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「レイディマクベス」で憧れの“推し”=アダム・クーパーと夢の共演を果たす、天海祐希の野望とは!?【若林ゆり 舞台.com】

2023年9月30日 14:00

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「天海祐希としての可能性があるものを、本名の私が潰してはいけないと思っている」
「天海祐希としての可能性があるものを、本名の私が潰してはいけないと思っている」
撮影:間庭裕基 ヘアメイク:林智子 スタイリスト:東知代子 ブラウス、スカート/2点共に(ル フィル/LE PHIL NEWoMan 新宿店/TEL:03-6380-1960)

天海祐希といえばカッコいい女性、誰もが憧れずにはいられない“ハンサム・ウーマン”の代名詞のような存在だ。その彼女が、まさかこんなにも熱くヒートアップするなんて! そう驚かされたのは2017年、アダム・クーパーが主演するミュージカル「SINGIN' IN THE RAIN~雨に唄えば~」の制作発表記者会見で、天海が公演の“応援団長”として登壇、熱弁をふるったときのことだった。このミュージカルへの、そしてクーパーへのあふれんばかりの愛を爆発させた彼女は、フォトセッションでクーパーとのツーショットを撮影するカメラマンたちに「その写真送ってくださいよ!」と本気で頼んでいた。

それから6年。天海祐希は高揚している。舞台劇「レイディマクベス」で憧れの人、クーパーとの共演が決まったからだ。

「人生でまさかこんなことが起きるなんて思います!? 思わないでしょう。私も思いませんでしたよ。よく考えると恐ろしいこと。ご本人にお会いしてビジュアル撮影をご一緒したときでさえ『嘘っぽいな』と思ってしまって。『この方、本当にアダム・クーパーさんなんだろうか? 着ぐるみ着た方じゃないか?』と疑いましたから」

天海が初めてクーパーの舞台を見たのは、2014年の「SINGIN' IN THE RAIN~」。

「もう感動して大泣きしましたよ。内容的にもショービジネスの裏側が題材ですので心から共感できましたし、演出もすごかった。大量の水がばーっと舞台上に降ってきて、そのすごい水溜りのなかでアダムさんが歌い踊られるんですけど、あまりに素晴らしくて。舞台上の照明を一手に、すべて自分に集中させて、それを違う形の光として客席に向かって放たれるんですよ。だってアダムさんがピッと指差したら、レーザーのように指先からビームが出ているのが見えるんですから! 客席と舞台にはかなりの距離があるんだけれども、彼の表情ひとつひとつがすごく間近に感じられるんです。『すごいすごい、こういう現象が起きるんだ』と思って、また感動しました」

「ご縁があって次の『兵士の物語』という舞台を見たときにも、また感動して泣いて。そのとき、サインをいただいたんですよ。自分からサインを求めるなんてなかなかないんですけれど、どうしてもほしいから恥を忍んで『ください』と言いました。感動の余韻で泣きながら。ちょっと引いていらっしゃいましたけどね(笑)」

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そこまで憧れたクーパーと夫婦を演じる共演作は、シェイクスピアが書いた「マクベス」の登場人物であるマクベス夫人に別の光を当て、描かれなかった彼女のさまざまな面を掘り下げる意欲作。クーパーとは何度もタッグを組んでいる、ロイヤルバレエ出身のウィル・タケットが演出を担う。

「『マクベス』のなかに、マクベス夫人の背景や人生については書かれていないんです。ただ、『マクベスは王になるだろう』という魔女たちの言葉を自分のいいように解釈して、信じて、マクベスのお尻を叩いて実現させる。ひとりの人間を破滅に追い込むから、悪女とか悪妻だというふうに捉えられますよね。でも本当にそうなのか?」

