「チョコレートドーナツ」の監督が、世界初の舞台版を観劇して大感激!【若林ゆり 舞台.com】

2023年10月23日 14:00


インタビューに応じた「チョコレートドーナツ」トラビス・ファイン監督
インタビューに応じた「チョコレートドーナツ」トラビス・ファイン監督

低予算の小品ながら世界の映画祭で熱狂的な支持を集め、日本でも口コミから異例の大ヒットロングランを果たした映画「チョコレートドーナツ」(2012)。この作品が宮本亞門の演出により、世界初の舞台化を果たしたのは2020年末、日本のPARCO劇場でのことだった。舞台は好評を博したものの、コロナ禍で、予定されていた公演の約半分が中止となってしまった。

この公演がさらなる磨きをかけられて、10月8日より3年ぶりに再演されている。原作映画の製作・脚本・監督を務めたトラビス・ファインにとっても、待望の再演である。初演時には来日が叶わず、観劇する機会を失っていたからだ。今回、来日を果たしたファイン監督に映画について、そして舞台版について話を聞いた。

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まずは舞台の原作となった映画「チョコレートドーナツ」について振り返ってもらおう。この作品は、ドラァグクイーンのルディと検事局で働くポールが、母親に見放されたダウン症のある少年、マルコと出会って愛し合い、“家族”になろうと奮戦する物語。彼らに社会の無理解、偏見と差別が立ち塞がる。ファイン監督が、盟友で音楽監督でもあるPJ・ブルームに「昔、父親(脚本家のジョージ・アーサー・ブルーム)が書いたままお蔵入りした脚本がある」と、その脚本を見せられたことから始動した。

「私はそこに描かれていたルディのキャラクターに惚れ込んだんだ。彼は30数年前、ニューヨークに住んでいた美容師がモデルになっているんだが、すごく器の大きな人物でね。近所に住んでいた障がいをもつ子どもに愛情を注ぎ、面倒を見ていたそうだよ。ちょうどこれを読んだ頃、私は自分の娘との関係で困難に直面していた。離婚した最初の妻との間にもうけた長女と長いこと会えずに苦しんでいたから、ルディの闘いに深い共鳴を覚えたんだ」

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「そこで私はここに個人的な要素を加えて、物語を構築し直そうと考えた。最初の脚本では、マルコのキャラクターは6歳か7歳で、しゃべることはなかった。うなり声を上げるだけでね。でも私はこの子がどんな子なのかもっと知りたいと思ったので、少し年齢を上げてダウン症があるという設定に変えた。そうすることで、元の脚本には感じられなかったルディとマルコとのつながりが生まれると思ったんだ。そしてポールのキャラクターを加えることで、このラブストーリーをより複雑で深みのあるものにできたと思っている」

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この映画の成功は、主要キャラクター3人の完璧なキャスティングによるところが大きいことは明白だ。とくに、ルディを演じたアラン・カミングはこれ以上ないほどのはまり役。

「ああ、アランをキャスティングできたのは実に幸運だと思っている。最初はリッキー・マーティンに頼みたかったんだが断られてね。でも、彼のエージェントが役の説明を聞いて『それってアラン・カミングについて言っているみたいだね』と言うのを聞いて、『それだ! なぜ気づかなかったんだろう』と膝を打ったよ。私はアランの大ファンだったんだ。彼がブロードウェイで演じた『キャバレー』は映像で見ていた。あの役は人々の記憶に残る個性的なキャラクターで、性的に流動的な人物だった。それがとてもうまく機能していることに感銘を受けたよ」

「それからアランについて調べてみると、彼は何十年もの間、LGBTQの権利のため、情熱的に活動してきたことがわかった。この役にはまさにうってつけだったんだ。そしてアランはルディになってくれた。撮影初日に、すでにオリジナルで描かれていたキャラクターを彼が体現しているのを見たとき、これは特別なものになるぞと思った。撮影現場で彼の演技を見ていると、ハッとさせられることがあるんだ。俳優がページに書かれていることに自分なりのタッチを加えてつくり出して見せる、特別な瞬間。ときには大きな、ときにはとても些細な振る舞いに彼ら自身の個人的な側面を持ち込んで、思いもよらなかったキャラクター表現を見せてくれるようなことが何度もあってね。とても心を動かされたよ」

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これは社会からはみ出し、自分の居場所を探し求めて生きてきた、3人の人間が織りなすラブストーリーだ。映画の中ではなぜルディとポールがそれほどまでにマルコを愛するようになるのか明確に語られてはいないが、彼らを見ていれば痛いほどよくわかる。

「恋に落ちるのは一瞬と言われるよね。ルディがマルコへの恋に落ちたのは、彼がまともな朝食を作れない言い訳を冗談交じりにしたとき、マルコの無邪気な破顔一笑を見た瞬間だと思う。ルディの生涯は、必ずしもLGBTQコミュニティの人々に優しくない世界で体制と闘い、自分自身と自分の生き方を守るために闘わなければならない道のりだった」

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「そういう経験を経てきたルディは、マルコの中に『こんなことは自分で望んだことじゃない!』と叫ぶ人物を見たのだと思う。マルコはこんな目に遭うべきじゃない。彼はマルコの中に自分自身の葛藤そのものを見たんだよ。ポールの場合、ポールは自分が何者なのかわからず、自分にも他人にも正直になれずに生きてきた。そしてマルコの中に、まっすぐで正直な魂を見た。彼は職場に押しかけてきて粗野な態度をとるルディとマルコに、攻撃的なまでに自分に正直で、そういう生き方しかできない人間を見たんだ。そして、彼らを羨ましいと思う気持ちに気づいたんだね」

