80年代を中心としたインディーズ映画のデジタルレストレーションの現状は? 「TOKYO POP」4Kデジタルリマスター版上映とシンポジウム
2023年10月31日 14:00
![(左から)モデレーターの久松猛朗氏、フラン・ルーベル・クズイ監督、映画プロデューサーの古賀俊輔氏、国立映画アーカイブ大澤浄氏](https://eiga.k-img.com/images/buzz/106444/d6ac8adc216afefd/640.jpg)
開催中の第36回東京国際映画祭で特別企画「TOKYO POP」4Kデジタルリマスター版上映とシンポジウムが10月30日に行われ、フラン・ルーベル・クズイ監督、映画プロデューサーの古賀俊輔氏、国立映画アーカイブ主任研究員の大澤浄氏、モデレーターの久松猛朗氏が、「インディーズ映画の復元と保存の重要性」 をテーマに語った。
このほど上映された「TOKYO POP」(1988)は、フラン・ルーベル・クズイ監督が自身の体験を基に、80年代の東京にやってきたロック歌手志望の米国人女性の視点から見た日本社会、同世代の若者文化、そして交流や恋愛を音楽に乗せて描き出す物語。
![画像4](https://eiga.k-img.com/images/buzz/106444/5aab1c8fa0b1d8b2/640.jpg?1698715902)
「35年前に作られたこの映画が見ていただけるのは、素材があるからです。このような映画の素材の消失の危機があります。レストアしてくれたり、保存してもらえる術を持たないインディペンデント映画は、素材がなくなればその映画が死んでしまうと同然です。こうした状況は日本だけではありませんが、アメリカでは対策が始まっています」と久松氏が、日本のインディーズ映画作品の保存とレストアの現状について語るべく、本シンポジウムを開催したと述べる。
まずは、クズイ監督が「TOKYO POP」4Kデジタルリマスター版を製作できた経緯を説明した。
クズイ監督:「TOKYO POP」を撮り終え、カンヌ映画祭でも上映され、ビデオ化されるというタイミングで配給会社が倒産しました。その時、私の手元に残ったのはVHSコピーのみで、再生機器がないため見ることができません、35年間世界のさまざまな映画祭から、上映のオファーがありましたがVHSコピーしかない、という答えしかできませんでした。この作品だけでなく、皆さんが古い友人のように愛した映画が同じような状況に陥っていると思います。
2019年の11月にジャパンソサエティの担当から、外国人の監督が撮った作品を上映したいと申し出があり、「TOKYO POP」のフィルムを発見したということで、実現したのです。上映後にインディ・コレクトという団体の担当者がレストアを申し出てくれました。女優のジェーン・フォンダが設立した、女性監督をサポートする財団からも資金が出るということでした。こういったNPOはいくつかアメリカに存在しており、インディ・コレクトはその中で最先端の団体です。独自の、35ミリフィルムをスキャンしてデジタル化できる機械を有しています。2010年設立され、ゴールデングローブ賞主催団体のひとつとしても有名です。この団体とジェーン・フォンダ財団がレストアの手を挙げてくれました。
そして、「TOKYO POP」の配給会社は倒産しましたが、ネガを保管した会社も倒産したので早く回収しないと消失する恐れがあると伝えられ、急遽ロスのラボに移送しました。保管中は私の作品なんて、価値がないのでは?と自信を失いかけていました。インディ・コレクトのような団体のおかげで勇気づけられました。多くのインディペンデントのフィルムメイカーは、サポートを常に受けられる立場ではありませんから、自分のクリエイションへの自信を維持するのが難しいのです。
私はレストアを決意しましたが、コロナ禍で何もかも閉鎖されました。倉庫も閉鎖されました。フィルムアーカイブも、インディコレクトのオフィスも閉鎖されました。インディペンデント製作者は協力者に恵まれることが少ないですが、その頃比較的有名な友人がレストアに協力してもらえました。その後2021年の9月になり、インディ・コレクトから連絡があり、とうとう倉庫が倒産することになりました。コロナ禍のロックダウンで自由に外出ができない時期で、私にフィルムを送ってくれる人もいなかったのです。しかし、アカデミーの偉い方が、ひとりで倉庫に行ってフィルムを回収してくれ、キノローバーという配給会社が配給を申し出てくれました。この会社は350本くらいクラシックの名作をストリーミングしてます。このように、小さいけれど、名作を配給してくれる会社がインディペンデント映画が存続することに不可欠だということです。
![画像2](https://eiga.k-img.com/images/buzz/106444/85e3bc5a663f8c72/640.jpg?1698715901)
次に、1994年から永瀬正敏が主演、林海象が監督を務めるシリーズ映画として公開され、大ヒットした「私立探偵濱マイク」シリーズ公開30周年を記念し、4Kデジタルリマスター版を製作、上映した古賀氏が、自身の経験を語る。
古賀:デジタル化が急速に進み、(レストア化された)昔の映画が再ブームになっても、すぐに上映することができない現状があります。僕がレストアを手掛けた「私立探偵濱マイク」は1993、94、95年の3本のシリーズもの。公開当時シネスイッチ銀座で3カ月ロングランだったので、その後も上映を希望する劇場はありましたが、フィルムがなかったのでDVDで上映していました。そして、配信がブームになってきたので、こちらも何とかしようと思っていましたが、私はプロデューサーなので権利は持っていません。そこで、レコード会社に交渉し、お金を出してもらいました。説得しなければいけないという状況が生まれました。
