理想のフィルムメイキングを目指したひとつの結果――ギャレス・エドワーズ監督が語る“オリジナル脚本での映画製作”【「ザ・クリエイター 創造者」インタビュー】

2023年10月28日 09:00


ギャレス・エドワーズ監督
ギャレス・エドワーズ監督

GODZILLA ゴジラ」(2014)で日本が誇る怪獣映画のハリウッド版リブートを見事に発進させ、「ローグ・ワン スター・ウォーズ・ストーリー」(16)では「スター・ウォーズ」シリーズ初のスピンオフをファンの間でも“シリーズ屈指の傑作”として愛される作品に仕上げたギャレス・エドワーズ監督。そんな彼が長編デビュー作「モンスターズ 地球外生命体」(10)以来となるオリジナル脚本で作り上げたのが「ザ・クリエイター 創造者」である。

未来の世界を舞台に、AIと人類の戦いを中心に展開する本作だが、そもそも、いまの時代にオリジナル脚本でこれほどのスケールのSFアクション大作の企画を成立させることが、いかに凄いことか! 肝心の完成した作品の出来栄えに関しても、緻密かつスタイリッシュなデザインが光る映像、そして、アクションと人間ドラマが組み合わさった重厚な物語の質の高さに驚かされる。

本作を「自分にとっての理想のフィルムメイキングを目指したひとつの結果」と語るギャレス・エドワーズ監督に話を聞いた。

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AIが人類に反旗を翻し、ロサンゼルスが核の炎に包まれた未来の世界。アメリカがAIを完全に規制する一方で、ニューアジアと呼ばれる地域はAIとの共存を選び、それゆえに引き起こされた戦争は10年にわたり続いていた。元特殊部隊員のジョシュア(ジョン・デビッド・ワシントン)は、人類を滅ぼす兵器を生み出した“創造者(=クリエイター)”の抹殺を命じられ、現地に潜入するが、そこにいたのは超進化型AIを搭載した、愛らしい少女アルフィー(マデリン・ユナ・ボイルズ)だった――。

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“ニューアジア”と呼ばれる未来のアジアを主な舞台に展開する本作。かつてのベトナム戦争を描いた名作映画を彷彿とさせるようなジャングルや自然の風景の中に、“異物”のように未来の建造物が存在する違和感のある画が印象的だ。「ローグ・ワン」の後、オリジナルのシナリオ開発を進めていたというエドワーズ監督にインスピレーションを与えたのが、ロケーション・ハンティングで訪れたベトナムの風景だったという。

「ちょうど友人の映画監督ジョーダン・ボート=ロバーツがベトナムで『キングコング 髑髏島の巨神』を作っていて『こっちに来ない?』と誘ってくれたんです。次の映画はロボットが出てくる作品にしようと考えていたので、風景を見ても『もしロボットだったら…』と想像してしまうんです。僧侶がお寺に入っていくのを見ても『もし彼がロボットだったら……』ってね(笑)。近未来の世界観の部分に関しても、褒めてもらうことが多いんだけど、大部分で元になっているのは、実際に撮影した映像で、そこに25%のフィクション要素を加えて作っていきました。ひとつ、意識したことがあって、もしも現代に生きる我々が未来に行って建物や乗り物、デバイスを見ても、それが何なのか理解できないかもしれないですよね? この作品でも、観客にそれが何なのか説明されない――つまり、自分の想像で補っていかないといけないようにしたんです」

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渡辺謙らが演じているAIシミュラント(模造人間)が、正面から見ると人間そのものだが、後頭部から耳にかけて機械となっており、公開前からそのデザインが話題を呼んでいた。他にも登場する様々なプロダクトは、見た目のカッコよさやインパクトだけでなく、機能性までも考慮した上でデザインされている。コンセプトの元になったのは、日本のプロダクトデザインだという。

「僕も美術担当のジェームズ・クラインも日本のプロダクトデザインが大好きなんです。だから、デザイナーに説明する際に、現代はみんながアップル製品を持っているけど、そうじゃなくて、みんながポケットにソニーのウォークマンを持っているような未来の世界線をイメージしてほしいと伝えて、80~90年代のソニー製品や任天堂のゲーム機に立ち返ったんです。これらの製品のフォルムを共通言語にして、様々なプロダクトやシミュラントをデザインしていきました」

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音楽もまた、この映画の世界観を観客に伝え、想像力をかきたてる大きな要素となっている。ハンス・ジマーによるオリジナル楽曲に加え、現代のロック、ジャズナンバーの「Fly Me To The Moon」、ディープ・パープルなど、様々な既存の楽曲も取り入れられている。

