【インタビュー】新鋭・中井友望にとって、最も大切な思い出は?
2023年10月12日 19:00
オーディションプロジェクト「ミスiD」の7代目グランプリに選ばれた中井友望が、女優として着実にキャリアを構築している。今年は「少女は卒業しない」「ベイビーわるきゅーれ2 ベイビー」「炎上する君」に出演し、「サーチライト 遊星散歩」では初めて主演を務めている。唯一無二の世界観を持つ中井に話を聞いた。(取材・文/大塚史貴)
「サーチライト 遊星散歩」は、脚本家・小野周子のオリジナル脚本。第28回フジテレビヤングシナリオ大賞で最終選考にノミネートされた今作を映画版に改稿し、新進気鋭の平波亘監督が映画化した。父を亡くし、若年性認知症を発症した母を抱える女子高生の果歩(中井)は生活に困窮し、スマホも利用停止になってしまう。一方、大家族を養うためにバイト生活を送る同級生の輝之は、果歩の事情を知り気にかける。しかし先の見えない人生に夢も希望も持てない果歩は、やがて女子高生であることを利用して「JK散歩」の世界へと足を踏み入れていく……。
初めて“座長”として撮影に臨んだ中井だが、「後悔や反省はないです」と言い切る。
「今思えば、もうちょっとしっかりと色々なアプローチが出来たかな……と思うことはありますが、そんなことを考えないまま、あのときの自分で良かったのかなと思っているんです。主演ではありますがそんな意識は全くなく、“しっかりしなくちゃ!”というようなプレッシャーも特にありませんでした」
本編中で、好きなことについて「別にない」というセリフがある。中井にとって、好きなことが何なのかを聞いてみたくなった。
「好きなこと……。映画が好きです。人生で初めて、自分で観に行きたいと思った映画が『ヒミズ』でした。中学2年生のときに観て、そこで女優になりたいと思うようになりました。あの作品を観て、初めて映画の力、俳優の力というものを感じることができました。学校へ行けない不登校の時期だったので、すごくパワーをもらって『映画っていいな』と思いました。
18歳で東京へ出てきて、21歳の頃までは自分の生活がいっぱいいっぱいで、映画を観る心の余裕もあまりなかったんです。でもこの2年くらいで、自分でもビックリするくらい映画館へ行くようになりました。最近だと王道ですが、『ミッション:インポッシブル デッドレコニング PART ONE』を観たいがために、シリーズ1作目から全て観て、その流れで劇場に行ってきました。改めて、トム・クルーズってすごいなあって思いました」
映画への思いが溢れる中井だが、約3週間で撮り切ったという今作の現場では、平波監督とどのような対話を重ねていったのだろうか。
「全体を通しては、脚本についてちゃんと話をすることはなかったのですが、お母さんとの大事なシーンで、私がひと言ふた言しゃべったらすぐに止められたんですね。いまの感じは弱いから、最初からもっと強く言って欲しいって。そのシーンは何度もやるとダメだなって監督も私も感じていたので、すぐに止めてくれたことで監督との距離が縮まってすごくありがたかったです」
劇中の果歩は、逃げ場がないほどに四面楚歌の状態で、将来のことを考える余裕などない。それでも、家族は切っても切れないもの……という事実を眼前に突き付けられる。中井にとって、家族とはどのような存在なのか話を振ってみると……。
「私も家族について考えることが多いんです。幼稚園のときに両親が離婚して、それから中学卒業まではお母さんと暮らし、高校生になってからはお父さんと暮らし始めました。両親ともすごく働いていたから、祖父母といることが多かったんですね。すごく大事にしてもらったんですが、友人の家族を見るとお母さんが毎日ご飯を作ってくれるのが羨ましかったり。おばあちゃんの作るご飯はすごく美味しかったんですけどね。
そうやって人と比べてしまうのも家族だなあって思います。仕事が忙しいお母さんの邪魔にならないように、負担にならないように……という反動から、高校生の頃は甘えたりしました。学校にいけない時期にお母さんに電話をしてしまったり。でもそうやって、私はバランスを取っていたのかな。
2~3年前から、東京への出張が多いお母さんと一緒に暮らすようになったんです。何年かぶりに暮らしてみると、自分も大人になっているし、すごく思いやれるようになった気がします。お父さんとは連絡は取り合っていますが、全然会えていないんです。会えるときに会っておかなきゃなって思っています」
そしてまた、作品を通して人間とはつくづく「思い出」で生きているんだということを思い知らされる。中井にも思い当たる節があるようで……。
「19~20歳の頃、すごくしんどい時期があったんです。それで夜中、ふらっと出かけてパッと空を見上げたら、満月だったんです。すごく綺麗で、『もう少し生きてみようかな』って思わせてくれたんです。いまでも辛いことがあると、その日のことを思い出すようにしています」
現在は23歳。これからの20代をどう過ごすか思いを巡らせてもらうと、「色々な細かい目標とか一度横に置いておいて、自分がどうやったら楽しく生きることができるのか……。そして、私はこれからもずっと映画に出たい。その思いは絶えず強く持ち続けています」と意志の強い眼差しで、言い切った。
フォトギャラリー
関連ニュース
映画.com注目特集をチェック
関連コンテンツをチェック
シネマ映画.comで今すぐ見る
