そうというのである。
舞台はどんな願いも叶う王国ロサス。ここでは18歳になると自分の夢や願いを王へ託し、王がその中から毎年一つだけを選び、叶えてくれるという。だがある日、17歳の少女アーシャは重大な秘密を知る。それは王が、国や自らの地位に影響を及ぼさない、無難で都合の良い夢ばかりを選んで叶えているという由々しき実態だった……。
どこか懐かしさを覚える美しいクラシックな絵づくりの中を、多感で優しい心を持ったアーシャが思いきり躍動する。彼女が全身全霊で思い悩むのは「願いはどうあるべきものか」という命題だ。
彼女はやがて立ち上がろうと決意する。たった一人でも、たとえ相手が王であったとしても、間違ったことにははっきりとNOを突きつけねば。そういった信念を劇中歌「ウィッシュ この願い」に込めるシーンは、スクリーンの疾走感に伸びゆく歌声が重なり合い、ダイナミックな映像体験となって我々の胸を奮い立たせてやまない。
そこからはアーシャの決心を祝福するかのように、お星さまは無邪気に舞い降り、くるくる跳ね回り、動物たちは人間の言葉を話し、思いを分かち合う仲間も増えはじめる。つまり彼女の素朴な気づきは願いになって、決意になって、行動になって、周囲にマジカルな変化を及ぼしていくのである。
“願い”とは人間が生きる上での原動力。叶う、叶わないが重要なのではなく、人は胸に願いを抱くだけで、大きな輝きや力を身にまとうことができる――。本作はタイトル同様、ごくシンプルな物語だ。でもだからこそしなやかさと力強さがある。言うなれば、ディズニーの主人公たちが体現してきた”願うこと”の素晴らしさを次の時代へと繋ぐ、思いのバトンのような映画なのだ。(牛津厚信)
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