【「エクソシスト 信じる者」評論】ホラーの金字塔、意表を突いた展開の“3番目の続編”は“信仰”がメインテーマ
2023年12月2日 22:30
くしくも今年8月に他界したウィリアム・フリードキン監督がホラー映画史上に金字塔を打ち立てた「エクソシスト」(1973)は、前日譚ものやTVシリーズを除くと、過去に2本の続編が作られている。ジョン・ブアマン監督の特異な作風が際立つ「エクソシスト2」(1977)は、絶賛派と否定派のまっぷたつに割れる結果に。原作者ウィリアム・ピーター・ブラッティが自らメガホンを執った「エクソシスト3」(1990)も、サイコ・スリラーや刑事ドラマの要素を取り入れた異色の内容だが、続編にふさわしい人物配置と傑出した恐怖描写ゆえに筆者はこちらを傑作と認定している。
「エクソシスト 信じる者」は上記の2作品をスルーして、オリジナル版から半世紀後の出来事を描く新たな続編だ。シングルファーザーである写真家ヴィクターの娘アンジェラとその親友キャサリンが、放課後に謎の失踪を遂げ、3日後に森で保護される。やがて2人の少女は常軌を逸した言動を繰り返し、ヴィクターは50年前に娘が悪魔に憑依された経験を持つクリス・マクニールに助けを求める。
子役の演技に視覚効果、特殊メイクを駆使したショック描写のインパクトは上々だが、悪魔憑きホラーを見慣れた人にとっては想定の範囲内。驚くべきは中盤以降のストーリー展開だ。オリジナル版では人間の心の弱さを象徴したカラス(ジェイソン・ミラー)、ただならぬ威厳を漂わせたメリン(マックス・フォン・シドー)という2人の神父が悪魔に立ち向かった。はたして今回はどんなスゴ腕の神父が登場するのか……と思いきや、悪魔祓い儀式の申請を受けたカトリック教会の結論は何と不許可!
まるでヒーローが途中退場してしまったアクション映画のように、主役のエクソシスト不在のままクライマックスに突き進む本作は、元修道女見習いの中年女性、バプテスト派の牧師、ブードゥーの祈祷師らの混成チームが、力を合わせて強大な悪魔との闘いに挑んでいく。さらにデビッド・ゴードン・グリーン監督は、コミュニティーの団結という「ハロウィン KILLS」(2021)を彷彿とさせるテーマを追求。この意表を突いたアプローチは、大いに賛否が分かれそうなポイントだ。
その半面、宗教色の濃いドラマのパートは興味深い。新婚旅行先のハイチで妻を亡くしたヴィクターは、その理不尽な悲劇によって神への信仰を捨てた人物だ。また、90歳のエレン・バースティンが再演したクリスは、女優を引退して悪魔憑きに関する啓蒙活動を行っているという設定で、生き別れた愛娘リーガンとの再会の日が来ることを“信じて”生きている。まさしく本作のメインテーマは、サブタイトルの「信じる者」が指し示す“信仰”なのである。
加えて、劇中には物語の流れとは関係なく、秋めいた郊外の住宅地を点描した風景ショットが随所にちりばめられている。「悪魔はいつもそこにいる」と無言で語りかけてくるかのようなこの演出も、オリジナル版へのさりげないオマージュだろう。
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