「(英国のコメディアンの)リッキー・ジャーベイスのジョークで「“ベトナム戦争”は最高のサウンドトラックだ(=当時の時代背景が多くの名曲を生み出した)」というのがあるけど、70年代の音楽には強いインスピレーションを受けています。音楽のスーパーバイザーには、『ドアーズっぽいけど、欧米の人々が聴いたことのないバンドを探してほしい』と言ったら、インドネシアのGolden Wingというバンドを探し当ててくれて、聴いてみたらすごく良くて結果的に彼らの楽曲2曲を実際に使っています。まさに東西の文化が融合しているようで、この映画にピッタリだったし、それはすごく健康的なことに思えたんです。この映画自体が、日本映画にもインスピレーションを受けているけど、そうした日本映画もまた西洋の映画から影響を受けて作られている。このバンドも70年代の欧米の音楽に影響を受けているわけです。いま、世界が均質化、同一化していく中で、こうしたハイブリッドは、健康的なあるべき姿だと思っています。つまり、互いの文化がキャッチボールしつつ、でも自らのアイデンティティを失わず、均質化しない。それはエキサイティングでクリエイティブなことだと思います」

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GODZILLA ゴジラ」、そして「ローグ・ワン スター・ウォーズ・ストーリー」という世界的な超大作シリーズを手がけた上で、今回、原点に回帰し、オリジナル脚本での映画制作に臨んだエドワーズ監督。「GODZILLA ゴジラ」と「ローグ・ワン スター・ウォーズ・ストーリー」での経験は、彼に何をもたらし、本作の制作にどのような影響を与えたのだろうか?

「もちろん、大きな影響はありましたよ(笑)。僕自身、子どもの頃から『ゴジラ』や『スター・ウォーズ』を見て育ってきたので、そのシリーズの監督をやらないか?というオファーに『NO』と言うのは不可能でした。でもこれらのシリーズは、強固なファンベースがあり、制作に際してはこちらの一挙手一投足が観察されていて、時に批判にさらされることだってありました。今回のようなオリジナル脚本の作品の場合、自由にできる面白さはあるんですけど、シリーズ作品のようなファン層が最初からあるわけではありません。どちらにも良い点や難しい点があり、パーフェクトなバランスというのはなかなか見出せないけど、この映画は、自分にとっての理想のフィルムメイキングを目指したひとつの結果と言えると思います。それはつまり、インディーズの自由さと超大作の持つスケール感の両方を持ち合わせた作品を作るということ。この映画は両方の体験をひとつにまとめた作品と言えます」

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本作が「AIと人類の生存をかけた戦い」を描いたアクション・エンタテインメントであることは間違いないが、それだけではない。過去の名作と呼ばれるSF映画がそうであったように、現代社会に対して様々な哲学的な問いを投げかける。社会の断絶、AIの存在に投影された、自身とは違う異質な存在との共存――主人公のジョシュアが、政治や思想のためではなく、愛する人に会うために行動する姿は示唆的だ(もともと、本作は「TRUE LOVE」というタイトルで始動したといわれている)。こうしたテーマ性について、エドワーズ監督はこう語る。

「当初のアイデアとして、たった一人の子どもを殺すことで、この戦いが終結するという状況で、果たしてその子を殺すことができるのか? それをしてしまったら、自分は敵と同じような“悪”になってしまうのではないか? というジレンマを描くということに興味を覚えて書き進んでいました。そこに新たにAIというテーマが加わったことで、新たな可能性が見えてきたんです。脚本に着手する際に、最初から“共存”であるとか“愛”というテーマを掲げてしまったら、それはきっと酷い映画になると思う(苦笑)。まず、自分が興味を持ったもの、面白いと感じたテーマから始めるべきで、書き進めていく中で他のテーマが浮かんでくるものなんです。子どもが成長するように、作品そのものが『自分はこうありたいんだ』と僕に訴えてくるものなんです。少し話がそれてしまうけど、AIに関して言うと、僕は現代のAIが知覚を持っていてほしくないと思っています。なぜなら、現代のAIは人間のために単純作業に従事させられる存在なので」

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最後に監督のオールタイムベスト3ムービーは?

「(迷わず)『スター・ウォーズ エピソード4 新たなる希望』、それから(少し思案して)『バラカ』、『素晴らしき哉、人生!』かな」

(取材・文・写真/黒豆直樹)

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