「この作品の設定や概要をお聞きしたとき、『ああ、そういう視点もあるのか』と驚きました。この物語では、マクベスと夫人はお互い兵士だった過去があるんです。戦っていくことに関してものすごく精力的で、ふたりでやり遂げれば絶対何でも叶えられるという、自信と確信をもっていた間柄。結局、出産したことで不調を抱え、兵士に戻れなくなってしまったんですが、『この人には私がいて、私にはこの人がいる』という思いがあってのマクベス夫人なんです。ふたりの失敗は、恐怖心があったということなんですね。それが自分を滅ぼしていってしまう。だから本当は『悪人になりきれなかったんだよね』と思います」

「レイディマクベス」におけるマクベス夫人のなかでは、すべてが正義。愛ゆえに抱いた野望の裏に、何があったのか。

「マクベス夫人が望んでいたのは、本当に夫の王冠だったのか、自分を愛してもらうことだったのか。マクベスへの愛を通して自分を愛しているようにも思えるし、そこがうまくいかなかったのかもしれません。自分の信念、強い思いときちんと折り合いがつけられなかったような人じゃないかな。そこには想像する材料がたくさんあります」

「どういう受け取り方もできると思うんですが、だからこそ、見てくださった方が自分の状況、環境、感情にどう裏付けられて、どう感じるか。マクベスもマクベス夫人も予言を自分のいいようにしか聞かなかったように、自分がどう捉えたいかによって受け止め方は変わるし、自由です。だから、その人がいま置かれている環境とか、状況とか感情とかによって何を受け取ったのか、嫌悪でもいい、愛情でもいいですよ。尊敬でもいい。複雑で面白かったという感想でも、何でもいい。それはそのときの自分に裏付けられるものなんです。だからそのときに何を思ったか、なぜそう思ったのかを感じとって、自分と対話をしてほしいなと思いますね」

画像3撮影:間庭裕基 ヘアメイク:林智子 スタイリスト:東知代子 ブラウス、スカート/2点共に(ル フィル/LE PHIL NEWoMan 新宿店/TEL:03-6380-1960)

マクベス夫人は「マクベス」のなかで、名前を呼ばれることがない。一方で天海は、名前から逃れることが不可能。いつでもどこでも“天海祐希”という名前を看板として掲げ続ける宿命を背負っているからだ。それは、本人にとってはどういうものなのだろう。

「私も宝塚の下級生の頃までは、自分の本名と芸名というところで分けられると思ってたんです。でも、いつの間にか、本名の私よりも天海祐希を知ってくださっている方が多くなって。ということは、必然的に自分のなかでも天海祐希としての割合のほうが大きくなる。どういうことかというと、本名の私ならやってもよかったことが、天海祐希ではやってはいけないと思うことが多くなってくるんです。でもそれは、私にとってはよかったなと思っています。そうなると、めったなことをしないじゃないですか。それって人としても大事なことですから。道端を歩いているときなんかは『私は私』という意識で、個人的には本名の自分でいるんですけれど、人から見たらずっと“天海祐希”じゃないですか。すべてが私になっている状態のときは、部屋にいるときぐらいでしょうね、誰にも見られていないから。私は、それはありがたいことだと捉えています。天海祐希であることで得られたものを考えれば」

「でも実を言うと、そういうふうに考えられるようになるまでには結構時間がかかりました。『ありがたい』ということの本当の意味がわかってくるまでは『なんで?』と思うことも多かったんです。でもいまは、もう自分のなかで割り切っているんですね。私と天海祐希が併走している感じ。だから本名の私はもちろん私ではあるんだけれども、天海祐希としての可能性があるものを、本名の私が潰してはいけないと思っていて。『こうできるんじゃないか』という可能性があるのであれば、天海祐希としてそこを目指してちゃんと挑戦しなければいけないなと思っています」

画像4撮影:間庭裕基 ヘアメイク:林智子 スタイリスト:東知代子 ブラウス、スカート/2点共に(ル フィル/LE PHIL NEWoMan 新宿店/TEL:03-6380-1960)

