【インタビュー】脚本家・坂元裕二が語るNetflixとのタッグ、世界配信の意義「希望を感じますし、未来も感じています」

2023年11月15日 17:00


脚本家の坂元裕二
脚本家の坂元裕二

「連続ドラマでも映画でもいつもそうなのですが、どう思われるのかなっていう不安ばかりです」。そう話すのは、人気脚本家の坂元裕二。Netflixでの第1弾作品「クレイジークルーズ」の配信を前にどんな心境なのかを聞くと、苦笑しながら返ってきた言葉だ。

世界各国でリメイクされ世界的ヒットとなった「Mother」(10)、「最高の離婚」(13)、「カルテット」(17)、「大豆田とわ子と三人の元夫」(21)など数々の人気ドラマの脚本を手掛けてきたほか、今年は映画「怪物」で第76回カンヌ国際映画祭にて日本映画では史上2度目となる脚本賞を受賞している。そんな坂元でも、作品がどう受け取られるのか常に不安を抱えているという。自虐的に笑いながら明かした“不安”。その真意は――?(取材・文/編集部)

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【「クレイジークルーズ」概要・あらすじ】

豪華客船を舞台に、吉沢亮宮崎あおい(※崎はたつさきが正式表記)の主演で描くミステリー&ロマンティックコメディ。監督はドラマ「大豆田とわ子と三人の元夫」で坂元とタッグを組んだ瀧悠輔

冲方優(吉沢)がバトラーとして働く豪華クルーズ船・MSCベリッシマが47日間に及ぶエーゲ海ツアーのため横浜から出航する。そして、その船内には切羽詰まった様子で乗り込んできた盤若千弦(宮崎)という女性がいた。盤若は冲方の前に現れると、お互いの恋人が密会していることを告げる。自分たちの不幸な境遇を嘆き合っていた冲方と盤若は、船内のプールで起こった殺人事件を目撃してしまう。それぞれの交際相手から「なかったこと」にされてしまった2人は、目の前で起こった事件を「なかったこと」にさせないため、独自に調査を開始する。


■台湾でファンの発言に驚き「自分の作品は日本でしか受けないだろうと思っていた」

――配信プラットフォームとしてのNetflixには、どのような印象をお持ちでしたか。

日本に入ってきてすぐに視聴の契約をしましたし、連続ドラマを毎週ちょっとずつではなく、一気に配信するという方式がいまだに不思議ですが、新しいなと思っていました。世界的に見ても、作り手が人間関係を中心に描くドラマを作っていける場がなかなかないなかで、Netflixはそれをやり続けてくれるので、いつも楽しみに見ています。

――Netflixではどの作品が好きですか?

Netflixで一番好きなのは「マスター・オブ・ゼロ」です。デビッド・フィンチャーの「マインドハンター」も好きでした。

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――連続ドラマが一気に配信されるのが“不思議”というのは、具体的にどのような感覚なのでしょうか。

僕がテレビドラマを始めた頃はDVDなんてなかったんです。録画はありましたが、ドラマを溜めておく、とっておくという感覚も当時はなかったと思います。テレビドラマは毎週流れて消えていくもので、当時また同じドラマを見たいなと思ったら、何年後かに再放送があるかなという感覚でした。

いつのまにかドラマがDVDやBlu-rayになることでずいぶん変わったなと思っていたら、そのうち配信されるようになって。ついに全部一気に見られるようになったので、連続ドラマは来週まで待つものなんじゃないの?っていう古い考えもまだ持ってますが、もうそれとはまた違うところにシリーズ作品はきているんだなと思っています。新作でさえ現在進行してるものじゃなくて、配信された時点でアーカイブだってことですよね。僕もドラマを一気に見たりしますし、その面白さも感じています。

――Netflixと初タッグを組みました。実際に仕事をしてみていかがでしたか。

ターゲットが広いというのは大きいと思います。日本の地上波のお客さんに向けて作るものとはまた違うものができると思っています。それが何かというのは今すぐにわかりませんが、少なくとも全世界同時に字幕や吹き替えもついて配信されるのは、日本だけでずっと作ってきた者としては嬉しいですし、希望を感じますし、未来も感じています。

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――世界配信されるというのは、作り手にどのような影響があるのでしょうか。