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ファイン監督は子どものころ、好きだった本「宝島」の舞台を見て「俳優になろう」と決めたという。やがて俳優としてキャリアを築いていたファインが、映画作家として活動するようになったのは「物語」への愛からだった。

「俳優をしていると、撮影と撮影の間に長い待ち時間があるんだ。私はその時間を無駄にするのは嫌で、いつも頭の中でストーリーを作り、書くことに費やしていた。そして24歳のときに初めて脚本を書いて、それを売ったんだ。それから気づいたんだが、脚本を書いて、それを他の人に作らせても、私の頭の中で描いていたような作品になるとは限らない。だから思い通りに語りたかったら、自分で脚本を書いて、自分で監督して、自分でプロデュースするしかないと思った」

「私が語るストーリーはたいていの場合、自分自身の中で格闘している何か、挑戦している何か、興奮している何か、恐れている何かから始まる。そして最終的に見えてくるのは、人間なら誰もがもっている普遍的な葛藤なんだ。私たちは誰でも、恋に落ちたことがあるし、喪失を経験しているよね。だから、それを描いた物語は共鳴を呼ぶ。その共感は私たちみんなを繋げ、互いに対する理解を深める力があると思っているんだ」

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彼が映画「チョコレートドーナツ」で観客に伝えた物語は、日本で舞台作品に生まれ変わり、新たな感動を呼んでいる。ファイン監督が宮本亞門から舞台化のアイディアを最初に聞かされたのは、2015年のことだった。

「映画を作ったときから、舞台化できるということはわかっていたんだ。実際、アメリカで舞台化に向け、プロデューサーと話をしたことも何度かあったんだよ。でも実現には至らなかった。亞門から舞台化のアイディアを聞いたのは、日本で映画が大ヒットしたことを受けて来日したときだ。そのとき亞門と京都で初めて会って、彼が演出した舞台(『降臨』)を見た。視覚的で音楽的で、壮観だった。素晴らしい才能を感じたよ。彼は、映画をどんなふうに舞台化したいのか、そのビジョンを語ってくれた。ほかにも人生について、愛について、演劇について、情熱について、映画について、時を忘れて語り合ったんだ。彼の作品にかける情熱は明らかだったし、物語に対する理解の深さもよくわかった。そのときから私は『彼なら間違いない』と確信し、彼に最大限の信頼を寄せているんだ」

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そして20年末に、世界で初めての舞台版「チョコレートドーナツ」が日本で開幕。しかし、このときはコロナ禍という壁が立ち塞がり、ファインは観劇を諦めざるを得なかった。そして23年、ついに望みの叶う日が来た。

「初演を観劇する機会が失われたとき、一生に一度の機会を逃したと思っていたんだ。でも今回、また愛してやまない日本に戻ってきてこの舞台を見られたことは、私の生涯で得られる最高の贈りものだと思っているよ。素晴らしい、美しいショーだった。亞門やパルコのチームがこの作品のためにしてくれたこと、映画に新たな生命を吹き込んでくれたことがどんなに素晴らしかったか。絶妙だったよ。亞門が加えた変更点のいくつかは、私が映画を撮るときに考えておけばよかった、と思えるものだった」

「俳優たちは驚くべき才能をもった人たちだ。東山(紀之)がルディに命を吹き込んだ仕事も、まるで魔法のようだった。まるでアラン・カミングが舞台に舞い戻ってきたかのように感じた瞬間もあったよ。ポールを演じた(岡本)圭人も素晴らしく、映画でギャレット・ディラハントが見せた演技の美しさ、情熱、力強さといったすべてを備えていた。マルコを演じた若者(丹下開登/トリプルキャスト)が、観客の喝采にエキサイトしている光景を見るのはハッピーだった。初日は幕が下りた後でも拍手が鳴り止まず、再び幕が上がった後も彼はもっと拍手を求めて、幕が下りるのを拒んでいるかのようだったんだ。本当に、本当に美しい光景だった」

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初演に比べてさらに磨かれ、深みを増したステージ。いつか、この作品をブロードウェイで見られる日が来るかもしれない。

「私も心からそう願っている。アメリカに帰ったらまずアラン・カミングに連絡して、このショーがどんなに素晴らしかったか伝えたい。ギャレットにも、マルコを演じたアイザックにも伝えて、彼らに再び演じてもらいたい。あの3人ならできると思うし、美しいショーになるだろう。亞門に演出してもらってね。彼のビジョンをブロードウェイに持ち込めば、きっと成功間違いなしだと思っているよ」

PARCO劇場開場50周年記念シリーズ「チョコレートドーナツ」は、10月31日まで東京・PARCO劇場で上演中。以後、11月3日~5日に大阪・豊中市立文化芸術センター 大ホールで、11月10日・11日に熊本・市民会館シアーズホーム夢ホールで、11月16日に宮城・東京エレクトロンホール宮城で、11月23日に愛知・Niterra日本特殊陶業市民会館フォレストホールで上演される予定。詳しい情報は公式サイト(https://stage.parco.jp/program/choco2023)で確認できる。

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撮影:若林ゆり

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