それにしても、50代になってますますの魅力発揮、ますますの大活躍ぶりには目を見張るばかり。2022年は「広島ジャンゴ2022」、劇団新感線の「薔薇とサムライ2-海賊女王の帰還-」と2本の舞台に出演。高い評価を得て、第48回菊田一夫演劇賞の受賞という結果も出している。だが、いまの天海にはガツガツしたところは微塵もないし、それでいて攻める姿勢はもち続けているし、謙虚さを忘れずいろいろなことに感謝しているのがよくわかる。そして発する言葉から感じられるのは、「ポジティブ・シンキング」の塊のような気楽さと充実ぶり、清々しさだ。

「私ね、50代になってめちゃくちゃ楽になったんですよ。もう子どもは産まないでしょ、結婚もしない。ひとりが楽だもの。『こうしなきゃ』とか『こうした方がいいんじゃないか』みたいなことをどんどん切り捨てて行ったら、ものすごく大事なことが絞られて、シンプルになったという感じかな。ちゃんと自分で『これだけはしなければ』と思う核の部分をきちんともってさえいれば、あとは自由だしとっても楽なんです。どんどん年齢が上がっていくと無理がきかなくなるから、無理をしちゃダメ。無理をしなくていいように、いろいろなものを削いでいるんです」

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マクベス夫人は「なんとしても夫の王座がほしい」と野心を燃やしたが、天海自身が「これだけは絶対に手に入れたい」という強い欲望や野心を抱いたことはあったのだろうか。

「必ずこれを手に入れたいって、そこまで躍起になってほしがったものはないかも。でも、宝塚のときに『ほしい』と思ったものはちょっとありました。宝塚は、いつやめても自由なんです。でも私は、自分が何か『ちゃんとここにいたんだ』と証明できるような何かを残せなければ、退団できないなと思っていました。だから、そう言えるような、誇れるようなものがほしかった。私は高校中退だったし、宝塚も中途半端になってしまったら、私の人生全部、その後もすべてが中途半端になってしまうと思って。どこかひとつでも『ここまで行ったんだ』と胸を張れるものをちゃんとやってからやめたいと思いました。何かを成し遂げられたから中途半端じゃないってことじゃないですよ。この作品ができたから、この役を出来たから、もうここで充分なんだと思えれば、もうそれで多分、自分のなかでちゃんとやり遂げたことになったと思うんです」

「本当にありがたいことに、トップまで行かせていただいて。ちゃんと『宝塚にいました』と言えること、経験できたことによって次に行かれたこと、すごくありがたいことだと思っています。いまも、お客様に楽しんでもらいたいという欲はありますよ。見ていただいた方に『ああー、面白かった』とか『1週間頑張ろう』というふうな思いをもっていただきたいと、それはいつも望んでいます。でも、アダム・クーパーさんと舞台に立つなんて、そんな大それたことは思いもよらなかった。ジョイマンさんの後ろでジョイササイズをやりたいという野望はもちましたし、叶えましたけど(笑)。これは、望むとかのレベルを超えていますから!」

クーパーにとっても天海にとっても、チャレンジに満ちた世界初演。この舞台は、ひたすら誠実に走り続けてきた天海への、神様からのギフトではないだろうか。

「これだけの能力をもった舞台人とご一緒できるなんて機会は、一生に一度ですから。この時間を絶対無駄にしないようにしたいと思っています。緊張することによってできるはずのことができなくなるのも嫌だし、せっかくの時間を覚えていないなんてことになったらもったいない。この経験は何年後かの自分にものすごい、とてつもないプレゼントをくれるものになるはずだから。1回1回が奇跡のようなもの。体力と集中力、柔軟さをキープして、いい意味でのほどよい緊張を感じながら、大事にやりたいなと思います」

「レイディマクベス」は10月1日~11月12日に東京・よみうり大手町ホールで、11月16日~27日に京都・京都劇場で上演される。詳しい情報は公式サイト(https://tspnet.co.jp/whats-ons/ladym/)で確認できる。

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