こんな風に思ってるのは自分だけじゃなかったって思えるのは嬉しいことじゃないですか。生きてる世界は広い方が楽しいはずなんです。僕は36年くらいこの仕事をしていますが、そのうち30年くらいは自分のドラマは日本でしか見られてないと思っていました。「東京ラブストーリー」がアジア圏で見られているらしいよとは聞いていましたが、実際は想像していたよりはもっとたくさんの人が見てくれていました。「Mother」や「Woman」といったドラマが海外でリメイクされるようになって、海外でも何も変わることなく、伝わらないということもなく、全部同じようにいろんな国の人に見てもらっているんだということに、ここ5、6年で気がついたんです。台湾や中国、韓国に行くと、みんな僕が脚本を書いたドラマを全部知っていてくれました。

「大豆田とわ子と三人の元夫」というドラマを作ったときに、網戸が外れちゃって困るというシーンを書いたら、第一話のスタッフ会議で、何十人いるスタッフ全員が「網戸は外れない」と言ったと報告を受けたんです。この場面にはリアリティがないという圧を感じました(笑)。でも、僕は人生で数限りなく網戸が外れることに悩んできたので、わがままを通したっていうことがあって。それで、一昨年くらいに台湾に行ったら、「網戸が外れて困るから、あのシーンはすごくわかった」って何人もの人に言われたんです。台湾にもこれだけの人数いるんだから、世界中の網戸外れる人たちのために書けばいいって思いましたね。身の回りにいなくても、仲間はどこかにいるんですよね。

海外の方からDMをいただくこともあります。日本語に翻訳したようなメッセージをくれて、一昨日はケニアのナイロビに住んでいるという方から、作家論を書いたようなメッセージが届いたんです。さすがにアフリカ圏の方は初めてだったので、びっくりしました。

自国で普段通りに作品を書いたら、そのまま海外の人にも見てもらえるようになったのは、配信の時代になってから世界中の人が手に入れたことです。これからどういう結果になるのかわからないですが、素晴らしいことだと思います。

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■真面目で不器用な登場人物たちの人生讃歌「見てくれる方が喜んでくれたら良い」

――本作の完成版をご覧になったご感想をお聞かせください。

今日、吉沢さんと宮崎さんに初めてお会いしたのですが、お二人ともとても誠実で。その感じがこの主人公たちの魅力につながっているんだなと、さっき思いました。真面目で不器用で、それで人生があんまりうまくいかない結果になっている登場人物たちです。うまくいかないこともあるけれど、人間賛歌になっていて楽しめる気がしています。

……でも、見てくれる方が「面白い」って言ってくれるまでは不安でしかないです。連続ドラマはいつもそうなのですが、どう思われるのかなっていう不安ばかりがあって。テレビドラマをやっているときは、誰も見ていないだろうなと思いながら一生懸命書いて、放送が終わってから「面白かった」と言われて、見てくれていたんだなって気付きます。そういう感じなんですよね。視聴率が悪いと、「すべっているんだろうな」って思いながら書いて、でも終わってみたら「面白かったですよ」と言ってもらって。連ドラの脚本を書き終わっても、全話の放送が終わるまではずっと、誰も見ていないんだろうなと思っています。僕だけじゃなくて、作り手はきっとみんな不安なものなんだと思います。

地上波はながら見できることが前提だから、逆に集中してもらおうと思って強めに書いてるけど、今回はむしろ自由に書けました。ながら見でもいいし、気軽に楽しんでもらえたら良いなと思っています。登場人物みんな滑稽で、バカみたいに真面目で一生懸命で、だけどかわいいっていう作品を目指して書いて、それを俳優さんたちが見事に表現してくださいました。

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――早稲田大学の講義「マスターズ・オブ・シネマ」に登壇された際に、どんな作品にも“自己が投影されている”と語っておられました。本作にはどんな部分が投影されているのでしょうか。

おそらく、作品に自己投影はされているのかと質問されたから、どんな作品も投影されないことはないみたいな意味での回答だったかと思います。今さら自分の分身を描きたいということはないですが、普段思っていることと同じことを書いたりもするし。今回でいえば、お店で偉そうにしてる人は好きじゃないというのもいつも思っています。でも、自分のことなんてよくわからないし、僕は接客業をしているわけでもないので、そっちの人のこともわからないです。どっちも自分の中にあるし、むしろこの2人(冲方優、盤若千弦)を困らせるダメな人たちのほうが自分は近いと思います。

クレイジークルーズ」は11月16日から配信。

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