第86回アカデミー作品賞受賞作。南部の農園に売られた黒人ソロモン・ノーサップが12年間の壮絶な奴隷生活をつづった伝記を、「SHAME シェイム」で注目を集めたスティーブ・マックイーン監督が映画化した人間ドラマ。1841年、奴隷制度が廃止される前のニューヨーク州サラトガ。自由証明書で認められた自由黒人で、白人の友人も多くいた黒人バイオリニストのソロモンは、愛する家族とともに幸せな生活を送っていたが、ある白人の裏切りによって拉致され、奴隷としてニューオーリンズの地へ売られてしまう。狂信的な選民主義者のエップスら白人たちの容赦ない差別と暴力に苦しめられながらも、ソロモンは決して尊厳を失うことはなかった。やがて12年の歳月が流れたある日、ソロモンは奴隷制度撤廃を唱えるカナダ人労働者バスと出会う。アカデミー賞では作品、監督ほか計9部門にノミネート。作品賞、助演女優賞、脚色賞の3部門を受賞した。
父親と2人で過ごした夏休みを、20年後、その時の父親と同じ年齢になった娘の視点からつづり、当時は知らなかった父親の新たな一面を見いだしていく姿を描いたヒューマンドラマ。 11歳の夏休み、思春期のソフィは、離れて暮らす31歳の父親カラムとともにトルコのひなびたリゾート地にやってきた。まぶしい太陽の下、カラムが入手したビデオカメラを互いに向け合い、2人は親密な時間を過ごす。20年後、当時のカラムと同じ年齢になったソフィは、その時に撮影した懐かしい映像を振り返り、大好きだった父との記憶をよみがえらてゆく。 テレビドラマ「ノーマル・ピープル」でブレイクしたポール・メスカルが愛情深くも繊細な父親カラムを演じ、第95回アカデミー主演男優賞にノミネート。ソフィ役はオーディションで選ばれた新人フランキー・コリオ。監督・脚本はこれが長編デビューとなる、スコットランド出身の新星シャーロット・ウェルズ。
ギリシャ・クレタ島のリゾート地を舞台に、10代の少女たちの友情や恋愛やセックスが絡み合う夏休みをいきいきと描いた青春ドラマ。 タラ、スカイ、エムの親友3人組は卒業旅行の締めくくりとして、パーティが盛んなクレタ島のリゾート地マリアへやって来る。3人の中で自分だけがバージンのタラはこの地で初体験を果たすべく焦りを募らせるが、スカイとエムはお節介な混乱を招いてばかり。バーやナイトクラブが立ち並ぶ雑踏を、酒に酔ってひとりさまようタラ。やがて彼女はホテルの隣室の青年たちと出会い、思い出に残る夏の日々への期待を抱くが……。 主人公タラ役に、ドラマ「ヴァンパイア・アカデミー」のミア・マッケンナ=ブルース。「SCRAPPER スクラッパー」などの作品で撮影監督として活躍してきたモリー・マニング・ウォーカーが長編初監督・脚本を手がけ、2023年・第76回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門グランプリをはじめ世界各地の映画祭で高く評価された。
「苦役列車」「まなみ100%」の脚本や「れいこいるか」などの監督作で知られるいまおかしんじ監督が、突然体が入れ替わってしまった男女を主人公に、セックスもジェンダーも超えた恋の形をユーモラスにつづった奇想天外なラブストーリー。 39歳の小説家・辺見たかしと24歳の美容師・横澤サトミは、街で衝突して一緒に階段から転げ落ちたことをきっかけに、体が入れ替わってしまう。お互いになりきってそれぞれの生活を送り始める2人だったが、たかしの妻・由莉奈には別の男の影があり、レズビアンのサトミは同棲中の真紀から男の恋人ができたことを理由に別れを告げられる。たかしとサトミはお互いの人生を好転させるため、周囲の人々を巻き込みながら奮闘を続けるが……。 小説家たかしを小出恵介、たかしと体が入れ替わってしまう美容師サトミをグラビアアイドルの風吹ケイ、たかしの妻・由莉奈を新藤まなみ、たかしとサトミを見守るゲイのバー店主を田中幸太朗が演じた。
文豪・谷崎潤一郎が同性愛や不倫に溺れる男女の破滅的な情愛を赤裸々につづった長編小説「卍」を、現代に舞台を置き換えて登場人物の性別を逆にするなど大胆なアレンジを加えて映画化。 画家になる夢を諦めきれず、サラリーマンを辞めて美術学校に通う園田。家庭では弁護士の妻・弥生が生計を支えていた。そんな中、園田は学校で見かけた美しい青年・光を目で追うようになり、デッサンのモデルとして自宅に招く。園田と光は自然に体を重ね、その後も逢瀬を繰り返していく。弥生からの誘いを断って光との情事に溺れる園田だったが、光には香織という婚約者がいることが発覚し……。 「クロガラス0」の中﨑絵梨奈が弥生役を体当たりで演じ、「ヘタな二人の恋の話」の鈴木志遠、「モダンかアナーキー」の門間航が共演。監督・脚本は「家政夫のミタゾノ」「孤独のグルメ」などテレビドラマの演出を中心に手がけてきた宝来忠昭。
奔放な美少女に翻弄される男の姿をつづった谷崎潤一郎の長編小説「痴人の愛」を、現代に舞台を置き換えて主人公ふたりの性別を逆転させるなど大胆なアレンジを加えて映画化。 教師のなおみは、捨て猫のように道端に座り込んでいた青年ゆずるを放っておくことができず、広い家に引っ越して一緒に暮らし始める。ゆずるとの間に体の関係はなく、なおみは彼の成長を見守るだけのはずだった。しかし、ゆずるの自由奔放な行動に振り回されるうちに、その蠱惑的な魅力の虜になっていき……。 2022年の映画「鍵」でも谷崎作品のヒロインを務めた桝田幸希が主人公なおみ、「ロストサマー」「ブルーイマジン」の林裕太がゆずるを演じ、「青春ジャック 止められるか、俺たちを2」の碧木愛莉、「きのう生まれたわけじゃない」の守屋文雄が共演。「家政夫のミタゾノ」などテレビドラマの演出を中心に手がけてきた宝来忠昭が監督・脚本を担当。