【「アアルト」評論】北欧の第一人者が遺した偉大なる作品群と、心を込めたラブレターの数々
2023年10月15日 14:00

フィンランドの建築家、アルヴァ・アアルトとアイノ・アアルト夫妻に関するドキュメンタリーです。ふたりは、1920年代に活動をはじめ、モダンな建築や家具を次々に発表し、1938年にはニューヨークのMoMAで単独の展覧会を開いて大ブレイク。モダンでシンプルで合理的な建築や家具の数々は、世界中の建築家や家具デザイナーに非常に大きな影響を及ぼしています。
これまでアアルトのことを詳しく知らなかった私は、本作を見て、自分の中の誤解がひとつ解消されました。私はこれまで「北欧家具」は「デンマークの家具」のことだと勝手に信じ込んでいたのです。数年前、今の自宅に引っ越しする際に家具も新調しようと考え、家具屋さんを集中的に訪れていた時にお店で見かけた椅子は、ほとんどがデンマーク製だったからです。
しかしこの映画を見て目からウロコです。デンマークじゃなくて、フィンランドだった。というか、アアルトだった。とりわけ、成形合板の椅子。ヤコブセンのアントチェアとかイームズのLCWとかは、アアルトが作った成形合板の椅子がオリジンだったんですね。「この合板の椅子、どうやって作ったんだろう」って謎もひとつ解けて、とても嬉しくなりました。
あと、建築家のドキュメンタリーにしては、意外なほどエモーショナルです。それは、夫婦お互いの愛についてのシークエンスが多いから。と言っても、愛をむつみ合う映像が残っていたわけではありません。残っていたのは「手紙」です。そう、ラブレター。
2人のうちの一方が出張や旅行に出かけ、離ればなれになることが多かったようで、旅先から相手に向けて綴られた手紙が数多く残っていたのです。この手紙が、声優によって音読されます。旅先での近況報告の後には、必ず愛の言葉が添えられます。「君のキスが恋しい」「あなたにゾッコンだからといって、傲らないで」。ラブレターはとてもロマンチックで、若干、恥ずかしさも感じるレベル。「2人の夫婦関係は特殊だった」という関係者の証言など、夫の不貞を匂わせるシークエンスもちらほらあって、奥行きも感じます。
とにかく、アアルトをご存知の方はもちろんですが、知らない人でも、建築や家具が好きな人なら必見の映画でしょう。いま私たちが目にするモダンな建物や、ふと腰掛けたりするシンプルな椅子の源流が湧き出すところを見るような作品です。映画を見ると、必ず、アアルトの創った作品も見たくなる。
ドキュメンタリーを見ることによって、旅心を喚起された経験は何度もあります。この映画をきっかけに、近い将来、まだ行ったことのないフィンランドを訪れようと心に誓いました。目的はもちろん、アアルトの作品群を見学することです。かもめ食堂より遍在性がありますし、サウナよりも敷居が低いはず。それに、アアルト建築を訪れたら、アアルト家具も同時に見られそうです。とても楽しい旅になりそうですね。
(C)FI 2020 - Euphoria Film
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