その頃、台湾のエドワード・ヤン作品が続々とレストアされていることを聞いて、先に売り先を決めました。放送局や配信会社に行って、放映権や配信権をいくらで買ってくれるかと聞き、ある会社には劇場公開で興行権を買ってほしいと。集まったお金で、いくらで作れるか計算し、そしてシリーズ3本で交渉しました。レストア作業に関しては、デジタル化してくれる会社と長年付き合いがあったので、ディスカウントを頼めた。その状況をもって、レコード会社に交渉した。今やれば多少利益も出て、生涯作品も残ってビジネスになると説得しました。おかげさまで3本劇場公開、放送、Blu-ray発売、配信もできるようになりました。それはこの作品は昔当たったからです。昔当たった映画はやり方があるが、当たらなくても、良い映画にお金が出ない状況。東京ポップのように、出資者が倒産してしまうこともある。その問題は大きいと思います。
そして、公の機関として、多くの作品のレストアの変遷を見てきた国立映画アーカイブでの活動例を大澤氏が報告する。
大澤:まず前提となることが2つあります。インディペンデント映画が見られないのは1980年以降の問題です。それまでは大手の撮影所を持った映画会社が日本映画のほとんどを作っていましたが、そういった映画会社は次第に少なくなり、その後、映画を専門としない会社が映画を作るようになりました。ですから、インディペンデント映画の問題はここ40年くらいの問題です。もうひとつの問題は、そのうち30年はフィルムで作られていましたが、10年前頃からほとんどの映画はデジタルで作られるようになりました。我々はフィルムで作られたインディペンデント映画、デジタルで作られた映画、それぞれの特徴に分けて、保存して復元することが求められています。ポイントは著作権、もう一つは原版のありか。著作権者でないと映画を動かせない。会社そのものがなくなったり、会社があっても映画事業がなくなり、映画を作っていたことを忘れていたりする。また、クズイ監督のように自分が監督で、著作権者と分かっていても、原版が見つからないことあります。
法的な問題として、我々映画アーカイブは国会図書館と似たような機関でも、決定的に違うことがあります。国会図書館法があって、日本で作られた出版物は自動的に国会図書館に入りますが、映画に関してはそういう法律はありません。我々は、その都度1対1で契約を結びながらフィルムを集めています。我々もゼロから、著作権者を探し始めるところからスタートすることがあり、やはり権利と原版の問題が大きいです。
![画像3](https://eiga.k-img.com/images/buzz/106444/683df9e818fd6790/640.jpg?1698715902)
ここで、モデレーターの久松氏より、デジタル保存だから安心という向きはあるか? と大澤氏に質問が向けられる。
大澤:デジタルは基本的に劣化しないし、永遠に残ると思われていますが、実際は違います。うっかりデータが消えることもありますが、ハードディスクのように何かに記憶させなければならないのです。そうすると、ファイルのフォーマットが変わる、様々な記憶媒体が出てきて、媒体のバージョンが変わって使えなくなるなど、商業的な更新が頻繁に行われます。デジタルの映画は100年安定したフォーマットであると言えるものがない。定期的にファイルを時代時代に合ったフォーマットに変換しなければならないのです。そのコストはフィルムを保管場所に放置して置いておくよりも、はるかにコストがかかると言われています。それが10年前くらいから、デジタルジレンマと呼ばれていることです。
そして、日本には「TOKYO POP」レストア化を進めたインディ・コレクトのような団体は存在しないため、国立映画アーカイブでの取り組みを説明する。
大澤:我々も80年代以降の日本映画を保存することは大事だと思っている。10年前くらいから、能動的に上映会を定期的に開いて、そこに必要な作品を集めるという形で、可能な範囲で80年代の映画を収集しています。とはいえ、我々のような組織は日本にひとつしかないが、アメリカには巨大なフィルムアーカイブが各地に複数存在します。映画の歴史を考えると、アメリカもたくさん映画を作っていましたが、日本も年間400本作っていた時代がありました。最近はデジタル化で700本、1000本とその数がどんどん増えています。巨大な映画の歴史は、国立機関なので、なるべくいろんな時代、国でいうと日本を優先したいが、サイレントから現代まですべての作品が重要。80年代のインディーズ映画だけを特別に集めることには限界があります。「TOKYO POP」はアメリカのアカデミーアーカイブとインディ・コレクトのような団体が協力してできたこと。そういう団体があることが素晴らしい。
「TOKYO POP」のレストレーション作業について、クズイ監督はこう振り返る。
クズイ監督:今回のレストレーションにかけた労力はお金に見合わない大変な作業でしたが、やり遂げられたのは、やはり作品に対する思い入れがあったからです。資金的な面でも、大手にレストレーションを依頼するより、インディ・コレクトは半分の費用で済みました。大学生のインターンが使えたり、監督が率先して色のチェックをするからです。大事なのは監督が自分の作品を残したいという強い気持ちを持つこと。このシンポジウムがきっかけとなって、映画人のひとりひとりが自分のいい作品を残したいという気持ちになって、日本に広がるといいと思います。
レストアした作品の権利を利用して、さらに別の作品のレストアを行う、というエコシステムのように持続可能なシステムは作れるだろうか? という問いに、古賀氏は「今回やってみて、インディペンデントが1本1本でやっていくことは難しい。チームとなってビジネスの仕組みを作ることが大事」と私見を述べる。
最後に、東京現像所の閉鎖について意見を求められた大澤氏は「非常に深刻な問題ですが、初めてのことではありません。現像所の閉鎖で行方不明のフィルムが出てくるということは日本で何度かありました。もちろん、緊急だとは認識していて、現像所と親会社の東宝とも話を続けています。いろいろと誤解があるるようですが、10月末ですぐ廃棄するわけではなく、廃棄対象となると言っているだけで、すぐの処分はないそうです。2万あると言われている作品の原版を救えるように話し合いを続けて、良い方向に行けるといいなと思います」とコメントした。
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